[ロンドン/ベルガモ(イタリア) 12日 ロイター] - 多くの多国籍企業と同様、イタリアのエンジニアリング企業ブレンボにとっても、金融業務の拠点はロンドンだ。アルプスの近くに本拠を置くブレンボは、F1レーシングカーやオートバイで使われるブレーキを製造し、70カ国で販売している。

毎年、同社の銀行口座に出入りする金額は数億ユーロにも達する。こうした資金の流れの中心となっているのがロンドンである。

だが、英国が欧州連合(EU)離脱の準備を進めるなかで、同社は、銀行関連業務の拠点をフランクフルトに移す必要が生じるかもしれない。ロンドンが提供する金融サービスに関して規定もないままにブレグジットが実施されれば、ロンドンの銀行や、ファンド、保険会社は、そのサービスの多くを欧州企業へ提供できなくなるだろう。

こうした混乱は、ロンドンだけでなく、欧州にも打撃を与えると銀行や企業関係者は警鐘を鳴らす。こうした変化により、欧州企業向けの銀行コストが上昇せざるを得ない、と金融機関は指摘。ただし、そのコスト増を負担するのが、銀行側か顧客側かは、まだはっきりしない。

「最終的には、ブレンボにとっての問題ではなく、われわれの銀行が悩むことになるだろう」とブレンボのマッテオ・ティラボスキ執行副社長はロイターに語った。「われわれは現在と同じサービスを、同じコストで受けられるものと期待している」

ブレンボのメインバンク、シティグループからはコメントを得られなかった。

英国内外の銀行幹部、弁護士、学者、格付会社、ロビイストとのインタビューを通じて、ロンドン市場へのアクセスが潜在的に失われることによって、企業や消費者にもたらされる危険はどんなものか、その概要が浮かび上がってきた。

EUはロンドンのマネーを必要としているとイングランド銀行(英中銀)のマーク・カーニー総裁は断言する。同総裁は英国を「欧州にとっての投資銀行」と呼び、EUで発行されるすべての債券や証券の半分に、英国の金融機関が関与していると言う。

事業の「書き換え」コストは、その試算に大きな開きがあるものの、膨大な額になるだろう。

ボストン・コンサルティング・グループの調査によれば、欧州統一市場へのアクセスを維持するために、投資銀行がEUに新たな拠点を設立する場合、EU関連コストは8─22%増える可能性があるという。

JPモルガンによる別の調査では、欧米大手8行が、ブレグジットによって資本市場業務をロンドンから移さなければならない場合、今後5年間で総額75億ドル(約8400億円)の費用が発生すると試算している。これらの銀行のグローバルな年間費用の平均2%に相当するコストだという。

銀行側は、こうした追加コストの大半は、結局のところ、顧客に転嫁されることになるという。

「生産コストが上昇した場合、最終的に、われわれのコストの多くは顧客側に転嫁されることになる」とゴールドマンサックス欧州部門で最高経営責任者(CEO)を務めるリチャード・グノッド氏は語る。「流動性プールの細分化、資本ベースの細分化が始まれば、すぐに効率が低下し、コストが上昇する可能性がある」

英国を本拠とする金融機関は、欧州顧客との取引を確保するため、事業の一部を欧州に移転させようと努めているが、こうした域内金融構造の再調整は、英国だけでなく、欧州の経済的な安定性を脅かす可能性があると警鐘を鳴らしている。非常に多くの欧州の資金フローがロンドンを経由しているためだ。

だが、フランスとドイツを中心とする欧州諸国はこうした懸念を共有していない。英国から多くのビジネスをかすめ取り、自国の金融センターを構築する好機としてブレグジットを捉えているためだ。

ロイターのデータによれば、金額ベースで見ると、英国だけでグローバル株式市場の5.4%を占めている。EUで金融サービス部門を担当するバルディス・ドンブロウスキス欧州委員は、英国が離脱しても、EUは金額ベースで世界の株式市場の15%を占めており、EUの資本市場を強化するための措置がすでに行われていると述べている。

ただし、「細分化によって、EUの金融サービス部門がその潜在能力を十分に実現することが妨げられている」と付け加えた。

金融機関の関係者からも同様の懸念が聞かれる。元ロスチャイルド幹部で、現在はフランスで資産運用業界のロビイスト代表を務めるジャンルイ・ローラン氏は、「もしロンドンの機能が分散した場合、同じような効率性は望めない。欧州と英国の双方がそれによって損失を被ることになる」とロイターに語った。

