5月20〜24日のバイデン米大統領のアジア歴訪で、「インド太平洋経済枠組み(IPEF:Indo-Pacific Economic Framework)」が始動した。「繁栄のためのインド太平洋経済枠組みに関する声明」によると、この枠組みは「経済の強靱性、持続可能性、包摂性、経済成長、公平性、競争力を高めることを目的とする」ものだ。

この枠組みの参加国は、米国、日本、インド、ニュージーランド、韓国、シンガポール、タイ、ベトナム、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、オーストラリアの13カ国で、東アジア地域の経済大国である中国が名を連ねておらず、「中国外し」の意図が透けて見える。

現在、中国は世界経済での地位が向上し、世界のサプライチェーンでも存在感を増している。中国も多国間主義を旨とする経済外交を展開し、世界資本主義と結びついた上での発展を模索している。そのため、中国抜きで世界経済を語れなくなっている。

■中国人学者が指摘するIPEFの三つの“弱点”

中国メディアでも専門家の評論が掲載され、注目度の高さがうかがえる。

『人民日報』系の国際専門紙『環球時報』に5月21日に掲載された評論記事は、「インド太平洋経済枠組み」には「先天的に欠陥があり、三つの“弱点”を直視する必要がある」と述べた。

一つ目の“弱点”は、「枠組み」の目的が「あやふや」なことだ。記事は、「一部の米メディアが喧伝した地域サプライチェーンの弾力性、公平な貿易の促進、インフラの連結、クリーンエネルギーと低炭素環境保護技術などの問題を解決するのか、それとも米政府が中国を抑制・均衡させようとする新たな措置を隠そうとしないのか、それともインド太平洋における地政学的影響力を形作り、地政学的安全保障の影響力との間の不均衡を是正するために米国が混じっているのか分からない」とし、「(この枠組みは)、『米国のため』なのか、『インド太平洋国家のため』なのか」はっきりしないと述べた。

二つ目の“弱点”は、「損得ばかりを気にかける」ことだ。記事は、「インド太平洋経済枠組みの理念には、米国が高らかに敷いた排他性の下地、日本が宣言したアジア各国と協力して中国に対抗することを目的とする封じ込め思考がにじみ出ている」と指摘する。

三つ目の“弱点”は、「枠組みルールが支離滅裂」なことだ。記事は、「日米の地政学的ニーズのために域内諸国が受けるはずの関税削減や市場アクセスなどの強固なルールの支えを犠牲にし、さらにはより多くの国を米国に従わせて踊るために、包摂性と公平性という恣意的な解釈をしている」と指摘した。

『環球時報』の評論記事は以上の3つの“弱点”を指摘し、もともと完璧なものでない「インド太平洋経済枠組み」が動き出したのは、米国の政治的意図が大きいことを強調している。

記事はさらに、「バイデン政権が米中競争の激化に対応し、ロシア・ウクライナの衝突が続いている中で練り上げた青写真の本質は、経済という大義名分で可能な限り中国の影響力を封じ込め、インド太平洋における米国の地政学的主導力を確立することだ」と米国の「冷戦政策」を批判した。

■中国排除の枠組みは経済協力のルールを無視している

新浪ネットの「オピニオンリーダー」チャンネルに掲載された、中国人民大学重陽金融研究院の何偉文・上級研究員の記事は、経済の角度から、「インド太平洋経済枠組み」について述べている。

まず、何氏は、この枠組み「インド太平洋」という呼び名だが、「インド太平洋」の最大国である中国が含まれていないと指摘し、この枠組みは中国の「代替品」としての色合いが強いと指摘する。

何氏はまた、「インド太平洋経済枠組み」がカバーする地域経済の概念は「偽の命題」とし、中国を除いた南アジア地域と東アジア太平洋地域の国に域外の国である米国を加えたものと述べ、「インド太平洋経済枠組み」の不完全性を指摘した。

何氏はさらに、東アジア・大洋州地域自体は比較的整った分業と産業チェーンを持ち、中国はそこで中心的存在であり、米国とインドを除く「インド太平洋経済枠組み」の創設メンバー国は、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)加盟国で、RCEP 15カ国の輸出は世界の30%を占め、うち中国は半分近くを占めていると指摘した。

2021年の中国とRCEPの他の14カ国との貿易総額は1兆8678億9000万ドルで、米国との貿易額は8021億4000万ドルにすぎない。また、「インド太平洋経済枠組み」はASEANを中心とするといわれているが、ASEANと中国の貿易額も米国との貿易額の2倍以上に達している。このことは、東アジアにおける中国の影響力が大きいことを示しており、同国の排除を目指す枠組みは不完全であることを示している。

したがって、すでに存在する域内の産業チェーンに取って代わるチェーンを構築することは、政治的な要因によるところが大きく、オバマ政権の「アジアへの回帰」とTPP交渉の焼き直しのような感がある。この枠組みの産業チェーンと既存の産業チェーンとの競争になろうが、その後どうなるかは今後の展開を見る必要がある。

中国は国内市場を中心とした双循環戦略をとっているが、それは閉鎖を前提にしたものでなく、対外開放も堅持している。中国は「自主イノベーション」を重要課題としており、一部の技術は世界トップを行っているが、先進国との開きがまだあるものもある。そのため、中国は「外国に学ぶ」姿勢を堅持し、世界との交流の「ドア」をオープンにしている。

■「冷戦思考」は時代遅れ、「新思考」で中国と付き合うべき

何氏は、「インド太平洋経済枠組み」のサプライチェーン戦略も「偽の命題」として批判する。氏は、チップなどの分野で、中国を排除した「安全な」サプライチェーンを構築することが目的の一つだが、中国を排除したチップ・サプライチェーンは完全なものでないと指摘する。

何氏によれば、世界のチップ生産で、中国の存在を抜きには語れない。チップ・サプライチェーンの供給側と需要側を考えても、中国を排除するのはメリットが大きくない。供給側についていうと、中国から供給されるレアアース磁性材料がなくなり、チップが生産できなくなる。中国が提供する洗浄、マイクロフロー制御、レーザー技術がなければ、フォトリソグラフィも完成できない。需要側についていうと、中国は世界最大のチップ市場であるため、チップのサプライチェーンは世界的なものとは言えなくなる。

何氏は最後に、「『インド太平洋経済枠組み』は貿易協定でも経済共同体でもなく、多国間貿易のルールを守るつもりもない。このような枠組みはどのくらい持つだろうか」と結んでいる。

前述のように、「インド太平洋経済枠組み」は米国を中心とする西側諸国の「冷戦政策」を反映したものと言える。かつての世界は、資本主義陣営と社会主義陣営が存在した。冷戦時代の社会主義の教義では、社会主義世界と資本主義世界は共存できないとされていたが、現在は「戦争と革命の時代」ではなく、世界各国の経済上のつながりは強い。かつてのように、世界に「二つの市場」が存在することはあり得ない。

何氏や前出の「環球時報」記事は、「冷戦思考」に基づいた世界観への批判という立場に立って論じている。「冷戦思考」を排して、資本主義国と共存し、経済上の交流を活発化するというのが、改革開放以来の中国の外交方針だ。現政権の掲げる「運命共同体」の構想も、米国に対抗するというものではなく、各国との「ウィンウィン」を模索するものだ。

中国国内には問題がいくらかあるが、それが西側の中国に対する「偏見」の源になっている。だが、中国はこれまで長期的視点で問題解決に取り組む姿勢を堅持しており、現在の流れを見る限り、その姿勢に変わりはない。

現在の中国が掲げる構想が「本物」かは、今後の中国の政治・経済・社会の発展の動向を見る必要がある。