Rami Ayyub Steven Scheer

[テルアビブ 26日 ロイター] - イスラエルは世界でもいち早くCOVID−19(新型コロナウイルス感染症)ワクチンの接種を進めてきた。したがって、いま同国が直面している課題には、いずれ他国も取り組まざるをえない。すなわち、公衆衛生とワクチン未接種者の人権とのバランスである。

そうした判断は、学校から職場、文化から宗教に至るまで、生活のあらゆる場面に影響を及ぼす。

イスラエル国民の半数はすでに1回目のワクチン接種を受けた。1年にわたるロックダウンとリモートワークの日々を経て、イスラエルは今週、経済活動の再開に踏み切っている。

だがワクチン未接種者はいくつかの活動から排除されており、健康上の理由で接種を受けられない人や、ワクチン接種を拒否している人の怒りを買っている。

すでにワクチン未接種の従業員の出社を禁止することを予定している企業もあり、人権擁護団体は、ワクチン未接種を理由とした失業が生じることを懸念している。労働組合からは、72時間おきの検査などの代替案が提示されている。

企業オーナーのヒラ・バー氏は、医療不信ゆえにワクチン接種を受けない予定だ。「一部のイベントに参加できない、あるいは娯楽施設の利用が禁止されるといった現実はすでに受け入れている」と語る。

「私の方でも行くつもりはない」と同氏は言う。「店によっては利用しなくなるところもある。私が行きたくないというのではなく、向こうが私と取引したくないだろうから」

<人権か、公衆衛生の義務か>

強制ではないものの迅速にワクチンを配布したイスラエルは、接種ペースという点で世界に先んじている。個人の権利と公衆衛生上の義務とのバランスというほぼ未解決の問題にどう対応するのか。他の諸国も先行するイスラエルの経験に関心を注ぐことになりそうだ。

ここ数週間、ユーリ・イーデルスタイン保健相は「ワクチン未接種者は、誰であっても取り残されることになる」と警告している。

イーデルスタイン氏は、ワクチン接種者に劇場やスポーツジム、死海沿岸のリゾート施設の利用を認めるなど、新たに導入される優遇措置は、接種促進に向けたインセンティブであると明言している。

だが、人権活動家や企業の一部には、労働者のオフィス復帰やワクチン未接種者の保護に関する新たな法律が国会で制定されていないことへの懸念がある。これでは各企業が独自のルールを策定せざるをえない、と彼らは言う。

ガイドラインや法案をめぐる当初の議論からは、企業や政府機関、裁判所が個人の要求よりも公衆衛生上の懸念を優先していることが窺われる。

エルサレムにあるインテル系列の企業モバイルアイでは、4月4日の時点で、ワクチン未接種の従業員はオフィス出社を許されないが、業務上可能な場合には在宅勤務が認められるという。

モバイルアイでは、1500人の従業員のうち約10%がワクチン未接種になると試算している。オフィスに出社せざるをえない場合には、48時間以内に受けたPCR検査で陰性であることが条件となる。

アムノン・シャシュアCEOはロイターの取材に対し、書面で「オフィスを安全な場所にしておくことが経営陣の義務だ。従業員とその家族の利益を向上させることが他の何よりも優先される」と回答している。

<国会に立法措置求める声も>

24日に公表された注目すべき調査では、イスラエルで使用されたファイザー/ビオンテック製ワクチンにより、接種を受けたイスラエル国民のあいだで有症患者が94%減少したという結果が示された。

だが一部の当局者による内々の試算では、16歳以上のイスラエル国民のうち10%に当たる約65万人にはワクチン接種を受ける意志がないとされている。

複数の人権擁護活動家によれば、従業員にワクチン接種の有無を明らかにするよう要請するだけでも医療プライバシー権の侵害になる可能性があり、市民的自由に対する潜在的な問題として、場合によっては国内の裁判所で訴訟になる恐れがある。

「ワクチン接種を受けられない、あるいは受けたくない人を傷つけることなく、どうやって市場、経済、生活を再開していくかという問題だ」と語るのは、イスラエル人権協会(ACRI)でエグゼクティブ・ディレクターを務めるシャロン・アブラハムワイス氏。

同氏は国会による立法措置を求める一方で、「負担を被ることになるのは、労組未加入の労働者、非正規労働者など、弱い立場にある人々だ」と語る。

企業経営者らも新法の制定を求めている。ワクチン未接種の労働者の雇用を保護する法案を用意しているか保健省に問い合わせたが、コメントは得られなかった。

約50万人を雇用する1800社が加盟するイスラエル製造業協会など、大規模な業界団体の一部では、加盟企業向けに政策ガイドラインを作成し始めている。

同協会のロン・トーマー会長によれば、加盟企業は「社員を街中で追い回して注射器の針を肩に突き立て、ワクチン接種を強要しているわけではない」ものの、接種を促すためにあらゆる手を尽くしているという。

同協会の委託により作成された法律専門家の見解をロイターが閲覧したところ、加盟企業は、個人の医療情報の請求としてではなく、他人に感染させることを予防する「安全策」として、従業員にワクチン接種の有無を尋ねることができる、とされている。

雇用する側は、ワクチン未接種のスタッフが自宅から、あるいは隔離された「バブル」内で働けるように合理的な措置をとるべきである。だがそれが不可能な場合には、無給の休職を命じるか、最後の手段としては解雇することもできるというのが、この法律専門家の見解である。

この見解を執筆したのは、雇用問題に詳しい著名な弁護士ナチュム・ファインバーグ氏。同氏はロイターに対し、「接種を受けたくないというのは問題ない。(略)従業員には自分のプライバシーを守る権利もある。だが一方で、公衆、企業、顧客の権利もある。それがつまり、私たちがサービスを提供する相手だ」と語った。

イスラエル国内最大の労組である「ヒスタドラット」は、解雇を回避する策として、在宅勤務が不可能なワクチン未接種の労働者は、72時間ごとに勤務先に対して新型コロナ陰性との検査結果を提出するという案を出している。

<「免疫証明」保持者には特権>

イスラエル政府は21日、ワクチン接種を2回受けたか、COVID−19から回復した市民に対してある種の特権を与える「グリーン・パス」制度を開始した。

現実に適用された例の1つが、今週テルアビブで行われた小規模な野外コンサートだ。入場を認められたのは、政府が発行する免疫証明書の保持者だけである。

また国会は24日、ワクチン未接種の住民の氏名を保健省が地方自治体に対して開示することを認める法律を可決した。

ACRIは、プライバシー権を侵害しているとして、この法案に反対している。

エルサレム・ヘブライ大学法学部は声明のなかで、ワクチン接種に関する法令は「個人の医療ではなく、公衆衛生上の問題である」と主張している。

この声明では、イスラエルの既存の国内法は、ワクチン未接種者に制限を科す、また場合によってはワクチン接種を義務付ける法的権限さえも保健省に与えている、と述べている。

ヘブライ大学で法哲学を研究するデビッド・エノック教授は、「ワクチン接種の義務を果たした者に、他の者が別の道を選んだことによるコストを負担するよう求めるべきではない」と話している。

(翻訳:エァクレーレン)