日本と中国の有識者による交流会議「第18回東京北京フォーラム」(言論NPO、中国国際出版集団共催)が12月7、8の両日、東京と北京の会場をオンラインで結んで開催された。日中の有識者約100人が出席、「世界の平和と国際協調の修復に向けた日中両国の責任」を主テーマに激論が展開された。同フォーラムは最終日に共同声明「平和協力宣言」を採択。「ウクライナ危機の平和的解決につながる努力を支持し、両国に地域の緊張を高める行動の自制」を求めるとともに、「世界経済の分断やブロック化の回避へ協力すべきだ」などと主張した。

世界が不安定化する中、ロシアのウクライナ侵略後の世界の平和秩序をどのように修復するのか、さらには北東アジアの台湾海峡での懸念が高まる中で紛争を避けるためにはどうすればいいのか、という国際社会が直面する課題について活発な議論を交わした。

林芳正外相は「地域と国際社会の平和と繁栄にとって共に重要な責任を有する日中両国は、課題や懸案があるからこそ率直な対話を重ね、共に責任ある大国として行動し、共通の諸課題について協力すべきだ」と呼びかけた。

王毅中国外相は「多国間主義と国際秩序が大きな挑戦を受けている現在は百年の一度の大変革期にあり、力よりも『理』、暴力よりも国連憲章を核心とする国際関係の基本準則こそが大事だ。これを守るために日中両国には大きな責任があると」訴えた。

東京北京フォーラムの最高顧問・福田康夫元首相は基調報告の中で、「世界は、混迷の度合いをますます深め、対立と分断に向かっており憂慮に堪えない。われわれが享受している平和と繁栄、それをもたらした戦後国際秩序が動揺を来たし、崩壊しかねない状況になっている」と懸念。その上で習近平中国主席の「人類運命共同体の構築」、父・福田赳夫元首相の「世界は共同体である」といった発言に触れつつ、「私が(首相在任時の)2008年の日中共同声明において戦略的互恵関係を打ち出したのも、このような考えに沿うものと考えたからだ」と振り返った。日中両国が協力して現行国際秩序を改善し強化する作業に着手するよう期待した。

東京北京フォーラムは2日間にわたり、国際協調、政治外交、メディア、安全保障、経済、デジタルなどをテーマにパネルディスカッションや分科会が開催され、活発な意見交換が行われた。

経済分科会では「混乱し分断する世界経済の修復と日中の役割」をテーマに3時間半にわたって意見交換した。日中の専門家から(1)世界経済はウクライナ紛争などから厳しい状況にあり、来年に向け厳しさが増すが、日中の経済依存度は多大(2)中国はTPP(環太平洋経済連携協定)への加盟申請しており、国有企業問題などハードルは高いがクリアは可能だ(4)気候変動問題は人類共通の重要テーマであり日中は協力すべきだ(5)中国は中間層が拡大し世界最大の消費市場になる(6)大多数の企業は対中デカップリング(切り離し)を望んでおらず、進捗していない(7)戦略的互恵関係の堅持と改革開放路線の維持が両国の利益になる―などが表明された。

メディア分科会では世論調査結果に基づき、激論が展開された。ウクライナ紛争、米中対立、コロナ感染症、台湾海峡問題、メディアの信頼性などに対する双方の意見は分かれたが、世界と地域の安定と平和を守るために前向きに努力すべきだとの点で合意。「不戦の誓い」を確認した。日本側は、欧米日による対ロシア経済制裁に「中国が加わらないのは、ロシアから自由にエネルギーを得ているからではないか。"漁夫の利"であり、日本側の印象悪化につながっている」との見解を示した。中国側は「ロシアのウクライナ侵攻を、中台関係に絡めるのは疑問。台湾は国ではないし、必ず有事が起きるとは限らない」と述べ、内政干渉に不満を表明した。

