宇宙航空研究開発機構(JAXA)の探査機「はやぶさ2」が小惑星「りゅうぐう」から持ち帰った砂の中から、アミノ酸が多数見つかったとこのほど報じられた。アミノ酸は生命を形成するたんぱく質の材料となる物質。地球の生命が、宇宙空間から隕石などによって運ばれてきた材料により生成されたとする学説を補強する新発見で、改めて宇宙の神秘に思いをはせた人も少なくなかっただろう。そんな人にお薦めしたい本がある。2017年に太陽に接近した物体が、地球外の知的生命体によって作られたのではないかとの仮説を提示した「オウムアムアは地球人を見たか?」(アヴィ・ローブ著、早川書房、2022年。なお、原題は「Extraterrestrial=地球外生命体」で、邦題はいささか煽情的すぎる)だ。

◆オウムアムアは地球外テクノロジー?

私事で恐縮だが、私は少年時代、いわゆる天文ファンのはしくれだった。望遠鏡で月面や惑星を観測したり(初めて土星の輪を見たときの感動は忘れられない…)、流星群の活動時期に山に登って草むらに寝ころびながら流星を数えたりしたものだった。現在は望遠鏡も手放し、夜空を見上げる機会はめっきり減ってしまったが、それでも宇宙に関する新発見のニュースに接するたびにかつての天文少年の血が騒ぐ。そんな私を最近ワクワクさせてくれたのが「はやぶさ2」のアミノ酸発見のニュースであり、「オウムアムアは…」の読書体験だった。前者については広く報道されたので、ここでは後者について紹介したい。

2017年秋、はるか宇宙の果てから太陽系にやってきた一つの小さな物体が、太陽をかすめてふたたび宇宙の彼方に消えていった。ハワイ語で「斥候」「偵察兵」を意味するオウムアムアと名付けられたこの物体は、最初はよくある彗星か小惑星かと思われたが、観測の結果、特異な特徴を2つ有していることが分かった。一つは、長軸と短軸の比率が10対1(ある推計では90メートル×9メートル)という極端に細長い形をしていること。もう一つは、太陽から離れて飛び去る際、「この天体は太陽の重力に束縛されていなかった」。要するに、宇宙船を思わせる形状をしており、さらに何らかの人工的な動力を備えていた可能性があるわけで、筆者ローブは「オウムアムアは地球外テクノロジーかもしれない」と主張する。

この説を怪しいUFO研究家が唱えているのなら眉に唾を付けるところだが、ローブは2017年当時ハーバード大学の天文学科長を務めていた人物。学会の大勢は地球外テクノロジー説には否定的なようだが、こうした刺激的な仮説を公表したことを高く評価したい。

◆「高度に発達した文明は自滅する」

この本にはもう一つ、非常に興味深い指摘があった。宇宙のどこかで高度に発達した文明があったとしても、それらは比較的短期のうちに自滅している可能性がある、という見方だ。そして、オウムアムアがそうした死滅した文明の遺物である可能性を示唆している。

ローブは言う。「銀河系に2000億個ある恒星のおよそ4分の1の周りを地球と同じく生命居住可能(ハビタブル)な惑星が回っており…知的生命がどこかで進化している可能性は非常に高い」。それにもかかわらず、これまで地球外知的生命体が存在する証拠―それらの文明が発する電波や、探査機など―は確認されていない。その理由として考えられるのが、ある文明が電波を発信したり宇宙へ探査機を送り出したりできる段階に達したときは、「気候変動か、核兵器、生物兵器、化学兵器による戦争かを問わず、自滅するに足るほど技術が成熟したとき」だ。別の言い方をすれば、文明が高度に発展すればするほど、自らが排出・製造した有害物質や大量破壊兵器により社会がぜい弱化し、長続きしにくくなるということだ。

この指摘は、現時点で存在が確認されていない地球外文明に対しては推論に過ぎないが、われわれ地球人類には完全に当てはまる。ローブは続ける。「油断していると、私たちの文明にとって向こう数世紀が最後の数世紀となることも十分ありうる」。この”予言“が現実のものとなった場合、知的生命体としての人類は、わずか数万年(文字の使用を文明の始まりとした場合、1万年足らず)でその”寿命“を終える。地球46億年の歴史の中ではほんの一瞬に過ぎない。

◆非常に危険な「残り100秒」

ローブの指摘を一笑に付すことはできない。一段と深刻化する気候変動。「必要なら核兵器を使用する」と公言するロシアによるウクライナ侵攻。人類文明の自滅は、決してありえない事態ではない。

米国の科学雑誌「ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ」は、人類の終末までの残り時間を示す「終末時計」を毎年発表している。1947年に「残り7分」で始まり、東西冷戦期に「2分」まで進んだ後、冷戦の終結で「17分」まで戻した。しかし、その後の地球温暖化の進行や米国と中国・ロシアの対立、北朝鮮などの核兵器保有、さらに新型コロナウイルスのまん延などを背景に、1月発表の2022年版は前年に続き「残り100秒」と、過去最短となった。同誌は「世界は非常に危険な状態にある」と警告している。

このままだと2023年の終末時計はさらに進むのは確実。人類は、自滅に向けた流れを食い止めることができるのか。当面、ウクライナ危機がどう動くかが焦点になるだろう。