尾崎裕哉という表現者が世に出てから10年が経ち、待望の1stアルバム『Golden Hour』を完成させた。彼が過ごしてきたこれまでの時間、これからの決意を凝縮させた作品。その背景を本人に聞いた。



―尾崎さんは2010年にラジオDJで世に出たわけですけど、そこから1stアルバムのリリースまで10年。感覚的にはじっくり準備してきたという感じですか、それとも時間がかかってしまったという感じですか?

尾崎:かかってしまった方が大きいかもしれないですね。メジャーで作品を出すというのは自分だけの意向ではないし、周りの戦略的なことや、いろんな人が関わってくる中で、1stアルバムを出すタイミングがなかなかなくて。しかも、僕の場合レコード会社の移籍も挟んだので、ようやく出せる、満を持して出せるって感じはすごくありますね。

―そんな1stアルバムのテーマが”回想”なんですよね?

尾崎:そうなんです。明確なコンセプトがあるわけじゃないんですけど、まずタイトルを考えようと思って。いろんな案を考えている中で、ふと自分が昔南仏に行った時のことを思い出したんです。

―どんな思い出なんですか?

尾崎:画家のセザンヌがサント・ヴィクトワールという山を生涯描き続けたんですけど、その絵を見に行こうと思って南仏に行ったんです。アトリエから5分か10分歩いたところにレ・ローブの丘があって、そこからセザンヌが見た景色をそのまま見れるんですよ。そこに行った時に、ちょうど夕暮れ時のゴールデンアワーで、めちゃめちゃ素敵だったんです。それをiPhoneで撮ってそれ以降ずっと壁紙にしてたんです。その時のシーンが自分にとって象徴的で。ちょうど大学院を卒業するぐらいのタイミングで、これからの人生はもう学生じゃなくなると、どうしようって。音楽やりたいけど音楽ってそう簡単に誰でもできるわけじゃないし。ラジオのパーソナリティをやって、この業界にツテはあっても、そう簡単にできることじゃないなと思って悩んでたんです。

―ええ。

尾崎:そんな時期にその景色を見て、それでもやっぱ前を向いていきたいと思ったんです。その時、セザンヌやゴッホの人生の話とかも聞いたんですけど、彼らは亡くなった後に有名になっているけど、少なくとも絵を描いている時はすごく幸せだったと。やりたいように自分の求めるアートを追求する、そういう生き方も悪くないなっていうふうに思いながら彼らも過ごしていたんです。非常にアーティストっぽいですよね。そういうものを目指したいという象徴があの風景だった。で、その写真をアルバムジャケットに使いたいって思った時に、これまで僕が歩んだ人生、いつ見ても景色はゴールデンアワーのように輝いていて、眩しいねって。それが僕の青春だなと思って『Golden Hour』っていうタイトルに決めました。

―アルバムのジャケットがその写真なんですね。

尾崎:そうです。


「蜃気楼」のテーマは”オリジナリティの発見”

―素敵な写真ですが、尾崎裕哉の名前も入っていない抽象的なジャケットをよくぞレコード会社がOKしてくれたなぁと(笑)。

尾崎:アハハハハ! 確かに。いくつかのデザイン案の中から選んでいく中でこれが一番良いねってなったんです。で、”回想”を中心に曲を集めていったら、歌詞の内容が非常に内面的というか、内省的なものだった感じです。

―M8の「蜃気楼」という歌も、父・豊さんとの関係性を歌っているように聞こえます。でも、その枠を超えて、シンプルに歌に共感出来ました。

尾崎:あの曲はオリジナリティの発見というのを一つのテーマにしているんです。自分が目指そうとしたもの、僕にとっては尾崎豊を目指そうとして頑張ってコピーしたりとか、歌声を真似してみたり、もちろん、好きでやってたんですけど。でも好きでやってたことが自分が目指している像ではなかったっていう、幻覚が崩れた時があって、それの象徴として蜃気楼っていうものをピックアップしたんです。単純に自分が歌を練習し始めて尾崎豊を経典のように扱ってなぞっていた時の想いを書くところからあの曲の制作を始めました。



―今は尾崎豊はどういう存在ですか?