<マネーマシン>

ロンドンは現在、世界で最も多くの銀行を擁する都市であり、世界最大の商業保険市場を抱えている。欧州の金融資産全体の37%に当たる約6兆ユーロ(約776兆円)がロンドンで運用されており、これはパリのほぼ2倍である。また欧州の投資銀行ビジネスの規模は5兆2000億ユーロだが、この分野でもロンドンが支配的地位にある。

フランスの原子力発電所もギリシャの船舶も、保険はロンドン市場に頼っている。ドイツの自動車メーカーが事業拡張の資金調達をするのもロンドンだ。オランダの年金生活者が預金を投資するのも同様だ。

ロンドンの外国為替市場は世界最大、デリバティブ市場も世界第2位の規模であり、これらの市場における世界取引の40%弱をこの都市が占めている。国際決済銀行のデータによれば、EU内でロンドンに迫る競合市場はパリだが、そのシェアは5%以下だ。

シティ・オブ・ロンドン自治体によれば、ロンドン市場では毎年、総計869兆ドル相当のユーロや、日本円、米ドルが取引されており、これは他のユーロ圏諸国を合計した規模よりも大きい。

バークレイズのジョン・マクファーレン会長はロイターに対し、英国とEUの貿易交渉が不調に終われば国際経済に打撃を与えるリスクがあり、いくつかの銀行は、コストの上昇を理由に一部の事業からの完全撤退という決断を下す可能性があると語った。

「ブレグジットを契機に、移転対象となる活動の経済的魅力が問い直されることになるだろう」と彼は言う。「別の場所に移転するとして、財務上それだけの価値があるのか、と誰もが口にするだろう」

銀行関係者は、英国がEUを離脱した場合、多くの分野に影響が出る可能性があると言う。

その筆頭は、欧州諸国の国債売り出し能力だ。

現在、たとえばポルトガルやギリシャといった国が、自国の病院や学校を維持するために国債を売り出す必要に迫られた場合、債券市場を利用することができるが、そのアレンジをするのは主としてロンドンの銀行である。銀行関係者によれば、現在、欧州各国国債の約7割の取引をロンドンに拠点を置く金融機関が担っているという。

だが一部の銀行は、収益性が低いことを理由に、すでに国債売り出し業務から撤退しつつある。今年第1・四半期には5行が、さまざまな欧州諸国の国債についてプライマリー・ディーラー業務から撤退した。

欧州の国債引き受けをリードする英大手銀の1つでCEOを務める人物は、ロイターに対し、欧州中央銀行(ECB)から、ブレグジットを理由に欧州諸国の国債販売から撤退しないよう要請があったと語った。「彼ら(EU諸国)は、ロンドンの資本市場から締め出されるわけにはいかない」とこのCEOは言う。「それは自殺行為になる」

ECBはコメントしなかった。

影響が及ぶであろう第2の分野は、米ドルの変動や石油価格の急騰への備えとして企業が購入するデリバティブ商品の販売だ。ロンドンと競合する市場では、こうしたサービスを提供する銀行数が減るため、提供商品の種類が少なく、コストも高くなるだろうと銀行筋は予想する。

そして、第3の分野は、ロンドンが優位に立つユーロ建てデリバティブの決済業務だ。

EUの政治家は、取引を安全に完了させるために必要なこうした決済機能を、ブレグジット後はユーロ圏内に移転したいと希望している。だが金融関係者は、さまざまな通貨で取引を行う欧州大陸の顧客にとっては、取引コストの急騰につながるだろうと指摘する。複数のクリアリングハウスを経由して取引を行わなければならず、取引の裏付けとなる担保も積み増しする必要があるからだ。

国際的なデリバティブ業界団体フューチャーズ・インダストリーズ・アソシエーションは、ユーロ決済機能の移転を強いれば、取引の担保となる証拠金の額が約800億ドル増大すると述べている。一方、決済機能の移転によって利益を得るドイツのデリバティブ取引所ユーレックスは、証拠金の増大は、はるかに小幅の30─90億ドルにとどまるだろうと予想する。

世界の最大手銀の1つでグローバル外為市場部門を率いる幹部は、証拠金の額が最大800億ドル増えるのであれば、現在水準からほぼ倍増となるため、「市場は停止してしまうだろう」と語る。

ロンドン市場に直接アクセスできなくなった場合、欧州企業の借入コストがどの程度増大するかという試算は困難だと銀行関係者は口をそろえるなか、欧州金融市場協会は今月発表した報告書のなかで、もし欧州企業がコスト増を銀行側が引き受けてくれると考えているとすれば、それは楽観的すぎると指摘している。

