[ワシントン 17日 ロイター] - コロナ禍が経済を恐慌に落とし入れるのを防いで賞賛を浴びた世界の中央銀行が今、その後始末に苦慮している。どの中銀も予想あるいは予防できなかったインフレの高進と格闘しているのだ。

世界の中銀はさまざまな金融緩和手段によってコロナ危機に立ち向かい、先を見越した対応を採ったように見えた。ところが、ここ数カ月間は予想を外し、自らの過ちを認めるという屈辱を味わい、政治家から追求され、国民の信頼感を失った兆候も一部に出ている。

中銀にとって一番の使命は物価の安定だが、米連邦準備理事会(FRB)や日銀といった主要中銀から、カナダ銀行、オーストラリア準備銀行といった各地の中銀に至るまで、多くの中銀が信頼感に傷を負った。政策対応で後手に回り、それに伴って景気後退の確率を上げてしまったからだ。

「中銀は目を閉ざしていた。世界中の政府と中銀による巨大な刺激策を受けてインフレが定着する、あるいはインフレ率が上振れするという声に一切耳を貸さなかった」と語るのは、スコシアバンク(トロント)の資本市場経済分析責任者、デレク・ホルト氏だ。

「2020年には既に(インフレになる)証拠は出ていたと私は思う」が、中銀はさらに1年間緊急プログラムを続け、当初のインフレ率上昇を一過性のものとして片付けた、と同氏は指摘する。

その結果、この1週間余りの期間に、FRBは1994年以来で最大となる0.75%幅の利上げを実施して市場を動揺させ、欧州中央銀行(ECB)は国債利回りスプレッドの拡大を抑えるために新たな緊急措置を慌てて模索し、スイス国立銀行は予想外の利上げを決め、イングランド銀行は経済見通しでスタグフレーションの進行を示唆。そして日銀の黒田東彦総裁は「家計が値上げを受け入れている」との発言で謝罪に追い込まれた。

コロンビア・スレッドニードルのシニア金利アナリスト、エド・アルハサイニー氏は、2007─09年の金融危機以来、各国中銀は経済成長と雇用を支えるため、また国によってはデフレ脱却のために「他の中銀よりも大幅に緩和する」競争を繰り広げてきたと指摘。今ではそれが逆転し、インフレが定着して人々の賃上げ、インフレ予想が上昇するリスクが高まったと語った。

<食品とエネルギーこそ重要>

中銀が超低金利政策を長期化し過ぎ、過剰なマネーを創造したこと自体がインフレ高進の原因だとの批判もある。

これに対して中銀側は、ウクライナ危機や、中国が世界のサプライチェーン(供給網)に復活できるかどうかを巡る不透明感など、中銀がコントロールできない要因が主な原因だと主張する。

原因が何であれ、家計は食品とエネルギー価格の上昇に不意打ちを食らい、中銀が近く2%の物価目標を達成できるとの信頼感は揺らぎつつある。

この憂慮すべき状況に、中銀自体も反応し始めた。

パウエルFRB議長は15日の大幅利上げ後の記者会見で、FRBが人々のインフレ予想を巡る闘いに敗れつつあるとの懸念について、過去の経験則に基づき率直な見解を示した。

エコノミストの間では、家計調査で示されるインフレ予想は、食品やエネルギー価格など一時的要因に過度に反応し過ぎるため重視すべきではない、との見解がある。しかしパウエル氏は「人々が経験しているのは(食品やエネルギーも含めた)総合的なインフレだ」と認めたのだ。

金融政策決定では通常、食品とエネルギーを除く「コアインフレ率」の基調が重視される。これについて議長は「人々は『コア』など知らない。知るよしもない。従って、(総合インフレ率が高止まりすると)インフレ予想は非常に危うい状態になる」と述べた。

ピーターソン国際経済研究所のシニアフェローでハーバード大教授のカレン・ダイナン氏は「中銀は、長期のインフレ予想がすべてだと自らに言い聞かせてきた」と指摘。しかし「人々はこれまでの状況も振り返るし、惰性の法則も働く」ため、賃金と物価がさらに上昇するような行動を採り始めると話した。

中銀は国民からの信頼が揺らいでいるだけでなく、政治家からも厳しい目を向けられるようになった。

カナダ銀行のマックレム総裁は更迭要求に直面している。オーストラリア準備銀行はインフレ動向を見誤り、昨年末時点で2024年まで利上げしない可能性が高いと表明しながら今年5月に利上げに着手。このため政府は中銀運営の見直しを検討中だ。

パウエルFRB議長は22、23日に議会上下両院の委員会で、金融政策について半年に1度の証言を行う。インフレ率上昇の脅威と、利上げが進み金融市場が下落する中で経済がどこまで悪化するかが焦点になりそうだ。

元FRB高官で現在はドレイフュス・アンド・メロンの首席エコノミストであるビンセント・ラインハート氏は、中銀が独立性を保つことは、「状況が悪化している時よりも、中銀が進展している時の方が簡単だ」と指摘。過去には、金利がゼロ近辺から上がり始めて景気が減速するものの、まだ失業率の上昇は顕在化していないという「金融引き締めの比較的楽な段階」において過ちが起こった経緯があると説明した。

(Howard Schneider記者、Julie Gordon記者、木原麗花記者)