米国と中国は世界1、2位の経済・軍事大国として対峙している。世界を牽引する「2トップ」として、米中が冷戦時代の米ソのように鋭く対立しないのは両国間に経済相互依存が存在するためである。事実上「新型大国関係」に踏み出したと言っても過言ではない。

2017年11月9日に北京で開催されたトランプ米大統領と中国の習近平国家主席のトップ会談。懸案の「北朝鮮非核化」で一致したほか、米中貿易不均衡是正のため2500億ドル(約28兆4200億円)以上の商談が成立。中国も悲願の「新型大国関係」を内外にアピールした。

広大な北京故宮博物院で開催された首脳会談の共同記者会見で、トランプ氏は「完全に北朝鮮を非核化することで合意した。経済的な圧力を強め、北朝鮮が無謀な道を放棄するまで続ける」と述べ、「北朝鮮非核化」で意見が一致したと強調。習主席も「安保理決議の全面的かつ厳しい履行を継続する」と応じた。

トランプ大統領は首脳会談の冒頭「米中関係ほど重要な関係はない。私たちには世界の問題を解決する能力がある。米中はウィンウィン関係を築く」と明言したが、これは習近平主席にとって待望していた言葉。トランプ氏は「習近平主席はすばらしい指導者だ」と褒めちぎった。両首脳は記者会見で、米中間の様々な分野で進行する協力の成果を強調。米国との「対等な関係」を意識した中国の動きは今後さらに高まりそうだ。

◆習政権、米国との合意は900件に

習政権の有力ブレーンである胡鞍鋼清華大学教授・国情研究センター長は、習氏が国家主席に就任した2012年以降「米中間で交わした合意は700件を超え、早晩900件以上になる」と指摘。米中は今回の首脳会談で両国が世界を牽引する「2トップ」として「新型大国関係」に事実上踏み出したと分析している。習氏はオバマ前米大統領との会談でこの言葉をアピールして米国から警戒された経緯があり、トランプ政権発足後はこの表現を避けてきた。しかし10月の共産党大会で基盤をさらに固め、2期目に入った習主席が、米国と互角に渡り合う「新型大国関係外交」に自信を深めたのは間違いないところだ。

胡教授は「世界1、2の大国が仲良くしなければ世界に“激震”が起こる。中国と米国の間に大きな太平洋があり、両国がステークホルダー(利益共有者)になることができる」と力説。「米中協力の数は数知れない。経済分野はもちろん、米国にとっての共同研究先の第1位は中国であり、両国は切っても切れない仲。互いに利益を共有しており、さらに協力すればさらに大きな成果が期待できる。習氏とトランプ氏に共同で新しい企画を持ちかけている」とし、米中が冷戦時代の米ソのように鋭く対立しないのは両国間に緊密な経済相互依存が存在するためという。

◆トランプ氏は中国を対等な仲間と見ている

呉心伯・復旦大学国際関係学院副院長兼アメリカ研究センター所長は「中国は米国との対立は望まず、競争と協力のバランスをとり共存、衝突は回避できる」と指摘。「オバマ氏は上から目線だったが、トランプ氏は中国を平等なパートナーと見ている」との認識も示し、「米中はゼロサム(一方の利益が他方の損失になること)ではなく相互依存関係にあり、ウィンウィンの関係だ。双方は経済貿易や北朝鮮の核ミサイル開発問題で連携できる」と強調した。

毎年米中交互に開催されてきた米中戦略・経済対話は、米中両国の主要閣僚や政府・経済界が経済や安全保障分野の懸案、国際的な課題について意見交換する大規模会議。毎年閣僚や政府関係者、経済界のトップクラス1000人近くが出席。トランプ政権になっても枠組みを変え引き継がれた。

米国との間で、日本にはこのような定期的な戦略的大規模対話はない。米中は互いの立場を暗黙裡に理解し合う「阿吽(あ・うん)」の関係にあるとの見方も多い。筆者は昨年も、中国各地で取材したが各地で米国企業が立地し、米ブランドのビルが林立、アメリカ人であふれていた。米国では中国語を幼児に習わせる家庭が急増しており、トランプ氏の5歳になる孫も中国語を学んでいる。

