国際アジア共同体学会が主催する日中シンポジウムがこのほど東京の国会議員会館で開催された。岡田充・共同通信客員論説委員が「虚構の『台湾有事』―日米の狙いはどこに」と題して講演した。日本政府と大手メディアが「台湾有事が切迫している」と危機感を煽り続けていると指摘。日米安保条約を「対中同盟」に変質させた日米両国が「台湾有事は日本有事」というキャンペーンを進める背景には、(1)自衛隊の南西シフトとミサイル配備を加速し、日本を対中抑止の最前線にする(2)台湾問題に対する中国の「レッドライン」(容認できない一線)を探る―狙いが透けて見える、と喝破した。

その上で、中国の脅威を煽って抑止を強調するだけでは、軍拡競争を招く「安保のジレンマ」に陥るだけだと警告。「安全保障とは、共通の敵を作って包囲することではない」「アジアと世界の経済で圧倒的な市場と資金力をもつ中国の包囲など不可能である」とし、「外交努力を重ね、中国と共存し地域の安定を確立する道を探ることこそ、衰退が目立つ日本の将来にとって不可欠な仕事だ」と強調した。

岡田客員論説委員の講演要旨は次の通り。

1、「レッドライン」引き出し、自衛隊南西シフト加速

中国軍用機が2020年夏以来、台湾海峡の「中間線」を越え、一時軍事的緊張が高まった。これらの軍事行動は、トランプ米政権の閣僚級高官の台湾訪問や、米軍艦船の頻繁な台湾海峡通過、台湾への大量武器売却など米政権の台湾関与エスカレートという「意図的挑発」への「報復」だった。

この構図は、台湾だけでなく香港、新疆ウイグル問題など、米国が中国の主権と領土にかかわる「核心利益」に意図的に干渉を開始した文脈から理解すべきだろう。1月に発足したバイデン政権は、中国を「唯一の競争相手」とし、「民主主義vs専制主義」の競争と位置付け世界を「新冷戦構造」に引きずり込むポジションを鮮明にした。

4月の日米首脳会談では、共同声明に「台湾海峡の平和と安定の重要性」を半世紀ぶりに明記、日本を「伴走者」に台湾問題を米中対立の前面に据えるのである。

その背景と狙いは①中国は米軍の「接近阻止戦略」能力を向上させ、米国だけでは対応不可能になった②日米安保を反中同盟に変え、台湾問題で日本を前面に押し出す③外交・軍事両面で中国を挑発し、中国の「レッドライン」引き出す―の3点を列挙したい。

「レッドライン」を引き出すための挑発の例としては、米軍輸送機の2回に及ぶ台北入りと、陸軍顧問部隊の新竹基地への一時進駐―を挙げたい。

2、台湾防衛に向け日米協力

日米安保体制に話を移す。3月の日米安保「2プラス2」では、岸信夫防衛相がオースチン国防相に対し「台湾有事で緊密連携」を確認し、「台湾支援の米軍に自衛隊がどう協力するか」の検討を約束した。

4月の日米首脳会談の際、岸防衛相があえて台湾に最も近い与那国島を訪問したのは、台湾防衛に日本政府が関与する姿勢を、蔡英文政権に送るシグナルだった。

台湾防衛に向けた日米協力について、尾上定正元空将は「日経」とのインタビューで、「(自衛隊と米軍)双方が共有する具体的な共同作戦計画の立案を」と提言。日本には「平時」から「有事」に切り替える仕組みがないことから「有事に向け憲法改正し緊急事態条項」を提案した。

さらに佐藤正久・自民党外交部会⾧も「中国が侵攻する台湾有事で、日米がどう動くかを規定する」日米安保ガイドラインを、年内に再度開く予定の「2プラス2」で改訂するよう提案した。

菅政権に移行したこの一年、日本政府の台湾関与が飛躍的に進んでいることが分かる。しかし国会や言論空間でほとんど議論のないまま、政府が前のめりになっている現状は、歯止めが効かないまま進んだ「いつか来た道」を想起させる。

3、日本も「一中政策」転換?

バイデン政権は米連邦議会とともに「一つの中国」の空洞化を進め、事実上の「一中一台」政策への転換を目指している。日本でも、中華人民共和国を中国の唯一合法政府として承認した「72年体制」を、台湾民主化を理由に見直すよう求める声が出ている。

台湾に3回にわたってワクチンの優先供与を決定したことや、政権高官の台湾関連の「失言」も目に余る。麻生太郎副総理は7月5日、中国が台湾に侵攻すれば、安全保障関連法に基づき「存立危機事態」と認定し、集団的自衛権の限定的な行使もありうると発言した。

中山泰秀防衛副大臣に至っては、6月の米シンクタンクのシンポジウムで、「台湾は兄弟であり、家族だ」と述べ、台湾を「国家」と述べた。

日米関係に詳しいマイク・モチズキ・ジョージ・ワシントン大教授は8月初め、私に対し「日本高官のこうした発言を聞き、米政権の中にも日本も一中政策を見直すのではという認識が芽生えつつある。日米両政府とも一中政策の再確認は是非必要」と述べた。

4、外交努力重ね地域安定を

 

習国家主席の国賓訪日が延期されて以来、日本政府は日米外交とインド太平洋外交に精力を集中している。転機を迎えている日中関係など眼中にないように見える。だが、中国の脅威をあおって抑止を強調するだけでは、軍拡競争を招く「安保のジレンマ」に陥るだけだ。

安全保障とは、共通の敵を作って包囲することではない。アジアと世界の経済で圧倒的な市場と資金力をもつ中国の包囲など不可能である。外交努力を重ね、中国と共存し地域の安定を確立する道を探ることこそ、衰退が目立つ日本の将来にとって不可欠な仕事だ。

日本政府と大手メディアが「台湾有事が切迫している」と危機感を煽り続けている。中国軍機が一時、台湾海峡周辺での飛行や演習を活発化したのは事実だが、それは中国の台湾武力行使の前触れなのか。日米安保条約を「対中同盟」に変質させた日米両国が「台湾有事は日本有事」というキャンペーンを進める背景には、(1)自衛隊の南西シフトとミサイル配備を加速し、日本を対中抑止の最前線にする(2)台湾問題に対する中国の「レッドライン」(容認できない一線)を探る―狙いが透けて見える。(主筆・八牧浩行)