尾崎:今は割と距離を取ってますね。必要以上に聴いちゃうと影響されちゃうし。まぁ影響されてもいいんですけどね。前よりもいちアーティストとしての側面が強くなったというか、作品という感じですかね。尾崎豊という作品を客観的に見て、基本距離は保つんだけど、でもたまに遊びに行くみたいな感じです。

―なるほど。

尾崎:アルバムに入っている「音楽が終わる頃」「Rockn Roll Star」という楽曲にしても、父親の歌詞をサンプリングしてるんです。歌詞のサンプリングって俺は言ってるんですけど、あえてそういうキーワードをぶつけて、分かる人には分かる。でも分からない人にはすんなり聴こえるようにすることを遊んでやっているんです。そういうのって人から見れば「またあいつ真似事してんじゃん」みたいな感じに取られると思うんですけど、サンプリングって要はそういうことじゃないですか。でもそこからどうやってオリジナリティに出ていくかだと思うんですが、どの曲もそれなりに成功していると思っています。尾崎豊の曲とはまったく違う作品にはなっているはずなので。だからまぁいいかなと思う部分と、尾崎豊との距離感ってそういうことなんですよね。歳が離れちゃったので、俺が15の時に「15の夜」を聴いていたようなシンパシーはやっぱりないわけです。俺はどっちかというと、窓ガラスを磨くタイプだし、盗んだバイクはすぐ警察に届ける感じだし(笑)。



―(笑)。

尾崎:以前はライブで熱くなって、お前ら俺について来いよみたいなことを言ってみたりとかしたんですよ。でもやりながら、自分のキャラじゃないなこれは、みたいなのがすごくあったんです。でもそういうのって実際にやってみたり演じてみないと分からない部分があるので。なんとなく分かってるんだけど、いざ体現してみて言語化していく中で、それが明確になっていきましたね。そういう中で父親と俺は別の人間だっていうことを強く感じました。それは重ねられれば重ねられるほど、別の人間だなっていうふうに認識していきましたね。


布袋寅泰をフィーチャリングした理由とは?

―なるほど。確かに「Rockn Roll Star」には”窓ガラスを割った””転げ落ちたベッド””放課後のチャイム”など尾崎豊を感じさせる言葉がたくさん出てくる。でも、良い意味で遊んでる感がすごくして。ニヤニヤしながら書いてるんだろうなって(笑)。

尾崎:そこは意図して書いてますからね。そういうところで面白さを感じてほしいというか。サンプリングの面白さって要はそういうところなので。だってJAY-Zがどのレコードをサンプリングしてるかをつきとめるために、みんな一生懸命にいろんなレコードを聴いてるわけで。そういうのって今っぽいなって個人的に思うんですよね。だから詩の引用も俺は好きなんです。別に尾崎豊以外のリリックも引用するし。リリックじゃなくても詩人とか小説家のフレーズから勉強して取り入れることもあるし。



―その「Rockn Roll Star」に関して言うと、布袋寅泰さんのギターがフィーチャリングされていますね。

尾崎:はい。どうでしたか?

―素晴らしかったです。ああいうギターを布袋さんに弾かせるのは贅沢だし、正解だと思いましたね。

尾崎:ね! いいでしょ!

―布袋さんとの出逢いは?

尾崎:共通の知り合いがいて、それで布袋さんのNHKホールでのライブを観に行ったりしました。「Rockn Roll Star」はデビュー前から歌っていた曲でもあったんですけど、このタイミングでアルバムに収録するにあたりロックンロールスターにギターを弾いてもらいたいよねって話になって。布袋さんとは直接インスタで繋がってたんでDMを送ったんです。「アルバムの最後の曲が”Rockn Roll Star”って曲で、アウトロを布袋さんに弾いてもらえたらものすごい幸せなんですけど、どうですか?」って感じで送ったら、マネージャーに連絡くださいって感じで返信が来たんです。で、音源を送ったらすぐOKって言ってくれたんですよね。

―おおっ。

尾崎:布袋さんはイギリス在住なので、デモを送ったら、その上に弾いてくれたのが返ってきたんです。布袋さんが他のアーティストの曲にギターでゲスト参加している曲、結構好きなんです。で、どういう感じのが来るんだろうなって思っていたら、音数も少なく想像以上に儚い感じで。そのタッチで来るんだって、最初聴いた時から震えましたね。やっぱり凄いなと思いました。

―ロックンロール全開のザ・布袋さんじゃないところが本当に良かったです。

尾崎:すごくエネルギッシュな、いわゆる布袋さんノリじゃないところの方がリアルな布袋さんだと実は思っていて。布袋さんのギターってとても詩的だし、彼のアルバムに対するコメントを読んでも、やっぱりアーティストなんですよ。

―確かに緻密なギタリストですよね。

尾崎:そう思います。よく考えているっていうか、深い人だなと思っていて。そういのがすごく表れていて、いろんな意味で良いコラボレーションだったなと思っています。


「I LOVE YOU」ではなく「143」

―言葉の話に戻ると、個人的にこのアルバムの中で一番好きな曲「143」の意味はI LOVE YOUですよね。でもI LOVE YOUを使わないで143というスラングで行くんだと思って(笑)。

尾崎:そうなんですよ(笑)。わかってくれて良かった。



―尾崎裕哉が「I LOVE YOU」というタイトルの曲を作ると意味が出すぎちゃう?

