白木真紀

[東京 23日 ロイター] - 世界的な半導体不足により自動車の生産停止を余儀なくされているが、業界を取り巻く雰囲気はさほど悪くなっていない。コロナ禍で「密」回避や家庭回帰への意識が高まっている中で自動車需要は堅調で、部品不足による納車の遅れの販売への影響も限定的とみられる。

メーカー各社も減産ではなく生産の先送りと認識しており、むしろ在庫枯渇で値下がりを防ぎ、収益性向上につながるとの指摘もある。

<日産九州、5月の稼働見送り期間を延長>

自動車各社は、追加減産に追い込まれている。日産自動車子会社の日産自動車九州(福岡県苅田町)の工場では、5月も土日を除く10─19日までの8日間、2つある車両生産ラインの稼働を停止する計画だったが、さらに1つの生産ラインの非稼働日を4日間延ばした。複数の関係者によると、5月の生産停止は25日まで続く見通しだ。

関係者の話では、日産自動車九州の工場のほか、日産車体九州(同)の工場、追浜工場(神奈川県横須賀市)や栃木工場(栃木県上三川町)も5月に生産を一時停止する予定で、4工場合計で約3万3100台に影響が及ぶという。日産は北米での一時生産調整も15日に発表した。 SUBARU(スバル)も4月19日から月末まで米インディアナ工場での生産を一時停止。減産規模は約1万5000台となる見込みで、群馬製作所矢島工場(群馬県太田市)の生産停止と合わせ、4月の減産規模は約2万5000台に上る。

スズキでも、相良工場(静岡県牧之原市)で今月5日、湖西工場(同県湖西市)の一部生産ラインで5日と12日の2日間の稼働を停止した。

ただ、日産などの関係者は「挽回生産する」として、部品調達の状況が改善次第、下期にも休日操業や残業などで減産分を取り戻すと強気の姿勢を崩さない。スズキも、一時停止による減産分は今後の休日操業で補うとしている。

<相次ぐ納車遅れ、手堅い需要は変わらず>

販売への影響も限定的とみられる。日産、スズキ、スバルなどの車を販売する東海地方の業販店担当者は「どのブランドでも納車遅れが生じている。通常は1カ月のところ今は最短でも2カ月はかかっており、スバルは特に遅れている」と話す。しかし、自動車は一部のブランドに根強いファンが付きやすい商品で「急いで車が欲しい消費者は納車の早さを優先して選ぶが、スバル車などは『待つ』という顧客も多い」という。 ホンダが23日発売したスポーツ多目的車(SUV)の新型「ヴェゼル」も通常より納車に時間がかかっており、同社の安部典明常務執行役員によると、今注文すると「6カ月程度は待つ(ことになる)。半導体不足を含むさまざまな影響で、上級グレードは12月下旬になっている」。ただ、こちらも販売には特段の影響は出ていない。

納車の遅れはその車の人気が高いことの裏返しともとらえられ、「消費者の購買意欲と優越感をくすぐっている」(業販店担当者)という側面もある。

北米でも需要は堅調だ。日本電産の関潤社長は、北米の自動車ディーラーが保有する在庫は75日分程度が一般的とされるが「足元では40日を切っている。顧客が来ても欲しい車がないと言って帰る人がけっこういるくらい。需要はしっかりあるんだと思う」と話す。米国の急速な景気回復の可能性、在庫が積み上がっていない状況などを考慮すると「6月か7月頃に半導体などの材料不足が解消され、生産が急回復してくるのではないか」として、すでに増産へ「追従できる体制をとっている」と先をにらむ。

<過度な懸念は不要、収益性向上も>

SBI証券の遠藤功治・企業調査部長は「半導体不足の影響は拡大しているが、過度な懸念は不要だ」と話す。「減産しても(力強い)需要が消えるわけではなく、生産や出荷が後ずれするだけで、挽回生産で今期中には十分取り戻せる範囲内」との見方だ。

特に米国では「自動車の需給は非常にタイトで、インセンティブ(販売奨励金)も下落基調にある」。需給の逼迫で新車価格は高値で維持でき、インセンティブも低下し、中古車価格も高値維持につながり、自動車メーカーの収益性が向上するという。半導体が値上がりした場合でも「車両価格の値上げで対応できる環境にある」とみている。

東海東京調査センターの杉浦誠司シニアアナリストも「減産発表は悪材料という解釈よりも、再開のめど付けを前提とするアナウンスメント」とみており、「『不足』という言葉は、改善すれば増産となるとの期待の暗喩だ」と13日付のリポートで指摘している。

(白木真紀 取材協力:基太村真司 編集:田中志保)