「一人一箱しか買えなかった」、「高額だけど仕方がない」、「日本のオンラインショップで4時間も検索しているのに、買いたい商品はどれも売り切れだ」。

香港では、「新型コロナウイルスによる肺炎」の防護用マスクの確保に奔走する市民から、こんな悲鳴が上がっている。

香港は2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)が蔓延し、死者299人、感染者1755人を出した苦い過去がある。ウイルスという「見えない敵」と闘う怖さや厳しさは、身をもって経験しているから、伝染病に対して常に敏感だ。今回のウイルスが「新型のコロナウイルス」と判明する前の、「原因不明の肺炎」と言われていた昨年12月半ばから、市民の間で「第2のSARSか?」と警戒感が高まっていた。1月22日、香港でも初の感染例が出たと日中に発表されると、夕方には街を歩く人がマスク姿に変わった。自発的に警戒レベルを引き上げて自衛するほど、市民の意識は高いのだ。

マスクの着用は、SARSの時に手洗いと並行して身に着けた習慣だ。謎だったウイルスがSARSと同じ「コロナウイルス」と判明すると、「SARSよりも感染力が強そうだ」とか「こっちのウイルスは潜伏期間中も他人に感染するらしい」など、SARSと比較しながら情報を吸収できるので、その点は対処の際の強みかもしれない。

ところが、肝心のマスクは品薄状態が続いている。しかも、価格は高騰し、思うように調達できないのだ。

マスクは昨夏以降、政府への抗議デモ参加者によってすでに需要が高まっていたこともあって、香港での感染の疑い例が出た1月上旬に、早くも品薄気味になった。それでも当時はまだ1箱50枚入りの医療用マスクを50香港ドル(約700円)程度で買うことができた。しかし、香港で感染者が確認されると、マスクの需要が急増。「完売」の張り紙を出す薬局が相次ぐ中、価格は急騰していった。私が知る限りでも、50香港ドルで売られていたあるマスクは、春節直前には約4倍の238香港ドル(約3400円)で、春節休暇中には198香港ドル(約2800円)や298香港ドル(4200円)で売られていた。同じ商品でも、販売価格は店によってバラバラなのだ。

ネットでも、「昨日は100香港ドル(約1400円)だった商品が、今日は188香港ドル(約2600円)になっている」と悲鳴を上げている人がいた。最近では、5枚を一袋に詰めて30−40香港ドル(500円前後)で売られたり、1枚でばら売りされたりしている。当然、メーカー名も品質も表示はない。粗悪品やウイルス防護の効果がないマスクも出回っているようで、消費者員会では注意喚起をしている。

品薄状態が続いていることについて、業界関係者は、春節休暇で中国の工場が止まっていること。中国国内向けの提供が優先され、香港に回ってこないこと。中国本土客が香港で購入していることなどを挙げている。しかし、1か月もたたずにこれほど価格が跳ね上がるのは、非常事態に付け込んだ悪徳商法だとの批判の声も上がっている。

香港同様に中国本土の観光客が大勢訪れるマカオでは、マカオ政府が、市民に対して10日ごとに一人10枚まで安定的に行き渡る販売措置をとった。香港も民生品には上限価格を設定すべきではないかといった声も上がっている。香港政府は中国本土からだけでなく海外からのマスク調達に動いているというが、新型肺炎は急速に世界中で感染拡大を続けており、マスクの品薄と価格の高騰にイライラを募らせている香港市民は少なくない。(了)