米国にとって最大の課題は巨額の米政府債務と経常赤字の縮減であり、破綻を避けるためには、世界最大の中国消費市場の取り込みが不可欠と判断している。中国は米国の最大の輸出相手国である上に、中国は米国債を1兆3200億ドル(約160兆円)も保有、外貨準備も3兆8000億ドル(約460兆円)と世界最大である。

米中間の波乱要因は貿易摩擦。米国の16年の貿易赤字7343億ドルのうち、中国は3470億ドルと全体の47%を占めた。米政府は米通商法301条に基づく対中貿易制裁措置を発動する構えである。ところが、中国では輸出入ともに外資系企業のウエイトが高く、輸出品の4割は外国企業が製造。対米輸出品に限ればその7割を多国籍企業をはじめとする米関連企業が製造しており、中国からの輸入品に高関税をかければ米企業が苦境に立たされる仕組。日本からの対米輸出のほとんどが日本企業によっているのと違いが際立つ。

中国も、米国と厳しい対立があっても衝突せず、対話で解決する「対立的共存」方針のもと、米中が互いに干渉せずに利益を追求する世界を志向している。国内向けには対立姿勢を見せつつ、米国と経済相互発展と武力不使用を改めて確認し合っているのが実情だ。

安全保障面でも米軍と人民解放軍は協力関係にある。米ハワイ諸島沖で2年に1度行われる米海軍主催の環太平洋合同演習(リムパック)に中国海軍も招待されている。米軍艦の上海港などへの寄港も頻繁だ。陸軍同士も非常時支援訓練などで米中が協力、空軍同士の交流も行われている。

◆米中、安全保障でも連携

米中の実情に詳しい松尾文夫・元共同通信ワシントン支局長によると、米中間には「相互確証破壊」(2つの核保有国の双方が、相手方から核先制攻撃を受けても、相手方の人口と経済に耐えがたい損害を確実に与えるだけの核報復能力を温存できる状態)が成立しており、核戦争ができない間柄にあるという。同氏は「これで結ばれた米中関係は日米間よりも深い」と見ている。

田中均・国際戦略研究所理事長(元外務審議官)は「米中関係がどうなるか関心を払わなければならない。米中間で貿易戦争になったら、日本や東アジアは大きなダメージを受ける。米中首脳間でグランドバーゲン(包括的取引)が成立することが日本とってもアジア諸国にとっても望ましい。経済的には米国は東アジアで建設的に、中国と話し合いをして関与すべきだ」と提言する。米中バーゲン(取引)の条件は(1)東シナ海、南シナ海で自制するか、(2)北朝鮮に本気で圧力をかけられるか―の2点。「米中協調が東アジアの安定と発展に望ましい」と語る。

朝鮮半島情勢でも米中の連携が進行している。ティラーソン国務長官は昨年12月12日、ワシントンで次のような趣旨の講演を行った。
<北朝鮮が崩壊する事態にそなえて、中国と既に話し合っている。核兵器をきちんと回収するため、米軍が南北を隔てる北緯38度線を越えて北朝鮮に進入したとしても、環境が整えば、米軍は撤退する。中国にはそう保証している。>

これは爆弾発言といえるが、外交トップの発言は重い。南北対話の機運が出てきたことや、米朝会談開催説などが取りざたされている展開をみると信憑性がありそうだ。トランプ大統領と習近平国家主席は11月9日の会談で、北朝鮮問題について「中長期」の方策を話し合うことで一致。これを受け、米中高官級の対話が進行しているという。

日本の外交専門家は「両国は水面下でつながっている」と分析。北朝鮮問題にとどまらず、北東アジア秩序にも関係する大きな構想だけに、米中には「大国である自分たちで主導したい」という共通認識があると見ている。日本を含む関係国にとって、頭越しに米中の連携が進行しているとすれば、「ある種の不安材料」(同専門家)と言えよう。(八牧浩行)

<続く>