世界規模で急速に進展する経済のデジタル化は人々の行動や生活、社会経済に多大な影響を及ぼす。デジタル技術の進展は今後さらに加速するのは必至だ。デジタル技術で世界の先頭を走る中国について、具体的な事実や統計をもとに実証的に分析されている。
米国系の巨大ITであるGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)に続く中国のIT大手BATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)と新興IT群TMDP(バイトダンス、美団、DD、拼多多)などIT企業の動向も具体的に描かれる。小売、金融、通信を中心としたデジタル化の状況、中国政府のデジタル政策についての最新事情も参考になる。
日本メディアで紹介される中国関連情報は基本的に中国デジタル革命以前のものが大半で、「技術後進国」といった旧来の見方にとらわれがちだ。「半年行かないと違う国になる」と言われるほど動きが激しい最近の中国を現地で取材していない識者も多い。
著者は中国瀋陽市出身で東京工業大学大学院を修了。博士号を取得し、現在伊藤忠総研産業調査センター主任研究員。中国を熟知している気鋭の研究者ならではの豊富な現地情報と研究成果が盛り込まれ、類書にない説得力がある。
トランプ大統領が志向した対中デカップリング(切り離し)策や対中関税引き上げ策によって、中国経済やIT技術が却って強化され、米国内の消費者や製造業者に価格高騰や輸出減退などブーメランとなって重くのしかかっている。バイデン大統領は「民主国家か強権国家か」の体制選択を迫り、イデオロギー論法に舵を切ったが、いかにも時代遅れ。世界では中国型国家が圧倒的に多数派である。未曽有の大恐慌の後世界のブロック化が進み世界大戦に繋がった、戦前の暗い過去に回帰してはならない。
コロナ禍をいち早く封じ込め経済回復軌道にある中国は産業のデジタル化や低炭素社会の実現を目指し、新型インフラ政策を打ち出した。科学技術関連予算と民間投資を合わせた研究開発費は40兆円を超え、米国と肩を並べ追い抜く勢いだ。2025年までに約63兆円にまで増額。米ドル一極支配からの脱却狙うデジタル人民元構想も推進。米国を凌駕する目標に向かう中長期戦略も興味深い。
中国のGDP(国内総生産)はこの10年で倍増。2020年代半ばにも米国を凌駕する勢いだ。軍事優先で経済が破綻した旧ソ連と大きく異なり、バイデン米政権が「最も重大な競争相手」と警戒を強めるのも当然だろう。日本も中国のしたたかさと実力を冷静に見極める必要があろう。
日本企業の多くは中国に大きく依存。日本の輸出全体に占める中国のウエイトは2003年の約12%から2019年には約20%に拡大している。投資面でも2001年に中国がWTO(世界貿易機構)に加盟して以降は、「世界の工場」としてだけでなく「世界の市場」としての中国の可能性が急拡大。中国市場向けの地産地消戦略を推進する日本企業が増大した。中国国内の日系企業の拠点は3万を超え、国・地域別で最大。米国や欧州の企業の対中輸出投資も日本に次ぐ高水準になっている。軍事面での米中対立にも関わらず、経済面では米中の依存関係は強まるばかり。最先端の技術力によって世界の経済と技術をリードしつつあるチャイナテックの実態と展望に切り込む力作である。(東洋経済新報社、1700円=税別)