[ロンドン 29日 ロイター] - 2017年3月。ベラルーシのルカシェンコ大統領と企業家ビクトル・プロコペニャ氏との会談は当初1時間の予定が、結局3時間に及んだ。会談で、国内のIT産業てこ入れのために規制案を提言してほしいと要請されたプロコペニャ氏は以来、IT企業や弁護士と協力し、頭角を現すデジタル産業についての指針案作りに乗り出した。暗号資産(仮想通貨)産業だ。

それから2年、ルールは整った。投資家はプロコペニャ氏が運営する取引所で暗号資産ビットコインを取引できるようになり、他にも独自の暗号資産プラットフォームを立ち上げる企業が出てきた。

「自由であるべき面は自由にし、他の面は非常に厳しくする」。プロコペニャ氏はロンドンでロイターに対し、規制の考え方を語る。

ベラルーシやバーレンなど一握りの小国が今、暗号資産のルールを整備している。こうした動きは世界的な暗号資産市場の発展と、取引プラットフォームからブローカーに至る市場参加者の増加に一役買うかもしれない。

暗号資産企業が拠点を選ぶ際、これまでは両極端の選択肢しかなかった。

ロンドンやニューヨークといった主要金融センターは、伝統的な金融サービスの規制を暗号資産セクターにも適用しており、安全性を求める大手機関投資家には魅力的かもしれない。しかし暗号資産スタートアップ企業の多くは、法令順守の複雑さやコストの高さによって参入を阻まれる場合がある。

逆にセーシェルやベリーズなど規制が緩い法域なら、市場アクセスはずっと簡単だ。しかし弁護士によると、こうした場所は投資家への保護措置が少なく、マネーロンダリング(資金洗浄)の監視も甘い。

こうした中、ベラルーシ同様、バーレーン、マルタ、英領ジブラルタルなど暗号資産産業に新規参入している国や地域は、第3の道を提供しようと目論んでいる。暗号資産特有の規則を作って規制面の安全性を確保するとともに、税制優遇などのメリットを提供して企業を誘致しようとしているのだ。

成功の保証はないが、これらの地域にとって暗号資産は、台頭する市場の分け前にあずかる貴重な機会だ。巨大な金融センターが「静観」している間に投資を呼び込み、雇用を創出できる可能性もある。

クリフォード・チャンス(ニューヨーク)の弁護士、ジェス・オバロール氏は、「見ざる聞かざる」を決め込む法域の対極に米国、英国、欧州連合(EU)が位置し、「その中間地帯においしい部分がある」と指摘する。

同氏によると、暗号資産独自の規制枠組みができれば国も企業も恩恵を受けるが、国家が規制のやり方を間違えれば、暗号資産の違法利用撲滅を目指す世界的な規制と衝突しかねない。

実際、これらの小国がハッカー攻撃や違法行為を一貫して防止できるかどうかには、大きな疑問がある。また、予見不可能で急速に発展する業界だけに、規制がすぐに時代遅れになるリスクもある。

<アメだけでムチはなし>

シンガポールの暗号資産企業ZPXは来月、HFTと呼ばれる超高速取引の業者やヘッジファンドなどの機関投資家向けに暗号資産取引プラットフォーム「Qume(キューム)」を始動する。事業拠点にはバーレーンの首都マナマを選んだ。場所選びに際して同社が考慮した問題は、この業界の多くの企業が直面するジレンマを象徴している。

ZPXのラマニ・ラマチャンドラン最高経営責任者(CEO)は、規制が緩かったり存在しなかったりする「オフショア法域」は避けることにした。世界の規制当局や政治家が暗号資産にますます目を光らせる中、大手投資家を遠ざけることになると判断したからだ。

バーレーンは今年2月、暗号資産企業のルールを導入した。顧客の身元調査、企業統治基準、サイバーセキュリティー上のリスク制御といった内容が盛り込まれている。

ラマチャンドラン氏によると、バーレーンのような小国での拠点設立は、主要金融センターに比べて法令順守・運営コストもはるかに安い。ZPXの推計では、バーレーンなら年間20万ドル前後ですむところが、ロンドンだと少なくとも75万ドルかかる。

ZPXの共同創業者アディトヤ・ミシュラ氏は、規制当局者と密に連絡を取れることも、小国ならではの利点だと話す。バーレーンは湾岸市場へのアクセスも良い。

別の暗号資産取引プラットフォーム、「iExchange(アイエクスチェンジ)」は今月、ベラルーシの首都ミンスクで事業を始めた。ロシアなど独立国家共同体(CIS)諸国の投資家を呼び込む狙いだ。

同社の共同創業者Igor Snizhko氏は、ベラルーシはこの地域の他国にない規制の枠組みが整っているため、最良の選択肢だと説明。「CIS市場の多くは非常に有望であると同時に、非常に危険だ。大手かつ老舗の市場参加企業の多くは今も、1つ恐れていることがある。透明性の欠如だ。われわれは『グレーな』法域では活動したくない」と話した。

ベラルーシは暗号資産の発行企業に監査を義務付け、プロジェクトの詳細を提出させるなどの規制を導入した。

一方で、暗号資産のマイニング(採掘)や取引に携わる企業に税控除を施したり、通貨管理やビザ(査証)の規制を緩くするなど、優遇措置も提供している。「アメだけでムチはない」とPwCは指摘する。

対照的に米国は暗号資産の取引に課税しており、英国ではキャピタルゲイン課税が適用される。

<オーダーメード>

正確を期すと、独自の暗号資産ルールを設けているのは、ベラルーシやバーレーンのような小国だけではない。フランスや日本のような一部大国も同様の方向に動いている。

しかしケンブリッジ大の研究によると、小国の方が、最も洗練された「オーダーメード」型アプローチを採る傾向がある。研究論文の執筆者の一人、アン・ゾフィー・クルーツ氏は、このおかげで、以前は暗号資産セクターの法的地位の不透明性を警戒していた暗号資産企業や銀行にとって、状況が明確になったと話す。

ベラルーシの企業家プロコペニャ氏は、インスタグラムにキプロスのスポーツカーやドバイのビーチの写真を投稿し、560万人のフォロワーを獲得する人物だ。同氏は、暗号資産には資金洗浄などのリスクもあると認めた上で、規制が明確ならその影響を緩和することが可能であり、ベラルーシのような国々は市場獲得のチャンスを逃してはならないと指摘。「最大のリスクはリスクを取らないことだ」と語った。

(Tom Wilson記者)