現在、私は兵庫県社会保険労務士会会長を務めている。社労士および社労士会の存在意義について、会務を預かる立場として考えてみたい。新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、世界中で多くの人命が失われ、経済が停滞し、これまで当たり前と思っていた「集まる自由」「移動する自由」が大きく制限された。日本においては、雇用維持のため、雇用調整助成金の迅速な活用が求められ、多くの社労士がその支援に奔走した。

 私が社労士事務所を開業した1993年以降を振り返ると、バブル経済崩壊、阪神淡路大震災、年金記録問題、リーマン・ショック、東日本大震災、各地の集中豪雨・台風被害、そして今回のコロナ禍。日本社会には天災・人災、様ざまな国難が起こった。

 2007年に発覚した年金記録問題は、制度の根幹を大きく揺るがした。連日、当時の社会保険事務所には相談者が殺到し、大混乱となった。記録管理への疑念・不安、待ち時間の長さが相まって現場は騒然とした。公への信頼失墜に対し、社労士は、請われて相談ブースに入り、民の専門家として対応した。その後、総務省に設置された年金記録確認第三者委員会においても、多くの社労士が調査員として申立者の記録を丁寧に調査し、信頼回復に尽力した。

 私は年金記録問題を鎮静化させ、年金制度の崩壊を防いだのは、社労士の力だったと考える。また、天災地変発生時、事業所の喪失等による離職者に対する失業給付申請を行い、経済失速時には、雇用維持に対する制度利用を支援する役割を果たしてきた。過去の非常時、国難において、社労士の専門的知見と実行力が日本社会に大きく貢献した。

 社労士は、平時は主に中小企業の労務管理のサポートや複雑な年金制度への橋渡し役を職責としているが、非常時の国難に際しては、日本社会のセーフティーネットの速やかな活用を支援することが職責である。個々の社労士は、目の前にいる依頼者・相談者に真摯に向き合い、世の中の一隅を照らす。社労士会は、その活動を組織化する必要があれば、プラットホームの役割を果たし、また平時においては、研鑽し、励まし合い、情報交換する資格でつながりあったコミュニティーである。今年4月1日には中小企業においてもパートタイム・有期雇用労働法が施行された。コロナ禍でも「働き方改革」は進行している。社労士に対する大きな期待を感じつつ、一人ひとりの社労士と社労士会が職責を果たし、世の中をより良くすることに貢献できればと考える。

兵庫県社会保険労務士会 会長 古澤 克彦【兵庫】