[東京 14日 ロイター] - 英投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズによる買収の動きがある中で、東芝の車谷暢昭社長が辞任した。事情に詳しい複数の関係筋によると、車谷氏への信任が失われてきたことを受け、同氏の進退問題が先に社内で浮上、それに対して車谷氏が「報告」したのがCVCによる買収提案だった。

東芝がCVCによる買収の「初期提案」を受領したと発表する前日の6日午後、車谷氏と取締役会議長で指名委員会委員長の永山治氏らが面談した。株主や社内での車谷氏への信任が低下していることを踏まえ、永山氏はその場で、定時株主総会を前に、指名委員会で車谷氏の進退を協議する旨を伝えた。

車谷氏が「返す刀」で報告したのが、CVCによる買収の初期提案だったという。CVCは今後の正式提案を経て東芝と条件交渉を始め、日本の当局を含めて合意できれば株式公開買い付け(TOB)を通じて非公開化を進めるという話だ。

非公開化すればアクティビストとの対立は解消に向かう。永山氏は14日の会見で、CVCからの初期提案について「(初期提案当時の)マネジメント維持と書いてある」と述べた。車谷氏は今年の株主総会での再任が難しくなりつつあったが、CVCの買収が実現した場合には体制を温存するとの意向がにおわされていた。

進退をめぐる協議は、CVCからの初期提案を受けていったん棚上げになったかに見えたが、13日には翌14日に臨時取締役会を開いて協議する方向へと急展開した。その13日の深夜、車谷氏が辞任の意向を固めたことが伝わった。

車谷氏は元三井住友銀行副頭取で、CVC日本法人の会長兼共同代表を経て、2018年に東芝の会長兼CEOに就任、2020年に社長に就いた。企業統治(コーポレートガバナンス)や資本政策を巡って大株主のアクティビストと意見が対立し、昨年の定時株主総会では社長再任への賛成割合は57.2%に低下していた。

東芝は、経営の監督と執行を分ける指名委員会等設置会社の統治形態で、指名委員会が取締役の選解任議案を決める。永山氏は指名委員会の委員長も務めている。

同社には、取締役を除く執行役や統括責任者、事業部長などの上級管理職が無記名で信任投票する執行役社長評価制度がある。指名委員会が社長再任指名を検討する際の参考情報としており、関係筋によれば昨年度の調査で「不信任」が過半を超えた。内外の不信任を踏まえて、再任は難しいと指名委は判断したようだ。

永山氏は14日の会見で「解職という話はない。本日、本人から辞任を申し出たということに尽きる」と強調した。取締役会での議論の前に、申し出があったという。 

<買収案巡り混迷>

CVCの今後の動向は見通しにくい。永山氏は会見で「(車谷氏の辞任を受けてCVCが)どういう考え方をするか、こちらにはわからない」と述べた。 CVCが正式提案した場合、原子力や防衛関連事業のある東芝は外為法に基づく事前審査の対象となる。関係筋によると、東芝社内では非上場化の提案を「会社存続の危機」と受け止め、幹部が経産省など関係省庁にCVC案に対する会社側の消極的なスタンスを説明している。

CVCによる買収の初期提案を踏まえ、株主からの注文も相次いでいる。ファラロン・キャピタル・マネジメントは12日、東芝が他の潜在的な買収者による対抗案を提示する機会を確保した上で、対抗案も含めて検討すべきとの考えを表明。香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントは13日、CVC案の1株5000円は安すぎるとし、6200円以上が適当だとする声明を発表した。

東芝に対する買収提案は、米ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)やカナダの投資会社ブルックフィールド・アセット・マネジメントが対抗案を検討する動きが報じられており、車谷氏の後任として再登板することとなった綱川智社長は、こうした潜在的な買収者とも向き合う必要がありそうだ。

綱川氏は昨年の定時総会で再任への賛成割合が90.1%と高く「株主はじめステークホルダーの信頼も厚く、社長として困難を乗り切った経験がある。後任として最適」と永山氏は説明。今後の外部との交渉役として手腕が期待される。

急速な事業環境の変化が起きている中で「マネジメントも新陳代謝が求められる」(綱川氏)側面もある。ただ、東芝社内からは「すぐに社長交代できるような別の人材がいない。かといって、今回の辞任劇を踏まえると外部からの登用も容易ではなさそうだ」との声も漏れ聞こえている。

(山崎牧子、平田紀之、梅川崇、編集:田中志保、石田仁志)