日米首脳会談の共同記者会見が終わった直後に、元外交官の天木直人氏が、自らの有料メルマガで首脳会談についての評価を発表した。専門的な知見を持つ人による文章としては、最も早く発表された論評と考えてよい。そこで天木氏のご了承を得て、要旨をご紹介することにした。以下は、天木氏が発表した文章からの抜粋だ。なお、ごく一部に限って表記などに補正を施したことを、お断りしておく。
日本時間で午前6時過ぎから始まった日米首脳の共同記者会見が、たったいま終わった。
それを見てこのメルマガを書いている。
全国で誰よりもはやく書く、今度の日米首脳会談の評価だ。
くわしくは、きょう行う予定の凌(星光)教授との対談を見ていただきたい。
そこで私と凌教授の評価は分かれるかもしれない。
しかし、自分の評価が当たっていると思う。
結論から言えば、菅首相の勝ちで終わったということだ。
その最大の理由は、共同声明が公表されないまま、共同記者会見で、今度の首脳会談の説明を菅首相がすべてを終わらせからだ。
もし共同声明が先に発表されていたら、そこに台湾が明記されたかどうか、そしてされても、されなくても、どういう議論がなされたか、記者から追及される事になる。
バイデン大統領と菅首相の答弁の違いが問題にされる。
それが避けられたのだ。
そして、首脳会談直後の唯一の発表の場である共同記者会見で、バイデン大統領と菅首相の間で見事な役割分担がなされ、中国の核心的利益に関する日米間のやり取りが見事に隠されて終わったのだ。
これは周到に準備された作戦だったに違いない。
共同声明はこのあと何らかの形で文書で公表され配布されるかもしれない。
しかし、もはやその時点では、共同声明はほとんど意味を持たないだろう。
その共同声明で何が書かれていようとも、その意味をいくら詮索しても、今行われた菅首相の共同威記者会見における答弁以上のものは出て来ない。
それほど詳しく、見事に準備された菅首相の共同記者会見の発表だったからだ。
以上を前置きした上で共同記者会見の模様をもう少し再現してみよう。
(午前)6時過ぎから始まった共同記者会見では、まず、バイデン大統領から話し始めた。
コロナ対策から始まって半導体を名指しにしたサプライチェーンの重要性、気候変動、などの主要問題に触れた後、東日本大震災への言及、マスターズの松山優勝などに言及し日米友好を示して見せた。
中国の核心的利益を見事に封印して見せたのだ。
その後に続いた菅首相の会見内容は、今度の首脳会談以前からさんざん報道された日本の立場の繰り返しだ。
すなわち、バイデン大統領との最初の対面相手に選ばれた光栄と、それが、いかにゆるぎない日米同盟関係の証明であるかの強調だ。
こんな事は、首脳会談をしても、しなくても変わらない決まり文句だ。
そしてその後は、日本が関心を持つ日米間の協力の羅列であり、拉致問題や東京五輪への支持を得た事に言及して菅首相の冒頭発言は終わった。
両首脳が中国の核心的利益に言及するのを避けた理由が、日本が米国を説得したのか、米国がケリーと楊潔●(よう・けっち。●は竹かんむりに褫のつくり。外相、国務委員などを歴任してきた中国の政治家)らとの話し合いで対中融和に転じたのか、それはわからない。
しかし、今度の日米首脳会談で中国をこれ以上刺激しないほうがいいという点で一致した事は間違いないだろう。
首脳会談の真相に迫る最後に機会である質疑応答に私は期待したが、これまた見事に中国の核心的利益、つまり台湾問題や人権問題が避けられた。
つまり記者の質問が限定され、それに対する答えも見事に役割分担された。
まずバイデン大統領が米人記者を指名し、米人記者は銃規制などの国内問題から始めた。
菅首相は答弁する必要はなく、次にバイデン大統領は菅首相の番だと振った。
菅首相への質問は、いきなり台湾問題や人権問題は話題にされたかというものだったが、菅首相はあっさり、話し合った事を認めた上で、その内容については外交上の問題であるから答えられないで終わった。
そして、バイデン大統領についてはこの事について誰も聞こうとせず、次にバイデン大統領に投げかけられたイランとの核協議だった。
これについても菅首相は何も答える必要はなく、そして次に菅首相に投げかけられたのは東京五輪やコロナワクチンで米国の支持が得られたかだった。
そして、それに対しては、共同記者会見で自分が述べたとおりだと、イエスといもノーとも言わずに終わった。
これもバイデン大統領に対しては誰も聞かず、大統領はひとことも言わなかった。
これを要するに、二人ともまったく別々に二つの質問に答えただけで終わった共同記者会見だった。
だから、バイデン大統領と菅首相の発言に食い違いが出る余地はまったくなく、「見事に準備された役割分担の記者会見だったのだ」で終わった。
ここまで書けば随分長い共同記者会見のようだが、質疑応答をふくめわずか30分だ。
そしてバイデン大統領はやばやとこれで共同記者会見は終わりだと菅首相を促して去って行った。
NHKの解説記者たちは解説する事は何もなく、ただ菅首相やバイデン大統領の発言を繰り返すだけで、この後される共同声明にどう書かれているかを見たいと言ってNHKの番組は終わった。
これは菅外交の完全な作戦勝ちだ。
というよりも、これは警察官僚の北村一人に任せた秘密外交、警察外交の勝利だ。
帰国後、国会では誰も追及できないだろう。
バイデン大統領との信頼関係が築けた、日米同盟関係は一段上の高見に格上げされたと菅首相は自画自賛し、それを否定しようものなら国賊もの呼ばわりされる。
その裏で、これから長きにわたって日本は米軍の指揮下に置かれ、中国との有事があろうがなかろうが、米国の軍事戦略に完全に取り込まれて行く。
因(ちな)みに菅首相は辺野古移設が普天間基地移転の唯一の策だという事を再確認したと共同会見でつけ加えていた。
かくなる上は、コロナでもスキャンダルでも選挙でも何でもいいから菅首相を政権から引きずり降ろさなければいけない。
日米首脳会談で持ち上げて、利用しようとした菅首相が、帰国した後で失脚したら、米国の思惑は外れる。
倒れる直前の日本の首相を見抜けなかったのかと、バイデン大統領は内外に恥をさらすことになる。
はたして訪米の後の菅首相は、強くなるのか、政局になるのか、それが問題である。(編集/如月隼人)