米政府関係筋によると、バイデン政権は中国製品に課す制裁関税を引き下げる方針である。物価の大幅上昇に米国民の不満が高まっているためで、バイデン大統領はアジア訪問から帰国後に決断する。トランプ前政権が課した制裁関税を引き下げれば、米中対立の緩和や世界経済の発展にも寄与すると期待されている。バイデン政権は習近平中国国家主席との首脳会談をリモートで5月末にも開催することを計画している。

米通商代表部(USTR)は5月上旬、制裁関税の発動開始から4年が経過するのに合わせて見直し作業を始めた。イエレン財務長官は約40年ぶりの高インフレを抑え込むため、対中関税の引き下げの必要性を唱えている。

バイデン大統領は5月23日、東京での日米首脳会談後の記者会見で、対中関税引き下げを「検討している」と明言。イエレン財務長官と帰国後に協議すると明らかにした。米政府筋によると今秋の米議会中間選挙前に実施されるという。

サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は対中関税引き下げを巡り「(大統領が)必要との情報を得れば速やかに決断する」と言明した。

バイデン大統領は関税引き下げが物価抑制につながるか分析するよう政権内の経済チームに指示し、既に詳細な報告書を受け取っているという。

対中関税は2018年、中国の知的財産侵害に対する制裁という名目で発動された。全米小売業協会は5月18日、バイデン大統領への書簡で「対中関税の削減はインフレ圧力を和らげる」と決断を促した。米ピーターソン国際経済研究所の試算によると、対中関税など前政権がかけた関税をやめれば、消費者物価指数(CPI)を1.3ポイント引き下げる効果がある。特に米産業界ではコスト負担となっている関税の削減を求める声が多い。

ロシアによるウクライナ侵攻の影響もあり、4月のCPI上昇率は前年同月比8.3%と約40年ぶりの高水準が続く。資源高によるガソリン価格高騰や食品高などで消費者や企業経営者の不満は募る。米国の1〜3月期実質国内総生産(GDP)はマイナスに転じており、インフレの進行が企業業績にも波及しつつある。

米中間選挙が半年後に迫る中、バイデン政権は長引くインフレなどで支持率が低迷し、与党・民主党は上下両院での過半数維持が危うい状況だ。インフレ抑止はバイデン政権にとって最優先課題である。

トランプ前政権は中国の知的財産権の侵害を食いとめるため、2018年7、8月に、25%の制裁関税をかけたが、この関税引き上げが米国の物価高を招いている。早くから関税引き下げを提唱するイエレン財務長官は、物価抑制に「望ましい効果がある」と指摘する。5月18日には、前政権が課した関税が「消費者や企業に損害を与えている。中国問題に対処する点でも戦略的ではない」と言明している。

中国商務省は「追加関税の廃止は米国の消費者や企業の根本的な利益と一致し、米中そして世界にとって有益だ」としている。中国の有力大学教授は「追加関税の撤廃は輸出再加速のきっかけとなる。米中対立の象徴だった制裁関税が減免されることの意義は大きい」と期待している。

米政府関係筋によると、バイデン大統領は習主席とのリモート首脳会談を5月末にも開催することを計画。米政権としてはバイデン大統領のアジア訪問で「中国けん制」を明確にした後、中国での膨大な貿易・投資権益を有する金融・産業界の意向を受け、中国との協議を志向しているという。インド太平洋経済枠組み(IPEF)に台湾が含まれなかったことで中国側も会談に応じる機運が醸成されたとみられる。さらに対面による米中首脳会談も、11月15〜16日にインドネシアのバリ島で開催されるG20(20カ国首脳会合)か、11月18〜19日にタイで開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力)サミットでの開催が計画されているという。(八牧浩行)