尾崎:そうですね。この曲のアレンジャーのSUNNY BOYと曲を制作している段階から「この曲はI LOVE YOUで行こうよ」となっていて、仮タイトルは「I LOVE YOU」だったんですよ。でもサニーも直接的じゃない方が良いっていう僕の思いも察してくれたというか、歌詞を全部書き終わっていないタイミングで「143って知ってる?」ってサニーから言ってきて、「あ、それいいね」ってなったんです。ポケベル時代のスラングなので今の世代は使わないかもしれないけど、俺とかもうちょっと上の人で、帰国子女的な人だったらある程度分かる言葉ですよね。

―やはり意識はしたんですね。

尾崎:「I LOVE YOU」って1stアルバム『十七歳の地図』の3曲目に入ってたんですよね。だから俺もアルバムの3曲目にぶつけてやろうかなって最初は思ったんです。でも他の曲の並びとかもいろいろあって、後ろの方になっちゃったんです。でも本当は「143」はメイン級というか、すごく良い曲だから、もうちょっと上にしてあげたかったんです。けど、全体のバランスを見てラス曲前になりました。

―曲順に関係なく良い曲です。キュンキュン来ました。

尾崎:ありがとうございます。ギターに関してもホーンセクションをモチーフにしたギターを弾いているので、J-POPの中でやっている人はいない感じの演奏になりました。ジョン・メイヤーの影響をそういうところで出せたのも俺的には嬉しかったです。

―それと尾崎裕哉の代表曲ともいえる『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1』主題歌「Glory Days」(2017年リリース)も収録されているのも嬉しいですね。



尾崎:回想がテーマでもあるので、自分のキャリアのターニングポイントの一つになった曲だから、これは入れたいなっていう思いだったですね。蔦屋好位置さんと一緒に書いたアップテンポな曲もいいし、これまでの全ての感謝も込め入れさせてもらったって感じですね。

―当時はどんな思いで書いたのですか? そしてあらためてどんな風に響いていますか?

尾崎:この曲はエウレカセブンの主題曲って最初から決まっていたので、それを意識して書いた部分があります。作詞はいしわたり淳治さんと一緒にやっているものあり、どこか自分の曲じゃないみたいな意識もあったんですよ。クライアントのために書いてるみたいな。でも、この曲が多くの人に受け入れられていく中で、自分が何回も何回もライブで歌っていく中で、自分のものになったなって感じがすごいしていて。だから今はより素直にこの曲を歌えている気がします。誰のために書いたとかそういうことじゃない、単純に良い曲だなって自分でも思えるし。自分が歌うべき曲かなって思える。だから完全に受け入れましたね、この曲を。


ソロアーティストの強みにもなるコラボレーション

―今回は布袋さんだけではなく、楽曲制作のおいていろんな方とのコラボレーションもありますね。裕哉さん自身も音楽的な引き出しも広がったんじゃないかと。

尾崎:そうですね。アレンジで参加してくれいるTomi Yoさんも、SUNNY BOYも売れっ子ですが、一緒にやってみてその理由がよくわかりましたね。サウンドの新しいベクトルと、いま来ているもののバランスが上手いんですよね。その二つのフュージョンは自分ではできないなと思っていて。僕は自分の中から出てきた音を出すしかないみたいなこところがあるんですよね。0から1を作るっていうプロセスは特に。なので、それを上手く解釈してくれて、よりポップにしてくれるし、よりみんなが聴きやすいサウンドにしてくれるっていう意味ではすごく信頼しています。

―Tomi Yoさんとは裕哉さんが14歳ぐらいから一緒にやってるんですよね?

