[東京 16日 ロイター] - 東京国際金融機構の中曽宏会長(前日銀副総裁)は、ロイターのインタビューに応じ、脱炭素化の取り組みは設備投資の活発化や技術革新を通じて、潜在成長率が低下してきた日本経済が好転するチャンスになると述べた。ロシアによるウクライナ侵攻で資源価格が高騰したことで、脱炭素化の動きが加速するとの見方を示した。

市場では、中曽会長が次期日銀総裁の有力候補の1人とみられている。中曽会長は、大胆な金融政策・機動的な財政政策・成長戦略からなるアベノミクスについて、経済再生の処方箋としては正しいが「特に第一の矢の金融政策に相当負担がかかった」と指摘。潜在成長力を少しでも引き上げることができれば、賃金が上昇して家計の値上げ許容度が高まり、物価や金利の上昇で「金融政策が正常化できる」と語った。

<アベノミクス、金融・財政に「負担かかりすぎた」>

日本の潜在成長率は長期にわたって低下傾向が続いてきた。中曽会長は「日本の潜在成長力が落ちたのは、設備投資の停滞や技術革新の力が落ちたことによる」と指摘。2050年カーボンニュートラルの実現には、膨大な設備投資や革新的な技術が必要となるため「なかなか潜在成長力を引き上げることが難しかった日本経済にとって、脱炭素化はブレークスルーのチャンスだ」と語った。

アベノミクスについては「日本経済再生の処方箋としては正しいが、問題は第一・第二の矢に負担がかかりすぎたことだろう」と話し、「QQE(量的・質的金融緩和)で短期の市場金利はマイナス圏にあるし、日銀のバランスシートの規模はQQEの前に比べても4.5倍にもなっている。財政はコロナ禍に対応するために大規模な支出が行われ、債務GDP(国内総生産)比は『高所恐怖症的』なレベルに達する見込みだ」とした。「特に第一の矢の金融政策に相当負担がかかった」と述べた。

成長戦略である「第三の矢」について、中曽会長は「第三の矢は女性の労働参加等の面では効果があったが、全体としてみればやはり力不足だった」との見解を示した。「もし潜在成長力を少しでも引き上げることができれば、企業・家計の成長期待が高まり、賃金が上がる。物価が上がっても大丈夫ということになる。そうなると金利にも上昇圧力が加わって、金融政策が正常化できる。経済が好転するので財政バランスの好転にも資する」として「成長戦略は引き続き重要だ」と語った。

東京国際金融機構として「脱炭素化が成長戦略としても非常に重要であり、それを金融面から支援していくことが大事だということを内外で主張していく方針だ」と述べた。同機構は、国際金融都市構想の推進役として2019年4月に設立された。

<トランジションファイナンスをアジアへ>

政府は昨年5月、産業界の脱炭素への移行(トランジション)を金融面で支援する「トランジションファイナンス」についての基本指針を策定。中曽会長は「トランジションファイナンスは東京国際金融機構が非常に重視している動きだ」と述べた。「ロシアのウクライナ侵攻に伴う燃料価格の上昇は、事実上カーボンタックスと同様の効果を発揮しており、脱炭素化の動きを加速させることになるとみておいた方がいい」と話した。

中曽会長は「トランジションファイナンスは日本の企業だけではなく、日本のサプライチェーンを構成しているアジアの企業にとっても重要」と指摘。日本の基本指針をアジア太平洋の国々と共有することや、発行体の認証やコンサルティング費用の助成制度の拡充が必要だと述べ「アジアの企業がトランジションボンドやグリーンボンドを発行する市場として、東京市場が役割を果たすべきだ」と語った。

環境分野の金融を巡り、欧州連合(EU)では「持続的な経済活動」の分類基準である「タクソノミー」があるが、経済活動を環境配慮的な「グリーン」と環境に悪影響を及ぼす「ブラウン」に二分する点に特徴がある。

中曽会長は「LNG(液化天然ガス)などへの依存度が高まっている中、今後EUのタクソノミーもグリーンとブラウンだけでなく、その中間のカテゴリーが入ってくる可能性がある」とした。その場合には「今日本がやっているようなトランジションファイナンスのやり方とEUのタクソノミーとの間で相互運用可能性があることが、投資家の立場からみると非常に大事になってくる。共通の物差しがないと投資家は投資判断できないからだ」と述べた。

<インベストメント・チェーンの高度化を>

岸田文雄首相は5日、ロンドンでの講演で「新しい資本主義を実現するためには、国際金融センターとしての日本の復活が必要だ」と述べた。中曽会長は目指すべき国際金融センターとして「21世紀の日本やアジアの国々の経済が直面する脱炭素化や成長力の強化といった課題を達成するために金融面から支援するという、真に必要とされる機能を果たしていく」と話した。

取り組むべき課題として、機関投資家・資産運用会社・投資対象資産からなる「インベストメント・チェーン」の高度化を掲げた。

機関投資家については「最も改善余地が大きいと思うのは企業年金基金」と指摘。今までは安全だがリターンの低い資産での運用が主軸だったが、運用執行体制をきちんと整えた上でリスク調整後のリターンを最大化することを目指すべきだと話した。

資産運用会社に関しては「日本では運用能力が高くても、(運用規模が)小さすぎたり、運用実績を示すトラックレコードが短いために活躍できない国内外の新興資産運用会社がいる」と指摘。新興のアセット・マネジャーに対して一定額の投資を任せる米国の「マネジャー・エントリー制度」に言及し「こういう仕組みが日本でもあれば新興の資産運用会社が活躍できるきっかけができるのではないか」と述べた。

インタビューは13日に行いました。

(木原麗花、和田崇彦 編集 橋本浩)