10日、英グラスゴーで開催中の「国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)」で、米中両国は今後10年間の気候変動対策での協力を強化するとした共同宣言を発表した。このニュースは異例なこととして、世界を駆け巡った。とりわけ日本においては、また「梯子を外された」という思いの有識者が多いのではなかろうか。

今回の共同宣言からは、次の幾つかの新しい動きが見て取れる。

1.米中対決が米中協調に?

トランプによってなされた対中圧力強化は、バイデン政権によっても継承され、台湾問題や「人権問題」での米中対立は先鋭化している。ところが、今回の共同宣言では、環境問題での米中協力がかなり具体的に書き込まれ、作業部会をつくって実効性のあるものにすることも決まった。中国は、米国が一方で中国を敵視し、他方で自分の都合の良い協力を求める姿勢など相手にしないと突っぱねてきた。気候変動問題で合意に達したということは、米側が基本的に折れてきたことを意味しよう。それは、近いうちにバイデン大統領と習近平国家主席のオンライン首脳会談が予定されていることからも推し量られる。

もちろん、バイデン政権は安全保障問題や人権問題などでは対中強硬姿勢を崩さないと言っているし、米国の世論も今のところ対中感情は悪く、公然と対中協調政策をとるわけにはいかないであろう。しかし、実際には、徐々に対中協力姿勢に転換していくと推察される。

2.対決の10年は協力の10年に?

多くの米国や日本の安全保障問題専門家は、米国は本気で中国を押さえつけようとしており、日本が入れ知恵したインド太平洋戦略を実行しようとしていると喧伝する。しかも、米中対立が20−30年は続くという。筆者はせいぜい10年と言ってきたが、その10年もかなり対決色が弱まったものになろう。というのは、米中対決によって最も困るのは米国自身であり、経済界からは早くから政策転換の声が上がっているからである。他方、多くの識者が語るように、中国も負の影響は受けるが、経済は引き続き好調で、ダメージはそんなに大きくはない。共同宣言で定めた2020年代の10年とは、気候環境問題での重要な10年という意味ではあるが、中国が米国を追い抜く重要な過渡期としての10年でもある。即ちトップ交代を如何にして平和的に実現するかの重要な10年なのである。

バイデン政権としては、来年の中間選挙で如何に勝利するかが重要課題だ。共和党のトランプ支持者と対中強硬策を競うよりも、対中協調で経済発展を遂げ、中所得者層拡大の公約を実現することこそ正解ではなかろうか。たとえ共和党が中間選挙で勝利したとしても、対中協調は時代の流れとして続けられる可能性が高いと見立てる。

3.真の多国間主義への転換

トランプはアメリカ・ファーストで同盟国を無視した。バイデンは同盟国重視を謳い、多国間主義に戻ったと強調する。しかし、それはNATOや日米安保条約を重視し、中国やロシアを敵視する多国間主義であり、冷戦思考に基づくサークル主義で、国連を中心とした真の多国間主義ではないと中国は批判している。だが、今回の米中共同宣言によって、COP26は真の多国間主義を体現することとなり、画期的な大きな成果だ。だからこそ、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、今回の発表は「正しい方向へ進む重要な一歩」と高く評価した。他の分野において、真の多国間主義が実行される保証はないが、気候環境問題に続いて、新型コロナ対策で共同歩調がとられる可能性は高い。それが米中信頼関係の醸成に繋がり、更に安全保障問題に広がっていく可能性も考えられる。

現在、安全保障面で、米国、日本、オーストラリア、インド、EUが一体となって、「中国の脅威」をけん制し、対中抑止力を高めていると喧伝されている。しかし、中国脅威論は虚構に過ぎず、中国の平和発展論と人類運命共同体論は徐々に受け入れられるようになっていこう。国連を中心とした真の多国間主義が、徐々に軌道に乗っていく可能性は大いにある。

4.米中主導の国際協調が始動するか?

ここ数年、米中対決が突出していたが、今回、米中協調が突出した。しかも、ケリー特使と解振華特使の何れもが、他の国をリードしていくような発言を記者会見で行った。それは温室効果ガスの二大排出国としての対策リードではあるが、更に広い分野での協調も潜在的には含まれよう。オバマ政権の時、2G(米中主導)が米国から提起され、中国がそれを拒否した経緯がある。EUや日本が不快に感じるだろうし、米国が中国を対等に扱うことは考えられなかったからだ。しかし、現在は状況が異なる。中国の国力は強化されたし、ここ数年の米中力比べで、中国はその存在感を示すことができた。今回、合意した宣言は、中国から見た場合、新型の米中大国関係、即ち「衝突・対決せず、相互尊重、協力ウインウイン」の体現に近い。当然、このような米中関係の発展を望むところである。

世界の憲兵にならない。これはオバマ政権、トランプ政権、バイデン政権の共通した認識である。ただ、バイデンは欧日同盟国及びインドと団結すれば、中国とロシアに対抗でき、抑え込むことができると考えた。しかし、それは中国の抵抗に遭い、不可能に近いと悟らざるを得なくなった。その上、中国は米国を敵視しておらず、対話の道を常に開いている。このような現実にバイデンは適応していかざるを得ないのである。

5.台湾の平和的統一が現実的課題に

米国の内政干渉によって台湾統一は妨げられてきた。今や西太平洋における力関係は根本的変化が生じ、中国が平和的に台湾を統一する条件が整ってきた。米国は国内法(台湾関係法)で三つの共同声明に公然と違反しているが、それに対しては、「国家統一推進法」を制定し、三年ないし五年内に粛々と実行していくことが考えられる。台湾の住民及び国際世論に道理を説き、世論を根本的に変えていくと同時に、「一国二制度」の仕組みを詰めていく。それは内政問題として両岸の人民によって制定されるものだが、周辺諸国の理解も得られるよう努力することが望まれる。台湾問題が解決されれば、東アジアの平和と安定が保障され、敵を想定しない共同安全の東アジア安全保障体制が構築される。当然、朝鮮半島の平和環境も整備されていく。

10月9日、国民連合によって「対中国外交の転換を求める」と銘打った緊急集会が開かれた。そこで論者が強調した共通の論点は「敵をつくるな」ということであった。今、日本では中国を敵視した台湾防衛論が盛んだが、実に危険な動きである。台湾の平和統一を促すことが、日本の安全保障につながる最良の道なのである。

6.日本外交のあるべき姿

日本外交は米中関係の従属関数にあると言われる。即ち対米追随外交である。戦後の歴史において、幾度か日本独自の外交を展開しようとする動きはあったが、結局、実を結ぶことはなかった。今世紀に入って、中国は目覚ましい発展を遂げ、日本を大きく凌駕するようになった。すると、中国脅威論が優勢を占め、ますます日米同盟強化、対中国抑止力強化の論調が世論の主流となった。とりわけ、ここ数年、米中対立が激化する中、日本の対中世論はますます悪化している。が、岸田政権が誕生し、米国と中国の双方に精通する林芳正氏が外相となった。日本の対中強硬派は対中弱腰外交を懸念するが、経済界をはじめとする多くの国民は対中外交の改善を期待する。今回の米中共同宣言の発表は、林外相が新外交を展開する好材料となろう。

当面、外交の継続性を考慮し、対中抑止力強化のインド太平洋戦略を継承せざるを得ないであろうが、明らかにそれは実体のないものであり、有名無実化していく。それよりも、大平正芳、大来佐武郎両氏らが推進した、中国を含むアジア太平洋戦略こそが、時代に叶った日本の推進すべき戦略なのである。遠くない将来において、その転換が図られるであろう。(福井県立大学名誉教授 凌星光)