世界最大の音楽素材ライブラリ「Loopmasters」内にある、オーディオサンプルのクラウド音楽サービス「Loopcloud」。400万以上の音楽サンプルをプレビューしながら、それらの組み合わせ方、エフェクトに至るまで極限まで吟味した後に素材を購入できるサービスである。音楽制作の利便性と可能性を広げていく、音楽クリエイターが注目すべきツールの一つだ。

このサービスを用いて、Loopcloudが2021年1月末に初の国内限定リミックス大会を開催。大会では、RIZE / The BONEZ のフロントマンJESSEの楽曲「START LINE」を課題曲として、全国からリミックス曲が寄せられた。その中の優秀作品を集めたリミックスアルバム『RE/START LINE』もリリースし、一つの楽曲を素材に無限に広がる表現の幅を提示して見せた。

今回、Loopcloud JAPANのプロデューサーであるKihiroにインタビュー。ラウドロックバンドSupeやLOKAのフロントマンとして、日本やアメリカで活動してきた彼が唱える「Loopcloud」が広げる音楽の可能性。そして彼がこのサービスを浸透させた先に見据える展望について話を訊いた。

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ーそもそもLoopcloudはどのようなサービスなのでしょうか?

一番、文字で伝えるのが難しい部分ですね(笑)。基本的にはどんなDAWにもオーディオプラグインとして接続可能なソフトウェアですね。Loopcloudを立ち上げると、中には様々なループ、シンセ、スタブ、エフェクトなど、世界中から集まった音が400万種類以上入っています。特にLoopcloudの画期的な部分が、中にトラックがある点なんです。例えば1トラック目にキックを選んで、それを聴いている間に2トラック目にシンセを選んで重ねてみる。選んだ音を重ねて流したまま、組み合わせを試せるんです。さらにUIの中のエフェクト機能も無料で。そこまで試して、最終決定の時にポイント購入で音をダウンロードできるというものです。

ー完成ギリギリまで組み合わせやエフェクトを吟味して、満足のいった段階で購入できるんですね。

そうですね。あくまで自分が考えている時間の方が打ち込んでいる時間より大事だと思うんです。自分が作りたい完成形の100じゃないにしても、70から80ぐらいは作ることができて、そこから詰める作業に入るまでの時間をかなり短縮できるソフトだと思います。

ー今回は、JESSEさんの楽曲「START LINE」をサウンドサンプルの課題曲にしたリミックスアルバム『RE/START LINE』をリリースされました。この企画を思い至った経緯をお訊かせください。

日本ではLoopcloudのサービス自体が2017年にスタートしているんですけども、まだDTMとかDAWをよく使う人であれば知っているぐらいのレベルなんです。僕もバンドをやっていた頃は、作曲にあたって打ち込みやシンセの音などを買わなきゃいけないし、いちいちMIDIを打ち込まなきゃいけなくて。そんな時にLoopcloudを使ってみたら、こんなにおもしろいおもちゃはないし、こんなに簡単にできるの? と思って。ある程度、出来上がったものがあった方が楽だし、時短なんです。自分の思い描いているものを止めたくない。それを解決してくれるソフトだと思うんです。その想いをLoopcloudのイギリス本社に直接話したところ、日本にもっと広めてみようということになって。何が一番早いかなと考えた時に日本のアーティストが使ってますよというアピールが、1番クリエイターに分かりやすく伝わるんじゃないかなと思って始めました。

