中国AI業界には“AI四小龍”と呼ばれるユニコーン4社がある。最近、その中で最大の、商湯科技(センスタイム)の上場申請が伝えられた。他の3社は、すでに上場を目指して動き出している。真打ちの登場により、中国AI界は新しいステージへ進むのだろうか。

■AI四小龍…創業者は米国仕込み

米国スタンフォード大学によれば、中国のAI関連論文数は、2017年から世界一となっていたが、2020年には論文引用数でも世界一となった。明らかに影響力を増している。その社会実装をリードするのが、AI四小龍である。

商湯科技(SenseTime)…2014年4月、上海。創業者・湯曉鷗(香港中文大学教授、マサチューセッツ工科大学博士)人工知能、顔認証、自動運転。

曠視科技(Beijing Megvii Co., Ltd)…2011年10月、北京。創業者・印奇(清華大学卒、コロンビア大学博士)ディープラーニング、IOT。

依図科技(Yitu)…2012年9月、上海。創業者・朱瓏(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)顔認識、人工知能。

雲従科技(cloud Work)…2015年4月、広州。創業者・周晞(中国科技大学修士、イリノイ大学博士)人工知能、ロボット操作。



創業者たちの共通点は、米国の大学でコンピューターを学んでいることだ。以下個別に見ていこう。

■商湯科技…香港市場IPOを計画

AI四小龍の中で、最も存在感を放っているのは「商湯科技」である。NHKのドキュメンタリーにも取り上げられ、国内でも“神秘的企業”とされている。これまでIPOに興味はない、と見られていたが、2021年8月末、香港市場へIPO目論見書を提出した。実現すればAI関連では世界最大のIPOと見られ、正真正銘の真打ち登場である。クアルコム、ホンダ、ファーウェイ、シャオミ、アリババ、ソフトバンク、テマセクなどのそうそうたる企業と取引または資本関係があり、売上も4社の中では頭一つ抜けている。しかし、欠損の大きさもまた同様だ。(売上/欠損)

2018年 18億5300万元 34億3300万元  

2019年 30億2700万元 49億6800万元  

2020年 34億4600万元 121億5800万元  

2021年(上半期) 16億5200万元 37億1300万元

3年間の欠損合計は、242億7200万元(約4180億円)にも上る。目論見書によれば、調整後の3年間の実質損失は28億6100万元という。上場すれば、企業価値があからさまになってしまう。

■曠視科技…香港IPO失敗、科創板へ

曠視科技は、4社の中で最も早くIPOへ動いた。2019年8月、香港証券取引所へIPO目論見書を提出した。しかしその後6カ月アクションを起こさず、香港IPOはさたやみとなった。

その後、上海科創板市場(ベンチャー市場)へIPO申請し、3月中旬に受理された。半年後の9月上旬、科創板市場上場委員会の審議が行われ、主要顧客CDRの発行を通じて60億1800万元を調達する、と発表した。本上場へ向けた動きだろう。(売上/欠損)

2018年 8億5400万元 28億元

2019年 12億6000万元 66億3900万元

2020年 13億9100万元 33億2700万元

2021年(上半期)6億6900万元 18億5800万元

売上は停滞気味だが、損失は改善傾向だ。アリババ、アント・グループなどアリババ系が29.41%の株式を所持している。

■依図科技…科創板IPO取下げ、香港へ再チャレンジ

依図科技は2020年末、上海科創板市場へ申請を行った。しかし、2021年7月上旬、上海証券取引所は、依図科技のCDR(預託証券)の新規公開ならびに、科創板市場への上場審査を終了する、と発表した。

2020年末、刑法が修正され、今年3月1日に施行された。株式の不正発行、偽情報の流布などが、15年以下の懲役、罰金は無制限に厳罰化された。その結果188社のIPO審査があえなく終了、IPO市場は一旦崩壊した。依図科技はその中で注目の1社だった。この時は一旦停止とされたが、6月末、正式にIPO申請を取り下げたため、上海証券取引所が改めて終了を宣言した。(売上/欠損)

2019年 7億1679万元 6億4713万元

2020年(上半期)売上3億8063万元 13億345万元

現在は、香港証券取引所へのIPOを検討している。香港は上海科創板に比べ、上場基準は緩い。依図科技はここ1年、融資記録がなく、資金調達に窮している可能性がある。

■雲従科技…最初のIPOとなるか

雲従科技は2020年12月上旬、上海科創板市場へのIPO申請が受理された。その後7カ月以上、質疑の状態に留め置かれ、7月末にようやく通過した。これまでの融資は、すべて国内ファンドによるもので、それも、中国互聯網投資基金、上海国企改革発展股権投資資金、工商銀行など政府系ファンドや国有銀行が多い。そのため雲従科技は“国家AI隊”と呼ばれる。しかし、こうした投資者の存在は、開発加速へのプレッシャーになっている。(売上/欠損)

2018年 4億8000万元 1億8000万元

2019年 8億1000万元 17億1000万元

2020年 7億5000万元 6億9000万元

2021年(上半期)4億5500万元 3億3400万元

売上も損失も年ごとのブレが大きい。

■IPO成功に賭ける

未来のAIライフを華々しくぶちあげる「AI四小龍」だが、財政的にはどこも火の車であった。最も重い負担は、研究開発費である。しかしこの投資を怠れば、百度、テンセント、ファーウェイなど、大企業の潤沢な研究開発費に対抗できない。

4社とも香港または、上海科創板市場へのIPOを模索している。果たしてそれが成功するかどうか、ここ1年が「AI四小龍」の生死を分けそうだ。新ステージへ向かうのはその先になるだろう。