Brenda Goh

[上海 25日 ロイター] - これまで1170億ドル(約14兆円)規模のクルーズ客船市場を支配してきた欧州造船会社は、国内のクルーズ旅行ブームに後押しされた中国勢の進出によって、その独占的地位を脅かされそうだ。

国内の豪華客船クルーズ需要が年30%拡大するなか、中国政府は製造業振興策「中国製造2025」計画で、客船建造を主要目標の1つに掲げ、製造業の発展促進と同時に、造船所における雇用確保を狙っている。

付加価値の高いクルーズ客船市場に対する中国造船企業の進出は、複雑で豪華な客船建造や内装整備に高度なサプライチェーンを擁するこの業界リードしてきた欧州勢を慌てさせている。中国が数十年かけて貨物船市場を独占してきたように、客船市場でも独占するのではないかと懸念する声が欧州企業の一部から上がっている。

「この政府目標によって、競争に大きな歪みが生じる恐れがある」と、ドイツ造船・海洋工学連盟(VSM)のラインハルト・ルーケン氏は話す。VSMは、マイヤー・ベルフトなどの独造船会社が加盟している。「中国が目標を定めたなら、資源はほとんど無尽蔵だ」

ただ、高級カーペットから防音施工まで、豪華客船の建造には複雑なサプライヤー網が必要になることを考えれば、中国企業がクルーズ客船の建造技術を習得するのは容易ではないと、専門家は指摘する。

三菱重工業<7011.T>は昨年10月、客船世界最大手カーニバル<CCL.N>から受注した2隻の豪華客船建造で20億ドルを超える損失を出し、大型客船事業から事実上の撤退を決めた。

「(豪華客船は)海上のホテルであり、少なくとも数百のサプライヤーが必要になる」と、ロイド船級協会で中国の海洋とオフショア事業部門を担当するリン・リー氏は言う。

中国による客船クルーズ市場への路線転換には、世界で貨物船需要が落ち込み、多数の中国の造船所が廃業に追い込まれたという背景もある。

<熟練の欧州>

国有の中国船舶工業集団(CSSC)は、揚子江の河口に位置する傘下の上海外高橋造船<600150.SS>にイタリア造船大手フィンカンティエリ<FCT.MI>など欧州のアドバイザーを招き、クルーズ客船建造でいかに競争力をつけるかを学んでいる。

また、フィンランドのバルチラ<WRT1V.HE>などの外国サプライヤーにも中国での合弁を組むよう誘致している。

「フィンカンティエリは数百人の職人をここに連れてきた。CSSCは、英国に技術者を派遣して研修させている」と、CSSCのアラン・モン氏は、最近行われたメディア向け説明会で語った。

CSSCが受注した定員5000人のクルーズ客船2隻は、2月にカーニバルとフィンカンティエリと共に交わした15億ドル規模の契約の一部だ。建造に3年かかる予定で、契約にはオプション4隻が含まれる。

フィンカンティエリは、最大顧客のカーニバルから中国を支援するよう求められたと、現地の市場に詳しい業界幹部2人は語る。中国向けクルーズ運航の開発を目指すカーニバルは、中国市場で成長するには地元産業の発展を支援する以外にないと、中国政府から指示されたという。

中国のクルーズ市場は、2030年までに米国に次いで世界2位の規模になるとみられている。

CSSCは、ロイターの取材の申し入れに応じなかった。中国商務省は、企業の問題だとして、コメントを避けた。

カーニバルは、フィンカンティエリに対して今回の造船事業に参加するよう奨励したと認めたうえで、 CSSCと政府系ファンドの中国投資有限責任公司(中国投資)との間で計画中の中国初のクルーズ旅の事業計画は、それとは別に交渉している、と述べた。

フィンカンティエリは、中国市場に参入したのは「市場の大きな将来性を踏まえ、ビジネス機会を分析した結果に基づいたもので、それ以上のものではない」とコメントした。

<値引き>

他の中国国内の造船会社もクルーズ客船市場に参入し、最大30%の割引と、より早い納期を提示して、西側のクルーズ運航会社から契約を取ろうとしている。

招商局工業集団は3月、米マイアミのサンストーン・シップスから最大10隻の契約を受注し、厦門船舶重工は4月、フィンランド大手船会社バイキングライン<VIK1V.HE>から、乗客2800人のクルーズ客船1隻を約2億2200万ドルで受注した。

「多くの造船会社が関心を示してきて、驚いた」と、バイキング・ラインのJan Hanses最高経営責任者(CEO)は語った。広船国際のほか、 烟台中集来福士、中航威海船廠など6つの造船所から引き合いがあったという。「競争は常に良いことだ。欧州造船所も、競争がなければ停滞する」

業界情報誌シートレード・クルーズのデータによると、欧州造船会社は2025年までに68隻のクルーズ船の受注残高があり、他を大きく引き離している。

だが、仏労組「労働者の力」の造船業STXフランス支部のナタリー・デュランプランボーヌ氏は、過去における液化天然ガス(LNG)運搬船のように、フランスの造船所が中国勢に押されてクルーズ客船市場を手放してしまう懸念がある、と指摘する。

技術移転への懸念から、同労組は、フィンカンティエリによるSTXフランスの買収計画に反対しているという。STXフランスは、仏西部サンナゼールの造船所で2600人の従業員を雇用している。

「中国と関係を結んだことで、フィンカンティエリは自分の足に銃弾を撃ち込んだだけでなく、われわれの足元にも発砲したことになる」と、彼女は言った。

中国造船会社にクルーズ客船市場参入について助言しているコンサルティング会社PFJマリタイムのラウル・ジャック氏は、流れを止めようとしても無駄に終わるとみている。「どの造船所もみな、一番活気がある市場に注目している」と同氏は語った。

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)