7年近く前に、ランドセルを巡るある出来事が大きな日本中で大きな話題になった。2010年12月のクリスマスに漫画「タイガーマスク」の主人公「伊達直人」を名乗った人物が、前橋市の児童施設にランドセル10個をプレゼント。その後も素顔を明かさず活動を継続した。全国で反響を呼び、各地で同じような支援活動が相次いぎ、これをきっかけに全国の児童養護施設などにランドセルなどを寄付する「タイガーマスク運動」が展開された。その謎の人物「伊達直人」が、昨年12月東京で行われたプロレスイベントで初めて名前と顔を公表した。群馬県在住の会社員・河村正剛さん(45)だ。

河村さんは3歳の時に母親を亡くし、小学生時代はランドセルを買えず、手提げ袋で登校していた経験があるため、この活動を始めた。「自分の昨日より子どもたちの明日。そういう考えに切り替えて支援を始めようと思った」と実名を明かした経緯を説明した。「自分がやりたいことは伊達直人を演じることではなくて社会的養護の拡充だということを自分の中で強く思った。ならばあえて伊達直人を名乗るのではなく活動していきたい」。
  
◆若者たちが明るい希望を見いだせるように
           
同基金は、初代タイガーマスクの人気プロレスラー佐山聡氏を理事長に2011年に設立され、理事に河村氏ら15人が名を連ねる。「支援する側も支援される側も両方とも人間的に成長していく活動こそ、本物の支援活動」というのがその理念。就職支援、住宅支援、人間の成長、この3つのキーワードに、児童施設などを退所する若者の自立支援などを積極的に展開。若者たちが明るい希望を見いだせるよう、資金援助のほか、支援パートナーをマッチングする活動などを行っている。

河村さんは、基金への参加の経緯について、「元々20年前から支援活動をしていたが、個人での活動には限界を感じた。もっと大きなより良い活動をしたいと思い、基金に名を連ねた」と語る。

支援者による「初代タイガーマスク基金チャリティーパーティー」を随時開催。今年5月に東京赤坂のホテルで開催されたチャリティーパーティーでは、「伊達直人」のベールを脱いだ河村さんが初めて素顔で登場。「希望にあふれた子供たちの為に支援を一緒に続けていきましょう」と全国から集まった人たちを前に子どもたちへの支援を訴え、オークションを通じて多くの義捐金が集まった。

河村さんは「行政を動かし官民一体で取り組むことがベスト」と考え、自治体の首長にも直接働きかけ、恵まれない若者への支援を得ている。ふるさと納税でも、返礼品のかわりに「児童養護施設支援」を指定する人が増えているという。

養護施設出身者の成人式で貸衣装業者が無料で着物レンタルに応じるケースなど地域企業の協力も増えている。「子どもの貧困」に象徴される厳しい現実と闘うNPO法人などへの資金援助も行う方針だ。

◆子どもたちは涙を流すために生まれてきたんじゃない。

児童養護施設で生活した子どもたちの大学等への進学率は1割程度(全国平均5割程度)。また、進学できても卒業できる割合はさらに少ない。経済的な理由等により中退してしまうケースが多い。児童養護施設を退所した後、専門学校や大学等へ進学する子どもたちを支援する奨学金支援プログラムとして「カナエール」があるが、大学院の支援はない。ある男子大学生が、支援を打ち切られた際、同基金のパーティーでスピーチし支援者を募ったところ、スポンサーから資金援助を受けることができた事例もあるという。

「子どもたちは涙を流すために生まれてきたんじゃない。周りの人を笑顔にするために生まれてきた。この思いを胸にこれからも活動を続けていきたい」と目を輝かせながら熱弁をふるう河村さんの訴えに、多くの人が共感している。(八牧浩行)