[東京 21日 ロイター] - 個人が発行した模擬的な株式を市場で売買する実験的な取り組みが、日本で関心を集めている。VALU(バリュー)と呼ばれる「株式」をビットコイン<BTC=BTSP>を使って売買し、その発行者の人気で「価格」が上下、他者に売却もできる。個人にとって新たな資金調達のマーケットが誕生する可能性もあるが、投機的売買の防止など課題も多い。

<時価総額は「友達」の数などで決定>

運用会社名はVALU(東京都渋谷区)。広告・デザイン関連企業のPARTY(同)がブロックチェーンに着目した新事業を展開するための「思考実験」として、昨年12月に設立した。5月31日の試行サービス開始後、発行者は旧ライブドアで社長を務めた堀江貴文氏など1カ月半で約1万2000人に達している。堀江氏はVALUの取締役にも名を連ねる。

VALUはインターネットを通じ不特定多数から資金調達をする点で、クラウド・ファンディングと似た面がある。クラウド・ファンディングが明確な目的や企画に対して投資を求める半面、VALUは個性や経歴、将来性を投資者にアピールできれば、発行者は資金調達が可能になる。投資対象は「その人」だ。

農業・林業の振興、自殺防止のための施設運営準備、コスプレ愛好者としての活動資金──。VALUの運営会社が開設したホームページの中で、発行者それぞれが自分自身を売り込んでいる。

「有名人」である必要はなく、フェイスブックを利用し、運営会社の審査に通れば、基本的にVALUは発行できる。

ただ、発行時にはフェイスブックの「友達」の数などをもとに、運営会社が登録者のVALUの時価総額を決めるため、調達金額はその人の知名度などで異なることになる。

もう1つ株式と違うのは、VALUの購入者に対し現金や仮想通貨、金券で配当を出すことが認められていないことだ。発行者の行動に対する「議決権」もない。発行者が提供するのはモノやサービスであるため、株式やファンドに該当しないというのが専門家の見方だ。

新しい仕組みのため法的問題を懸念する声もあるが、「ファンクラブの会員に対し限定Tシャツやファンサービスを提供するのと同じと考えれば、問題がある話ではない。金融商品取引法に反しているかと言われれば、ほぼ『シロ』だ」と、日本ブロックチェーン協会顧問で、仮想通貨に関する法制度に詳しい斎藤創弁護士は指摘する。

金融庁関係者は「個別企業のことにはコメントしない」とする。一方、「IPO(株式の新規公開)は財務内容について開示制度があるのに対し、ICO(暗号通貨の新規公開)にはそうした制度がない。運営会社はIPOとの違いを利用者に周知すべき」(金融庁幹部)との声も出ている。

一度、公開・取引されたVALUは「暗号通貨」として流通するという。

<投機や死亡のリスクも>

株式との類似点であり、クラウド・ファンディングと大きく異なるのは、VALUの「価値」が上下することだ。発行者の人気が上がれば、そのVALUを欲しがる人が増え、結果として取引価格が上がり、時価総額が増加する。安い価格で買ったVALUを高く売れば「儲け」になる。

このため、株式と同様にVALUを投機対象とみなし、短期売買で利益獲得を狙う購入者が出る可能性もある。ツイッタ―などSNS上では、著名な個人投資家のVALU発行がたびたび話題になっている。

運営会社は当初、VALU発行者の時価総額ランキングをホームページ上に掲載していたが、今は取り止めた。1日あたりの取引回数を制限する措置も取った。発行者が自らのVALUの値段をつり上げようとする行為などに対しても、常時4、5人態勢で監視しているという。

今のところ直接的な投資家保護の法的な枠組みはなく、発行者が死亡しVALUの価値がなくなるリスクもある。

松井証券・シニアマーケットアナリスト、窪田朋一郎氏は「フィンテックという視点から、これまで斬新な企画がなかった。日本でこうしたサービスが立ち上がったのは興味深いが、突発的なアカウントの閉鎖など不明なリスクも多くある」と指摘する。

<「世界の誰にでも支援が可能」>

健全なサービス運営には、マネーロンダリングなどの不正の未然防止への取り組みも不可欠となる。運営会社側はVALU発行時の審査について「一人一人、工数をかけて審査している」(VALUの小川晃平社長)という。

だが、VALUの発行者が公表した優待を約束通り履行しているのか、発行者がSNSの表示通りの活動をしているのか、監視する体制は手探りの状況にある。

運営側は「変な自分の売り方をすると履歴が残る。その人は後々、十字架を背負うことになりかねない」(PARTYチーフストラテジストの高宮範有氏)と説明するが、ユーザー側のモラル意識をもとにした性善説的な運営となっているのが実情だ。

ビットコインを使った日本発のユニークなサービスだけに投資家の関心は高いが、VALU自体は、まだ「ベータ版」という試行段階のサービスだ。

小川社長は、外部から意見があれば、すぐに対応できる態勢をとっているとしたうえで「VALUは世界中のどこにいる人に対しても、直接的に支援が可能だ。地方だけでなくアフリカで学校を作っている人とかもユーザーにいる。(経済的な制約のある人に)道を開きたい」と話している。

(長田善行、辻茉莉花 取材協力:和田崇彦 編集:伊賀大記)