ーそこで、JESSEさんにもお声がけしたと。

僕とJESSEは同い年で、高校生の時から知っている仲なんです。17、18歳ぐらいの時から第一線に立っている仲の良いロックスターで、ヒップホップの分野でも刺さるかもしれない。ちょうど、Loopcloudを使ってほしいけどまだ気づかれてないだろう層に当たるんじゃないかなと思って話をさせてもらって。リンキン・パークのチェスターのボーカルのステムデータってオフィシャルで無料配布しているんですよ。それを聴いた時に「もうチェスターって死ぬことはないんだな」って思ったんです。誰かがチェスターの声を使って新しい曲を生んだら、チェスター自身はその中で生き続けるんだなと。常に彼の声というのは受け継がれていく。そのリンキン・パークの発想がロマンだなと思って。誰かの声で同じことをやりたいと思った時に、JESSEに「JESSEの声を世の中に提供して、作品、メロディを残してみないか」って話をして。彼も「それはおもしろいね」と言ってくれて。パッケージとして一度、我々のLoopcloudの中にJESSEの声を出して大会という形でやってみたらサービスも広まるし、彼の声を使った作品がよりたくさん出てくるんじゃないかなと思って、今回の企画を始めました。


JESSE

ー今回のリミックスコンペで収録される曲たちを選ばれた基準は何かあったんですか?

基準はやはり個性。やっぱり原曲を超えてきてほしいし、そんなことするの!? っていう意外性だったりとか。あとは、もちろんサウンドのクオリティですね。今回優勝したS-NAさんはとにかく音が良いし、センスが良かったというので選ばれました。あとは、2曲目のDEVDFRE$Hさんは、曲の頭から自分たちのメロ、歌とラップだけで攻めて、最後にJESSEの声を入れてきて。「いい裏切り方してきたな」みたいな印象を受けて、選ばれましたね。自分の歌を絡めてくるのは、今回の大会の中でも一番やってきてほしい部分で。自分の作品にJESSEを入れるという受け取り方をしたアーティストは選ばれましたね。

ーLoopcloudのもたらす可能性もお伺いしたいです。日本でもラッパーやトラックメイカーの方たちはトラックやタイプビートを購入する文化があると思いますが、海外に比べると。まだサービスが浸透しきっていないんですか?

サンプルを使うと、どうしてもチートって言われるんですよ。でも、考え方を変えてみると、要は大量のプリセットが入ってるのと一緒なんですよ。結局、他のプラグインで、シンセのプラグイン、ドラムのプラグインを購入したら、プリセットって絶対ついてくるわけじゃないですか。皆それをちょっといじるだけで終わらせる部分もあって。その行動と一緒で、フレーズを丸々使うのがずるいと言うのであれば、音楽を作る時にバンドメンバーにアイディアを求めないのか? という話になってくるわけです。Loopcloudの宣伝動画でもJESSEに言ってもらったんですけど、「いろいろな刺激を与えてくれる仲間がここにいるんだよ」と見てもらいたい。色々なミュージシャンのアイディアが詰まっている場所なので、そこから刺激を受けたり、ちょっとした手を差し伸べてくれているもの程度に思ってくれる方がいいと思います。ずるだって考えないで! 暗いわ! みたいな(笑)。



ー1人でも刺激を与えてくれるのは確かにすごいことですね。特に若い方とかシンガー・ソングライターの方も、1人で曲をDTMとか打ち込みで作る方も多いので、そういう人達の創作の刺激になる部分も多いですよね。

特にシンガー・ソングライターの子たちって、ライブではアコギ一本、ピアノだけの人もいるじゃないですか。そういう子たちって意外とDTMが使えそうで使えないんですよね。使っているんだけども、音が限られていることも多くて自分を狭めちゃう。そこにLoopcloudを使うと、全く違うヒップホップのビートに自分のアコースティックを合わせたら、新しいものが発見ができる。普段、自分はJ-POP風な弾き語りやっているけど、ヒップホップビートを聴いたらこんな曲ができちゃった! みたいなこともあり得る。そういう着眼点で、ご自分の音楽を広げてもらいたいなと思いますね。

ージャンルの壁も簡単に超えられるかもしれないですよね。

簡単に超えられちゃいます。あと、意外と自分の別の才能を発見したりします。僕も作るんですけど、何回かやっていくと、自分の属性が分かっていくんですよ。なんでいつもアムステルダムな感じになるんだろうな?とか、意外とチル系とかも作れるんだなみたいな発見もあって。今まで自分が思っていた自分の音楽のスタイルが、大きく開けちゃったりもすると思います。