尾崎:そうですね。クラウチング・ボーイズという名義で尾崎豊のトリビュートアルバム『"BLUE" A TRIBUTE TO YUTAKA OZAKI』(04年)に参加した時に初めて会ったんです。あの時はしっかり曲を一緒にやるっていうより、彼の作ったトラックの上で朗読するぐらいだったので、音楽的には一緒にやってるわけじゃないんです。けれど、長い間知り合いで、僕が日本に帰って来る度に、カリントファクトリーに須藤(晃)さん(尾崎豊のプロデュサー。Tomi Yoの父)に会いに行くと、Tomi Yoさんがだいたいいるので最近何やってるの?みたいな話をしてたんです。で、今回のアルバムに収録されている「Road」を録ってアレンジしてもらったのがもう2年くらい前で。その時に初めてちゃんと音楽を一緒にやったんですけど、その時にTomi Yoさんのサウンドもそうだし、キャラも立っていて面白いなって。それで、今回のアルバム収録曲の半分くらいをTomi Yoにアレンジしてもらったんですけど、いろんな玉を投げて、どういうふうに返ってくるかを楽しみにしてました。

―M6の「想像の向こう」はKREVAさんが作詞・曲、更にアレンジまで担当。でもクレジットを見ないと裕哉さんの作詞だと思うほどの裕哉ワールドな曲ですよね。

尾崎:たぶん意識して書いてくれたところがあると思いますね。実はブリーフィングみたいなのを一回やって、その時別に大した話はしなくて。単純にどんな音楽好きなの?みたいな話しかしてなかったんですよ。その次の日にもっと曲について話そうかみたいな感じになった時にはもうこの曲が出来上がってて。あ、これで行きましょう!ってなりました。さすがKREVAさんだなぁと。



―このアルバム制作でいろんな人から刺激ももらった感じですね。

尾崎:そうですね。みんなそれぞれ違うから、この人に投げればこういう感じで返ってくる、みたいのを楽しんでました。あと制作面の話でもっと言うと、ミックスエンジニアも曲毎にバラバラなんです。アレンジャーも複数人使っていて、いろんな人と仕事をしたんですよね。その中でみんなの個性が分かって、音楽業界のこともちょっと分かったのも次への大きな収穫でした。

―ソロアーティストなのだからいろんな人と組んでいろいろ試してみるのはいいことですよね。

尾崎:そう思います。今の時代って、ヒット狙いの曲も大事だと思うんですけど、割と面で押すのが正しいかなと思っていて。それはAKBとかアイドル見てて思うんですけど、いろんなキャラクターがいて、いろんな楽曲があって、どれかは当たるだろうみたいな感じです。そういう意味で、いろんな曲作っていろんな表現をしていく中で、10代に刺さるものもあれば40代に刺さるものもあれば、みたいな感じで曲を書けたら良いなってザックリ思ってますね。そういう意味でいろんなコラボレーションをして、今回は割と洋楽っぽいテイストがあったけど、もうちょっとJ-POPっぽいものを作ってみたりとか、歌謡っぽいものを作ってみたりしてみたいですね。それを俺の軸がブレない範囲でできると良いなと思っています


”変わり者”の美学

―ここまでの10年間がブレない軸を作ったと思いますよ。

尾崎:だといいですよね。実際、この4、5年アーティストをやる中で、俺結構変わり者なんだなって気づいて(笑)。

―7年くらい前から裕哉さんのことを知ってますが、僕はとっくに気付いていました(笑)。

尾崎:(笑)俺自身は今気づいた感じです。ちょっと俺変だなって。やってる曲もちょっと他と違うけど大丈夫かな?って。そういうことに気づいて、でもまぁいいや、なるようになれって思ってます。そういう意味で自分に自信が持てましたね。自分が自分であることに納得できるようになりました。他人と比較した時にも、自分であることに満足できるかどうかって、アーティストとしてというよりも人間として、大事だなって思うんです。なので、今は楽しくやっています。

―最後に読者に何かメッセージをお願いできますか。

尾崎:ロックの形って結構変わったなと思います。俺もAC/DCから入ってギターを弾きはじめ、尾崎豊も通って、その後フランク・オーシャンとかも通りました。いろんな音楽が交わって今の自分になっているっていう意味で、クラシック・ロックみたいなものはないかもしれないけど、でも全部にロックの血は流れています。だってポスト・マローンもめっちゃギター小僧ですからね。そういうロックを聴いて育っている世代が、いま前に出てきています。俺は今でもクラシック・ロックを弾くし、聴くのも好きだし、今回のアルバムにもそのエッセンスは入っていますので、よかったら聴いてみてください。


<INFORMATION>


『Golden Hour』
尾崎裕哉
 SME Records
発売中

HIROYA OZAKI / ONE MAN STAND 2020

2020年11月7日(土)石川・金沢GOLD CREEK
2020年11月8日(日)新潟・ジョイアミーア
2020年11月13日(金)北海道・ふきのとうホール
2020年11月15日(日)栃木・HEAVENS ROCK Utsunomiya 2/3(VJ-4)
2020年11月19日(木)神奈川・F.A.D YOKOHAMA
2020年11月21日(土)埼玉・HEAVENS ROCK Kumagaya VJ-1

https://www.hiroyaozaki.com/