ロシアのウクライナ侵攻が始まって8カ月が経過したが、欧州連合(EU)に大半が加盟する欧州諸国では長引く戦争が誘発した物価高騰を背景に市民の間で厭戦ムードも目立ってきた。欧州諸国はウクライナへの支援を続けられるのだろうか。正念場を迎えている。

一方、「ロシアは敗退しつつある」(ポーランド政府高官)との見方もあるもののウクライナ戦争の終結の見通しは立たない。それでもウクライナの戦後復興に向けた動きも活発化し、大まかな青写真も語られるようになった。10月25日には先進7カ国(G7)の今年の議長国ドイツの主催でウクライナ復興支援に向けた国際会議が開かれた。

◆9月のEUインフレ率10.9%

英国では保守党のトラス政権がインフレ対策の一環として大規模な減税を打ち出したが、財源の裏付けがあやふやなことを金融市場などに見透かされて早々と退陣に追い込まれたことを受けて、欧州大陸諸国の指導者の間ではインフレと生活水準低下への対応を誤った場合の政治的リスクの怖さを思い知らされた形となった。



欧州諸国はロシアに対する経済制裁ではおおむね足並みをそろえ、特に安価なロシア産化石燃料の輸入停止にも踏み切った。しかし、インフレ高進で欧州市民の間でのムードも変わりつつあるようだ。

米紙ニューヨーク・タイムズは、「ロシアは嫌いだが、もうそろそろウクライナへの軍事支援をやめ、当事者間の交渉にシフトする時が来たのではないのか。インフレ下での経済支援を必要とする多くの人々はしびれを切らし始めているのではないか」との一ローマ市民の不満を紹介した。

EU域内のインフレ率は9月には10.9%と1年前(3.6%)の3倍以上、過去数十年間で最高レベルに達した。米英両国の水準も上回った。

イタリアのドラギ前首相(元欧州中央銀行総裁)は9月、国連での演説で「エネルギー・コストの急騰は、景気回復を危うくし、市民の購買力を制限し、企業の生産能力に打撃を与えている」と指摘、「我々(西側諸国)のウクライナへのコミットメントに悪影響を及ぼしている」との見方を示した。

フランスでは各地で物価高騰に反発するストやデモなどの抗議行動が活発化している。これに対してマクロン大統領はウクライナへの連帯の証として経済的苦境を耐え忍ぶよう国民に呼びかけた。ニューヨーク・タイムズによれば、仏国民はロシアによる侵略反対では一致しているものの、ウクライナ支援のために購買力を犠牲にすべきかどうかでは意見が分かれているという。

ドイツでは東部を中心に物価高への怒りを表明する抗議行動が広がっている。ただ、ドイツ政府が2000億ユーロに上る支援パッケージを打ち出したことで、国民の不満は幾分和らいだようだ。一方、バルト三国ではインフレ率は軒並み20%を超えているが、国境を接するロシアからの脅威の度合いが強いせいか、プーチン政権への反対が物価高への抗議に優先しているようだ。

◆ウクライナ大統領「将来はEU加盟国」

ウクライナのゼレンスキー大統領はベルリン支援国会議へのビデオメッセージで、「ウクライナはデジタル経済を目指している」との構想を明らかにしたうえで、「ウクライナに投資することは将来のEU加盟国に投資することだ」と述べ、ウクライナへの投資拡大を呼びかけた。

ベルリン国際会議では、世界銀行が3490億ドル以上と試算するウクライナの復興費用を拠出する国際的な枠組みづくりについて各国首脳や国際機関トップが具体策を協議した。

開催国ドイツのショルツ首相は、開幕演説で、「21世紀の新たなマーシャル・プラン」が必要と強調。第二次世界大戦後の米国による巨額の欧州復興支援になぞらえ、巨額の援助への協力を訴えた。EU欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、EUとしては短期的な資金需要の3分の1を拠出する方針で、来年の合計額が約180億ユーロになるとの見通しを示した。

ウクライナ戦争の長期化に伴い、戦争がもたらした物価高騰のあおりを受けた欧州市民の間では戦争を嫌気するムードが広がりつつあるが、一方では、戦後を見据えた復興の青写真も描かれ始めた。