ーリズ・ナズ・Xのヒット曲「Old Town Road」でもカントリーとヒップホップの要素を掛け合わせていたり、Nine Inch Nailsの楽曲からバンジョーのパートをサンプリングしていたりしていますよね。海外のヒット曲とかを見ていると、そういう組み合わせ方やサンプリングは確かに日本より多いのかな? と思いました。



海外でもそうなんですが、使ったサンプルは誰の物かっていう発信があまりないんですよ。そこがアーティストとして一番大事な部分じゃないかなと思っていて。西洋の考え方なのか、著作フリーで出しているんだから別にいいだろうっていうオープンさがあるからこそ、確かに広がりは早い。でも、そこに対してもう1個何かできるんじゃないの?と僕は思っていて。

ー誰のどの音やフレーズをサンプリングしているか明確にしてほしいと。

そうです。それってWin-Winじゃないですか。それがヒットしてあいつが作る素材はやばいっていう話になれば、作った本人もどんどん新しいものを生み出そうってなるし。それを売ってくれる人がいるのも、ちゃんとリスペクトがあるわけで。人間が作った音を売っているので、その人間に対するリスペクトが浸透してくれるといいな。映画のエンドロールでたくさんクレジットが入るのと一緒で、著作権フリーだからこそリスペクトする文化を日本なら広められるんじゃないかな。そういった文化が広がってくると、思いがけない縁が生まれると思うので。そこから日本の音楽シーンが育ってくれたら嬉しいなと思います。Loopcloud上でも400万種類もサウンドがあると、どのキックの音を使ってるんだろ? って話になってきちゃうところもあるので。そういうのも気にしつつやるのもありなんじゃない? って僕は思いますね。

ー世間的には、ミュージシャンって言うとSSWとかバンド、ラッパーなど表舞台に上がっている人たちが一番先に出てくるイメージがありますが、音楽素材を提供する側にもスポットライトが当たったりすると面白いかもしれませんね。

僕もボーカルなので、表に立つ人間としての特異性はあると思っているんです。でも、その後ろには支えてくれていた人たちがたくさんいるわけじゃないですか。あくまで前に立つ人ってリスナーに気づかせる立ち位置であって。こういうものを作っている人がいるんだっていう視点が循環していくと、音楽業界がもっと面白くなっていくんじゃないかなって思いますけどね。

ー例えば、サラリーマンの方がこういう音楽を作ってみたいと思った時に、こういう種類豊富な素材をちょっと組み合わせればすぐ曲にできちゃったりもするわけじゃないですか。平日の昼間はサラリーマンだけど、自分の時間でかっこいいトラックを作ってるんだみたいな。もっと音楽に介入してくる層が増えるきっかけになるツールなのかなと思いました。

全然できますね。ぜひ! って感じです。楽器を弾けなかったとしても、色々な素材の中で選ぶのもセンスだと思うんですよ。やっぱり自分の波信号に合うかどうかで選んでいるし、音楽ってきっとそういうことですよね。

ーバンドだとどうでしょう? Kihiroさんはご自身でもSupeやLOKAなどのバンドをやられていたわけですよね。バンドの作曲でもこういうサンプリングって使うものなんですか?



今でこそ使ってますけど、10代、20代前半の頃に欲しかったなって思いますね。当時の作曲の仕方はメンバー全員でスタジオに入って、誰かなんか弾け! ですからね(笑)。家で思いついたフレーズをスタジオに持って行ってこれどう? っていう作業だったんですけど、はっきり言えば効率悪いですよね。今だったら、サンプルやループを流して、セッションみたいな感じで合わせてひらめくスピードが早くなると思うんですよね。他のループを選んでいる間もお金が発生してないし。時短っていうのは作業の面でもそうなんですけど、ひらめきの部分も速くなっていく。今の時代ってリリースが速いじゃないですか。プロであるほど、そのスピードが求められると思うんです。発信者はどうしてもそのスピード感に追いつくように作業しなきゃいけないことを考えると、とても便利なツールだと思いますね。

