Elaine Lies 竹中清 Chris Gallagher

[湯沢市(秋田県) 14日 ロイター] - 気温が上がってきた夏の昼どき、街の中心部にある商店街は半分以上の店がシャッターを下ろしている。通りに人影はほとんどなく、たまに見かける通行人はみんな高齢者だ。

百貨店の大きなビルは、耐震基準に合わずに使われなくなったが取り壊すにもコストがかかるため放置されている。駅からほど近い、「I LOVE YUZAWA(湯沢が大好き)」と壁面に書かれた建物にも人は見当たらない。

東京から480キロ離れた秋田県湯沢市は、次期首相の座が近づく菅義偉官房長官(71歳)の故郷だ。菅氏が生まれ育った秋ノ宮の集落は住民の半数近くが60歳以上、これから菅氏が日本のリーダーとして直面する問題が凝縮されている。

湯沢市は人口減と高齢化で税収が悪化、財政は政府からの補助金に依存せざるを得ない。県内の他の自治体との合併が選択肢の1つとして浮上している。

「世界で最も高齢化が進む日本の中でも、一番は秋田。その中でも湯沢が最も進んでいる。高齢化の一番の先端はこの湯沢ということになる」と、湯沢市役所の阿部透課長は言う。阿部課長によると、住民の40%近くを65歳以上が占め、日本の全国平均28%を大きく上回る。

「正直なところ、国からの財政支援がないと回って行かない」と、阿部課長は話す。市の年間予算270億円のうち、税収で賄えているのは5分の1に過ぎないという。

<たばこは貴重な税収>

湯沢市は、冬になると2メートルの雪が積もる豪雪地帯でもある。そんな街で生まれ育ったということが、世襲や裕福な家庭の出身者が多い日本の政界の中で、「叩き上げ」という菅氏のイメージを際立たせる。

そして、それは外国人観光客の誘致、農協改革、ふるさと納税という形で菅氏の政策にもつながっている。

看板政策のふるさと納税が始まったのは2008年だが、「(その)はるか前から話をしていた」と、総務官僚として菅氏のもとで働き、のちに事務次官になった岡崎浩巳氏は振り返る。「自分は秋田で高校まで育って世話になっているのに、上京してから一銭も(故郷に)納税していないのはおかしい。何か仕組みはないだろうか、と」。

住民の多くは経済的な衰退の原因を人口減少、とりわけ低い出生率にあるとみている。

すでに廃坑となった銀山で働いていた人たちを含め、1955年には8万人がこの街で暮らしていた。それが今は半減、昨年高校を卒業した生徒はわずか442人だった。

秋田県の人口1000人当たりの死亡者を見ると、2019年は16.4人と47都道府県で最多。全国全体の11.2人を5人以上上回る。一方、1000人当たりの出生率は4・9人で全国最低だ。

市の職員によると、今年度のふるさと納税の税収は4億円を見込んでいる。苦しい台所事情を大きく変えるには至らないが、わずかな収入でも支えになるという。

商店街に設置されたたばこの自動販売機の脇には、市のたばこ税収は2019年、2億8935万円だったと書かれたビラが貼ってあった。「地元の貴重な財源です。たばこを買いましょう」と呼びかけていた。

2015年、湯沢市は人口減少に歯止めをかけようと、子ども向け医療助成の拡充や子どもを預けるデイケアの強化、奨学金の返済支援など、一連の対策を打ち出した。しかし、高齢化で停滞する街の経済を復活させるのは難しいと、住民は考えている。

「大きなスーパーマーケットでもいいので、みんなが来たいと思えるような施設があれば」と、湯沢市で生まれ育った30代の女性は言う。

<「夏イチゴ」の一大産地に>

菅氏の実家は、街の中心部から離れた秋ノ宮の集落に今もある。3年前に母親が高齢者施設に入ってからは誰も住んでいない。

この集落は稲作が盛んで、冬になると農家は東京へ出稼ぎに出た。それを変えたのが、菅氏の父親である和三郎氏だった。米作りよりも身入りの良いイチゴの栽培を始め、組合を作り、地元に広めた。

「お父さんが(菅)官房長官に何かを直接指導したということはない。お父さんの思いとか取り組みとか、そばで見ておったですね。自然に官房長官の中に芽生えたのでしょう」と、子どものころからの友人で、市議を務めた由利昌司氏(71歳)は振り返る。

菅氏はイチゴの栽培を手伝い、無口で頑固、夜に何時間も野球の練習をし、希望のポジションを勝ち取ったという。

「夏イチゴ」の産地として有名になった湯沢市は、最盛期には200軒の農家がいた。それが今は60数軒まで減った。その半数以上は高齢者だ。

(Elaine Lies、竹中清、Chris Gallagher 日本語記事作成:久保信博 編集:田中志保)