伊賀大記

[東京 1日 ロイター] - 日銀の4月国債買い入れ予定では、幅広い年限で減額されたが、債券市場では、緩やかな金利上昇にとどまるとの見方が多い。日銀が金利の低位安定が重要との認識を示しているほか、さらなる減額余地が限定的であるためだ。「檻(おり)」とも称されるイールドカーブ・コントロール(YCC)政策をやめない限り、狭いレンジでの推移は続くとみられている。

<限定的なオペ減額余地>

3月の政策点検を受けて見直された日銀の4月国債買い入れ予定(通称「オペ紙」)では、「残存期間5年超10年以下」の国債を中心に幅広く減額された。市場では10年債や超長期債中心に小幅な減額との見方が多かっただけに、全年限に及んだ減額はサプライズとなった。

しかし、影響は緩やかな金利上昇にとどまるとの市場の見方に大きな変化はない。新発10年債利回りは、1日午前の円債市場で一時0.120%まで上昇したが、「コアレンジの上限は0.15%程度」とJPモルガン証券の債券調査部長、山脇貴史氏は予想する。同日実施された入札も順調だった。

その理由の1つは減額余地が大きくないとみられているためだ。4月の買入予定を年間ベースで計算すると購入額は71.6兆円。山脇氏によると、国債償還分などから試算したマネタリーベース拡大を維持するための減額余地は残り16.4兆円となる。

少ない額ではないが、1カ月あたりは1兆3500億円程度。オペ回数が月4回であれば、1回の減額余地は3500億円程度になる。今回5─10年のオファー額は4500億円となったが、1つの年限だけでもゼロにはできない計算だ。

国庫短期証券(TB)やETF(上場投資信託)、新型コロナオペなどを増やせば、マネタリーベースは増加し、オペの減額余地も大きくなるが、いずれもコロナ対応の部分が多く、将来をみればいずれも大きくは増やせない。

<連続指し値オペの「脅し」>

新たに導入された連続指し値オペの「脅し」も効いている。特定の年限の国債を固定金利で無制限に買い入れる指し値オペを一定期間、連続して行うという強力な金利抑制手段だ。新発10年債の直近ピークは2月26日につけた0.175%で、点検前の「上限」である0.20%にも届いていないが、「存在が不気味だ」(国内証券)という。

日銀は今回の点検において、長期金利の過去6カ月の変動域が0.5%を超える場合、設備投資に影響が及ぶ可能性があるとの分析を示している。「伝家の宝刀」となる連続指し値オペなどを使ってプラス0.25%の許容幅上限は死守する構えであるが、そこまでの金利変動であれば特段問題視する必要はないとの声が日銀内では出ている。

ただ、今回、日銀は急激な金利上昇は強く抑え込む一方、下限を割り込む動きには寛容な態度を取るという「非対称性」なスタンスをみせている。米長期金利などの外部環境次第ではあるものの、市場では金利上昇方向に警戒感が強くなっており、「忖度」する形で早めに債券買いが強まる可能性もある。

「今回のオペ減額は、安定的な低金利環境の維持が重要という大前提がある中での微調整にすぎない。市場もそれを認識しており、金利上昇にはおのずと歯止めがかかりそうだ」と、野村証券のチーフ金利ストラテジスト、中島武信氏はみる。

<枠組み見直しを求める声も>

市場では、金利を本格的に変動させたいのであれば、YCC政策自体を修正するか止めるしかないとの意見が多い。

「YCC下では円債市場は狭い檻(おり)の中に入れられているようなものだ。現在、10年債はマイナス金利でのトレードはみられず、実質レンジは0.25%。檻の中はさらに狭くなっている」と、岡三証券の債券シニア・ストラテジスト、鈴木誠氏は指摘する。

政策の枠組み(フレームワーク)の見直しは、早々に点検の議論の対象から外れていた。3月18─19日の決定会合でも、今回の政策枠組みが「今後数年間、金融緩和政策の基本的指針となることを期待する」(主な意見)との声が出ている。

YCCは金利変動を抑える政策であり、景気回復時には金利を低位に抑えることで、景気刺激効果を発揮する。しかし、資産価格の高騰など、その際の副作用も少なくない。市場ではYCCそのものこそ「点検」されるべきだったとの意見もある。

「今回、物価目標に対する本格的な議論がまったく見えなかった。このままでは2%の物価目標達成は困難と市場では誰もがみている。2%の物価目標が正しいのかどうかも含め、一度、本格的な政策点検をするべきではないか」と、東海東京証券のチーフ債券ストラテジスト、佐野一彦氏は話す。

オペを減らしても低金利が維持される見通しなのは、日銀にとって歓迎される環境であるかもしれない。しかし、現状では市場機能回復を期待する声も少なく、今回、「点検騒動」とまで呼ばれた情報発信を含め、マーケットの不安や不満はむしろ強まっている。

(伊賀大記 取材協力:和田崇彦 編集:内田慎一)