<リアリティ・チェック>

英政府は昨年秋、金融センターとしてのロンドンの地位が低下した場合、EUがどのようなリスクに直面するか、欧州を説得しようと取りかかった。

独自動車大手フォルクスワーゲン<VOWG_p.DE>や欧州の航空機大手エアバス<AIR.PA>など大企業を対象にアーンスト・アンド・ヤングが行った調査では、欧州全域で企業側も資金調達コストの上昇を懸念しているという結果が出ている。この調査論文はロンドンの金融地区を運営するシティ・オブ・ロンドン自治体の委託によるもので、EU全域の政治家に送付された。

英政府は、欧州企業がそれぞれ自国政府に、コスト上昇と混乱の可能性に直面していることを訴え、ブレグジット交渉中にそのことを考慮に入れるよう政治家に圧力をかけるものと予測している。

一方、正式な離脱交渉が始まるなかで、EUは、強い権限を持つ欧州中央銀行(ECB)の誘導の下で、英国が提供している金融サービスをユーロ圏内に再現するための改革を急いでいる。

EUは2015年に、株式や債券などを通じた企業の資金調達方法を改善するため、「資本市場ユニオン」と呼ばれるプロジェクトを立ち上げた。今やこのプロジェクトの優先順位が高まっている、と欧州委員会は6月初めに述べている。

ECBは、長期的には、ブレグジットによって生まれたビジネス機会の活用をめざすことで、ユーロゾーンの銀行にとって「新たな均衡」が利益をもたらす可能性があると述べ、短期的には資金調達コストの上昇は「小幅」に留まる可能性が高いと見込んでいる。

フランス銀行(仏中銀)の前総裁クリスチャン・ノワイエ氏は現在、金融機関に対してフランスへの移転を呼びかけている。同氏は調整のための時間が与えられれば、欧州の銀行はロンドンが果たしているのと「まったく同じ業務を行うことになる」とロイターに語った。

少なくとも8つの欧州都市が、給与水準の高い従業員が集まることを期待しつつ、金融機関の欧州部門を誘致するため、しのぎを削っている。最も積極的なのはフランス政府で、首都パリの文化的な魅力を補強すべく、優遇税制や雇用規制緩和といった公約をちらつかせている。

欧州の最大手銀行の1つで最高財務責任者を務める人物は、先日参加した仏政府当局者によるプレゼンテーションでは、パリのレストランや夜遊びの魅力が強調されていたと語る。「ムーランルージュを前面に押し出す印象だった」

<内輪揉め>

銀行関係者は、ロンドンの機能を再現しようという欧州の努力に対して懐疑的だ。欧州大陸では、アングロサクソン流の自由市場資本主義に対する不信感が強すぎるというのだ。多くの政治家・エコノミストは、それこそが2008年─2009年のグローバル金融危機の原因であると考えている。

金融センターとしてのロンドンの優位は、数十年かけて構築されたものであり、これを再現するのは、しかも迅速にともなれば、非常に難しい、と複数の銀行幹部は危惧する。ロンドンにはグローバルな人材が集まり、英国の法律制度が幅広く活用され、ロンドンを通じて膨大なマネーが運用されているからだ。

米大手投資銀行の欧州事業を率いる人物は、欧州が労働関連法制を改革し、資本市場を発展させ、グローバルな人材を集めることができれば、金融センターとしてのロンドンの地位は低下し始めるだろうと予想する。だが、欧州がこのチャンスを逃してしまう可能性もあると付け加えた。欧州内での内輪もめや、雇用と資産をどこに集めるかという明確な計画が見えないからだ。

ユーロゾーンの3大国であるドイツ、フランス、イタリア内の不和が、ECBが当初ユーロ建ての決済機能をロンドンから切り離してECBの管轄下に置く方法を探る努力の障害となった、と3人の関係筋が5月にロイターに語った。

欧州に「複数の金融センターが乱立する結果になるだろう」と上述の米投資銀行の幹部は言う。「これは非常に大きなリスクだ。欧州の魅力がそこまで低下すれば、われわれは欧州において現在のように大きいままではいられない。欧州に勝ち目はない」

むしろ大きな利を得るのは、3500マイル離れたニューヨークかもしれないとの声も金融関係者の中から上がっている。ロンドンのような奥行きのある市場と専門能力を再現できる唯一の場所だと言うのである。

(Anjuli Davies記者、Huw Jones記者、Andrew MacAskill記者、翻訳:エァクレーレン)