昨年の秋、埼玉県児玉郡上里町にあるアグリビジネス関連の会社を訪問した。加工食品事業プロジェクトに取り組む同社の農機具庫には、無人運転できるトラクターが止まっている。しかし、畑まで移動するときは相変わらず運転手による運転だ。「技術的には行きたい畑の位置関連の情報を入力すれば、無人運転で目的地まで移動できるが、道路交通法などの法整備はまだできていないから、まだ有人運転だ」と見学を案内してくれた関係者が教えてくれた。

法整備などの課題はまだ残っていながら、日本でも無人運転時代がすでにすぐそこまで来ていることを実感した瞬間だった。

新しい技術に飛びつきやすい中国も車両の無人運転時代を迎える足取りを速めている。

■北京に「ロボタクシー」投入
昨年10月10日、乗用車リンカーンMKZを改造してできた40台の無人運転タクシー「ロボタクシー(Robotaxi)」が試乗運転のために北京に投入された。青と白の車体の上に、レーダーやカメラ、GPSなどの感知モジュールからなるちょんまげのような装置が取り付けられている。北京亦荘と海淀を中心に、2カ所のテストエリアが設けられ、無料の試乗運転が開始した。

利用者は携帯電話にある「百度地図」やApollo GOアプリを通じてワンタッチでロボタクシーを呼び、北京経済技術開発区、海淀区、順義区など数十カ所のサイトで直接予約して無料の試乗を楽しめる。現段階では、試乗に開放されたテストエリアの全長は約700キロである。

統計データによると、10月12日の予約件数は2608件で、ある乗降場では1日に最大600件の利用を受けたという。

メディアの報道を総合すると、現段階では、ロボタクシーの運転席には依然として安全担当者が配置されている。ただ、正常な走行期間中は安全担当者はハンドルに触れない。路面で事故が発生したなどの場合には、安全担当者がタクシーを手動で運転する。試乗者の話によると、路面が工事や渋滞、停車指令に遭遇した場合、ロボタクシーはまだ臨機応変に対応することができず、人間の運転に任せる必要がある。悪天候(大雨、ひょうなど)の場合には、安全を期するため、ロボタクシーはサービス提供を中止することになっている。乗客の乗降場所も指定されており、移動の利便性の向上が次の課題の一つとなっている。

利用者に対する年齢制限も設けられている。現段階では、北京の無人運転タクシーは18歳から60歳までの乗客2人しか乗車できないこととなっている。他の都市では65歳や70歳まで緩和されている。

それでも、利用希望者が多く、予約アプリにアクセスしてもなかなか予約がうまく成立できないケースが目立つ。マッキンゼー社の予測によると、中国は世界最大の無人運転市場になる可能性があり、2030年までに無人運転車の総売上高は2300億ドル(約23兆9000億円)、無人運転による移動サービスの売上額は2600億ドル(約27兆円)に達するという。

■20年は無人運転タクシー試乗元年、では商業運営はいつに?
中国のメディアも、無人運転タクシーの商業化運営にはまだ相当時間がかかるとみている。なかには、商業化運営の実現は早くても3年程度かかり、それまでは赤字との我慢比べが必要だと指摘する声もある。

19年9月、長沙市で無人運転タクシーのテスト運営を開始した。第1陣の45台は検索エンジンを主要業務としたバイドゥ(百度)が開発にかかわったApollo Robotaxiである。ただ、利用者が指定されていた。20年4月になって、これまでのテストの成果を受けて、一般市民への試乗開放に踏み切った。

19年11月末、広州市の広州開発区と黄浦区の144.65平方キロメートル範囲に及ぶエリア内の道路を無人運転タクシーの試験運行に開放した。これは中国の第一級都市で無人運転移動サービスを開始した初の実例となる。

20年6月末、ネットタクシー会社の滴滴も無人運転業界に参入し、上海市嘉定区で無人運転タクシーの試乗を始めた。

各地の無人運転タクシーの外観はほぼ同じだ。車体上部には、レーザーレーダー、GPSアンテナ、前方カメラ、側方カメラ、後方カメラ、超音波レーダー、ミリ波レーダーなどの高さ約60センチのセンサー設備が搭載されている。車の助手席には安全ボックスが置かれており、その中には消火器などの道具が備え付けられている。乗客は後部座席にしか着席できないようになっている。

こうした市場の動きを受け、交通運輸部(国土交通省に当たる)も、安全を確保する前提の下、法に基づきコンプライアンスに準拠して試行を展開し、自動運転技術の発展と応用の推進を加速すると積極的な態度を示し、広州、長沙、上海、武<!-- -->漢、滄州、北京、蘇州などの都市で展開されている無人運転の試験運営を積極的に支援している。

20年8月6日、世界初の自動運転の商業化規則である「無人運転タクシー運営規範と安全管理要求」が立案され、滴滴、百度などの中国企業が関連部門と検討している。現在、30余りの省・区・市が無人運転開放道路試乗業務の展開を許可している。

こうした動きを見て、20年は中国にとって無人運転タクシー試乗元年と記録されるだろうという声も出ている。25年までに無人運転タクシーの本格的な商業運営が実現できるだろうというのが大方の見方だ。無人運転車時代の訪れが確実に一歩一歩と近づいてくる。(莫邦富)