地域別最低賃金の引上げ額の目安は、全国加重平均で31円(3.3%)増の961円で決着した。CおよびDランクの30道府県にも30円増を求めており、仮に地方審議会で目安どおりの改定が行われば、最高の東京は現行の1041円から1072円に、最低の高知と沖縄では820円から850円まで高まることになる。

 ここ数年は、明らかな根拠がないまま20円台の引上げが連発されてきた印象は拭えなかったが、今回は急激な物価上昇という分かりやすい背景がある。実質賃金指数の算出に用いられる消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合指数)は、昨年9月から前年同月比プラスに転じ、今年4月には同3.0%増にまで達した。続く5月は2.9%増、最新の6月も2.8%増と横ばいで推移しており、7月に入って物価手当の支給に踏み切る企業も現れている。

 懸念されるのは、最賃上昇の煽りを受けるであろう中小企業において、価格転嫁が進んでいない点だ。中小企業庁が5〜6月に15万社へ実施した調査によれば、直近6カ月のコスト上昇分を全く価格転嫁できていないとした割合は22.6%に上る。「1〜3割程度」とした割合も22.9%と高く、多くの中小企業は原材料費やエネルギーコストの上昇分をほとんど自ら飲み込んでいる。地域別最賃の決定に当たって考慮すべき3要素(最賃法9条2項)のうち、「通常の事業の賃金支払能力」が高まっているとはいい難い。

 目安額の答申に先立つ7月末には、下請取引にかかる振興基準が改正された。親事業者に対し、「労務費、原材料費、エネルギー価格等が上昇した下請事業者からの申出があった場合、遅滞なく協議を行うこと」などの文言を盛り込んでいる。成長と分配を掲げる政府のお膳立てに乗り、サプライチェーン全体でスムーズな価格転嫁を実現していく必要があろう。

 来春の賃上げにも当然、物価上昇の反映が求められる。連合および各産別は従来、過年度物価をもとに要求方針を組み立ててきており、注目せざるを得ない。