居酒屋だけではなく、家でアルコールを楽しむ習慣は以前にも増して根づいてきました。買ってすぐ飲める缶チューハイの分野で、急成長中なのがアルコール度数7〜9%の高アルコール缶チューハイです。いわゆる「ストロング系」缶チューハイ市場でシェアトップを走り続けるのが、サントリーの「-196℃ストロングゼロ」です。「-196℃」は2005年に誕生。果実丸ごとを-196℃で瞬間凍結して粉砕という独自の特許製法により、従来の果汁だけの果実感では出せなかった「果実本来のおいしさ」を缶チューハイに込められるようになりました。

2009年にはアルコール度数8%の「-196℃ストロングゼロ」を新発売。1本で満足感のある飲み応え、しっかりとした果実感が好評で年々売上を伸ばしています。10年近く高アルコール飲料の分野を牽引するこの商品が誕生した背景、ヒットの要因について、担当者であるサントリースピリッツ株式会社 RTD部課長、井島隆信さんにお話を伺いました。

井島 隆信(いじま・たかのぶ)

サントリースピリッツ株式会社 RTD部課長。2001年にサントリーに入社。6年ほど営業職に就いて小売店などを巡る経験を経た後、マーケティング部門に配属。3年間焼酎分野を担当後、缶チューハイやカクテルなどのRTD(Ready To Drink)商品の担当に。当初から缶チューハイブランド「-196℃」に携わり、ブランドのラインナップ強化や販売・宣伝の戦略を手がける。自社ブランドとともに缶チューハイ文化のさらなる浸透が今後の目標。


1強を崩す「新しい価値を持ったブランドを作れ」

缶チューハイというジャンルは、今でこそ各メーカーから多様なブランドが発売され、好みの味を楽しめるようになりました。しかし2000年代初頭はサントリーから見ると少し困った状況だったといいます。

「2001年に他社から発売された缶チューハイが市場シェアの大部分を占め、数年間は1強多弱の状態でした。それまでになかった缶チューハイ市場が広がってきた実感を持ちながら、自社商品では全く歯が立たなかったんです。そこで会社として『きちんと価値を持った強いブランドを作れ』というミッションが課されました」

きちんと価値を持ったブランド、とはどんなものでしょうか。

「マーケティングや販売の視点から『売れるブランド』というのはあると思います。でも私たちが扱うのは飲み物です。人はやっぱり美味しさを一番に考えるんじゃないでしょうか。その期待に応えられる味、他社ではできない新しい美味しさを作れば、それが価値となってブランドを支えるのだと解釈しました」

そこで開発されたのが、果実を丸ごと瞬間凍結して粉砕する「-196℃」。それまで果汁だけで果実の味を演出していたのを見直し、果実の皮や果肉を余すところなく使って、酸味や苦みを含めた深い味わいの缶チューハイを生み出しました。

「果実丸ごと使用という点は、他社とは明快に違う独自のポイントです。これは社内を説得する力になり、お取引先に説明するときも非常にわかりやすい。何よりお客様に対して何が美味しいのかをしっかり伝えられるのが強みでした。だから社内で初めて提案したときもサントリーの『やってみなはれ』精神に強力に後押しされ、順調に商品化できました」

このとき「-196℃製法」で特許を取り「誰のマネもしない、そして誰もマネできないベース」が出来上がったといいます。

「これが今の『-196℃ストロングゼロ』の躍進の原動力にもなっています。缶チューハイの市場で強いブランドがない、どうにかしなければいけない、という思いはマーケティングだけでなく開発や生産の部門でも共有していました。凍結製法は行き着いた一つの答えですが、それまで各部門での模索があったからこそ見つけたられた価値なのかなと思います」

高アルコールは他社が先行、それでも焦りはなかった

しかし2005年の「-196℃」発売後も一強のシェアはなかなか崩すことができずにいました。さらに2008年5月、ライバル社でアルコール度数8%の高アルコール缶チューハイが発売されます。サントリーが同じ度数8%で「ストロングゼロ」を発売したのは2009年2月。焦りはなかったのでしょうか。

「他社が発売する前から、高アルコール度数の缶チューハイについては開発を検討していました。飲み応えに厚みを出すには度数を上げる選択肢もありだと考えていたからです。シチューなどで濃いめの味が流行った時期でもありました。また他の背景として、2008年はリーマンショックで不景気になり家で飲むお客様が増えたこと、そしていわゆるメタボ健診の義務化がスタートして『糖類』を気にするトレンドにも着目していました」

先行されたおかげで高アルコール飲料市場が開拓され、後発としては助かったといいます。それに加えてサントリーの「-196℃ストロングゼロ」には別の強みがありました。

「他社商品の売り口は『強いお酒』であること。でも私たちの商品はさらに『糖類ゼロ』というアピールポイントを設定しました。お酒が好きな方は、同時に健康を気にされている。その心配を払拭するのが『糖類ゼロ』の機能性で、お客様が最終的に購買を決めるときの大きな理由の1つになったんです。『強いのに、糖類ゼロ』だからストロングゼロ。飲み応えと機能性の両立で、当初から目標としていたお客様層に支持されました」

サントリーではすでに一度、2008年に「-196℃ゼロドライ」という糖類ゼロの機能性を謳った商品を出しています。その手応えを見越した上で高アルコールという要素と掛け合わせ、「-196℃ストロングゼロ」に集約したといえます。それはサントリー独自の視点でした。

「果実丸ごとを使った独自製法、他社にない機能性の両立、この2つのおかげで高アルコールの缶チューハイとしては後発ながらも発売当初から他社商品より前に進むことができたと思っています。ただ、ここからブランドをどう育てていくかが新しい課題になりました。たしかに高アルコール分野である『-196℃ストロングゼロ』はお客様の支持を得られたけれど、缶チューハイ市場全体で見ると競合ブランドとのシェアはまだ大きく引き離されたままでしたから」

井島さんは結果に満足せず「ブランドを磨く戦略」を考えます。(後編へ続く)

サントリー「-196℃ストロングゼロ」

インタビュー・文:丘村 奈央子 撮影:是枝 右恭