安全保障分科会では、「北東アジアに冷戦構造を持ち込むべきではない」との点で双方が一致した。中国側は「台湾同胞を傷つける武力統一する考えは習政権にはなく、『台湾有事』と煽るべきではない」と注文した。日本の識者は「日米は台湾の独立は支持しないとの点で共通だ」と指摘した。

デジタル分科会では、「デジタル分野には国境はなく、人類共通のルールを作るべきだ」との方向に集約された。



◆東京北京フォーラムの共同声明「平和協力宣言」は次の通り。

世界の平和は不安定化し、アジアで緊張が高まっている。そして、世界経済に分断の動きが強まっている。この地域の平和と安定、そして、世界の協力のために、今年、国交正常化50周年を迎えた日中両国こそが、責任を持って取り組むべきというのが、私たちの強い問題意識である。

世界やアジアの歴史的な困難にどのように向き合うのか。この二日間の議論を踏まえて、私たちが到達したのは二つの基本的な合意である。

一つは、各国の主権と領土の一体性を尊重し、どんな紛争も、最大限の努力を尽くして平和的に解決すること、そして二つめは、共に国際協力を推進し、世界の分断傾向をこれ以上、助長させないことである。

そのためには日中関係の修復も不可欠である。この50年間に合意した4つの政治文書の意味を再確認し、新しい情勢の下でもそれらが実行できるように、再構築する努力を行う。

その環境づくりを、政府に一歩先駆けて取り組むのが、民間の対話の役割である。こうした強い思いから、以下の合意をまとめた。

1、世界の平和と安全を維持するために世界が力を合わせることは、国連憲章が掲げる理念である。私たちはこの理念に賛成し、国連憲章を基礎とする世界の平和秩序を擁護し、どんな紛争も平和的手段で解決すべきと考える。双方は ウクライナ情勢の現状を憂慮しており、ウクライナ危機のエスカレートの回避、平和的解決につながるあらゆる努力を共に支持する。

2、今回の世論調査では、周辺地域の安全保障情勢を懸念し、不戦や紛争回避を希望する声が、両国で増えていることが明らかになっている。私たちは、こうした民意を重視し、全ての関係者に地域の緊張を高める全ての行動を自制することを、求める。日中両国は事故の防止や紛争を回避するために海空連絡メカニズムの一層の強化を行うほか、安全保障課題を考える定期的な協議を早期に始めるべきである。また、北東アジア全域で、建設的な安全保障関係を構築するため、多国間の対話を強化すべきである。

3、日中両国が、地域の平和、安定と繁栄発展に責任を持って取り組むことは、国交正常化以来の合意である。両国は、これまでの政治文書に反映された合意が、国民間の幅広い理解を得るために一層の努力をする必要がある。両国はこれらの合意の今日的な意味を再確認し、世界的な視野を持って、新時代にふさわしい日中関係をどう構築するのかについて協議する。そのためにも日中両国は政府間だけではなく、民間も含めたあらゆるレベルの対話を強化し、必要に応じて、新しい合意を検討すべきである。

4、両国は、包摂的で地球環境に配慮した持続可能な世界経済のために共に努力すべきである。そのためにも、国際協調や国際法に基づく国際秩序の擁護、共通のルールに基づく自由経済の修復は堅持しなくてはならない。日中両国は、世界の分断傾向をこれ以上悪化させるべきではなく、世界経済のブロック化を避けるべきである。経済の全てを安全保障で考えるべきではなく、過度の経済混乱を招かない様に、両国政府は協力を前提に話し合いを始めるべきである。

 

5、アジアの未来で両国に問われるのも、平和と協力発展に向けた一層の努力である。両国はそのためにも相互信頼や共通利益での協力を具体化すべきである。政府間の信頼関係の再構築は急務であり、先日の首脳会談を政府間交流の正常化につなげるべきである。歴史的な困難が広がる中で、民間の取り組みが勢いを失うことは致命的である。コロナ禍で国民の往来が影響されているが、コロナ対策でも両国は協力を進め、渡航の正常化に向けた環境づくりに取り組むべきである。

(八牧浩行)