中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカの新興5カ国(BRICS)グループにイランとアルゼンチンが加盟を申請したと伝えられる。果たしてBRICS拡大は実現するのだろうか。

◆G7に対抗する枠組みを画策−中露

中国とロシアがBRICSを拡大し、主要7カ国(G7)などに対抗するためのより強力な連携枠組みづくりを画策しているのは確かだろう。実際、BRICSの今年の議長国である中国はロシアの協力を得て加盟国拡大に向け積極的に動いてきたふしがある。

中国は5月のBRICS外相会議に続き、6月下旬からBRICSビジネスフォーラム、第14回首脳会議、さらに途上国を招いた拡大会合と、いずれもオンライン形式で立て続けに主催した。首脳会議閉幕に当たり発表された「北京宣言」では「BRICSメカニズム拡大に関する加盟国間の協議を促進する」とうたっており、中国外務省報道官はイランとアルゼンチンの加盟申請に関し、歓迎すると表明した。

こうしてみると、両国の加盟が認められBRICS拡大が早期に実現するような印象を受けるかもしれない。しかし、そうはならない可能性が強い。なぜならBRICSの一角、インドが加盟国を増やす動きに事実上“待った”をかけているからだ。「BRICSが西側に敵対する枠組みになることには反対」というのが、インドの公式立場とされている。日本の外務省関係者は「インドは日本、米国、オーストラリアとともに外交安全保障の枠組み『クワッド』の一員である以上、そうやすやすと中国の思惑に乗ることはあり得ない」と指摘する。

◇中印国境紛争が両国関係の妨げに

インドがBRICS拡大の動きに“待った”をかける最大の理由について、筆者が取材した複数のインド専門家は「中国の影響力増大に対しインドが強い不信感や警戒心を抱いているから」と口を揃える。最近、インドが経済面で中国との関係を緊密化させているのは事実。インドのモディ首相と中国の習近平主席は「これまでに対面での会談だけでも15回以上話し合っている」(インド有力紙)ほど近しい関係にある。

それでも、「インドと中国の関係を見る上で絶対に無視できないのは、両国間には深刻な国境紛争があるということだ」とインド専門家は強調する。1962年に両軍の大規模な衝突「中印戦争」が勃発。最近でも2020年6月にインド北部の係争地で両軍がぶつかり、多数の死傷者を出すなど軍事的緊張が続いた。

しかも、今回のBRICS首脳会議直前には、再びインド北部の係争地で中国側が巨大な橋を建設しているとインド各紙が報じ、中国が大規模な部隊を展開するためのインフラ整備との疑いが浮上した。インドのジャイシャンカル外相は中国側の動きに関し「中国との関係は正常でない」と述べ、両国間関係の根本的進展のためには国境紛争が妨げになっていることを示唆している。

◆アルゼンチンに「中国は不可欠な存在」

実はインドの懸念はこれだけではない。加盟申請したアルゼンチンへの中国の影響力増強にも神経をとがらせているようだ。近年、アルゼンチンと中国との貿易・経済関係が急速に発展。フェルナンデス大統領は今年2月の北京五輪開会式に招待され訪中、習近平国家主席の「一帯一路」への正式参加を表明した。両首脳は「包括的・戦略的パートナーシップの深化に関する共同声明」を発表。アルゼンチンの10件の重要インフラ・プロジェクト支援のため、中国が230億ドルを超える融資を行う方針が明らかにされた。加えて両政府は、農業開発、デジタル経済、宇宙開発、原子力、イノベーション、地球科学といった分野での協力に関する文書も調印している。

また、中国はアルゼンチンの財政の安定性を維持するため、1300億元(約200億ドル)の通貨スワップ協定の更新についても原則合意したといわれる。「経済苦境にあえぐアルゼンチンにとって今や、中国は不可欠な存在」(ブエノスアイレスの有力経済紙)との声が飛び交う。

中国の影響力が増しているアルゼンチンがBRICSに加わろうとすることにインドが警戒心を強めるのはもっともなところ。もう一つ、インドが懸念するのは、宿敵パキスタンの動き。パキスタンがBRICSへの関与を模索しているとの憶測が流れている。イスラマバードの有力紙の報道によれば、今回の首脳会議を前にパキスタンは中国に対し、BRICS拡大会合への参加の希望を伝え、中国はその可能性を探ったものの、インドの強い反対で実現しなかったという。

習近平政権は「一帯一路」の重要プロジェクトである「中国パキスタン経済回廊」を軸にパキスタンとの関係を一段と強めており、同国をBRICSに引き入れたいと考えていることは想像に難くない。在ニューデリ外交筋は「中国がパキスタンのBRICS関与を強引に後押しなら、インドの対中関係は新たな緊張局面を迎え、BRICSの拡大どころではなくなるだろう」と予想している。