ー多方面で作業の効率化とミュージシャンの可能性を推し広げられるんですね。

僕が聴きたい勝手なイメージで言うと、あいみょんとかも使ってほしいなって思いますよね。彼女のやっぱりフォーク風な昭和のメロディっぽい感じの良い部分が、例えばエレクトロサウンドになってしまうとか、聴いてみたいし、楽しみですよね。

ーあいみょんは全然イメージつかないですね(笑)。

イメージのつかないことをやれるのが面白いんですよね。僕がLoopcloud Japanとして掲げているテーマが"創造して想像を与える"っていうもので。Loopcloudを使って、その先を想像してほしいですね。

ーKihiroさんはLoopcloudに関連して、音楽素材を扱うレーベル「Tsunami Track Sounds」を立ち上げられていますね。これを立ち上げられた経緯もお伺いしたいです。

何よりも、Loopcloudの中に日本人のクリエイターがいないからですね。本社のLoopmastersでは、アーティストパッケージというのが出ていて、エレクトロ界とかダンス系のアーティスト、何億再生もされているDJなんかの音ネタが並んでいるんです。日本って特別詳しい人以外はそういう人を意外と知らなかったりするじゃないですか。本当にクオリティの高いサウンドが入っているんですけれども、同じくらいのレベルのミュージシャンは日本にもいると僕は思っていて。本社と話をして、日本のクリエイターにもチャンスを作ってあげたかったんですよね。自分の才能と音が世界中のユーザーに届くロマンを感じてほしいのと、日本人の才能をここから世界に発信してほしい。それに加えて、正直な話、ここでサンプルやループが売れればお金にもなるので。音楽を仕事にする収入源として別の道も与えられると思うんです。僕はSupeでアメリカで500本のライブをしてきたんですけど、その頃から日本をナメるなこの野郎っていう姿勢でやっていて。その気持ちがこういう形に変わって、日本のアーティストを世界に出したいと思ってますね。

ー海外でヒットした曲を聴いてみたら、自分が作った音が入ってたら面白いですよね。夢があります。

曲として選ばれないかもしれないけど、ワンフレーズとしては世界一位になっちゃう可能性もある。実は、3月18日に「Tsunami Track Sounds」から元SIAM SHADEのドラムの淳士さんのパッケージを出したんですよ。Loopcloudでダウンロードすると、ドラムとシンセのプラグインもついてくるんですけど、これに淳士さんが実際に叩いたドラムの各パートの音が入ってるんですよね。それを使って、今度は作曲大会をやろうと考えていて。武道館に何回も立っているドラマーの良い音が、自分のパソコンの中で扱えるようになるんです。色々なアーティストをどんどん出していって、例えば淳士さんと坂本龍一さんのピアノを合わせたり、名だたるミュージシャンをごちゃ混ぜにして、オリジナルの曲をユーザーが作れるようになったらおもしろくない⁉︎ って僕は思ってるんです。

ー意外な組み合わせもできるかもしれないし、オールスターみたいなものもできるかもしれないって面白いですね。

各アーティストをアニメのキャラクターみたいに僕は思っていて。悟空とルフィーが一緒のストーリーに出てきたぞ! みたいなものに育てていきたい。それをTsunamiのレーベルとしてやっているので、そこから日本を発信していきたいなと思っています。

ー最後に、kihiroさん自身がLoopcloudのサービスを通して叶えたい目標を教えてください。

野望で言ったら、フェスをやりたいですね。サンプリングの素材を出してくれてるアーティストも集めたいし、素材を使って曲を作っている人も出したい。ジャンルのクロスオーバーが生まれるフェスになるんじゃないかな。通常のミュージシャンが出てくるだけじゃなくて、ずっとコラボしてるようなフェスが出てきたら面白そうですね。色々なアーティスト同士が、売れてる、売れてないに関わらず、手を取り合えるようなイベントをやりたいですね。

ーイベントという現場からも、新しく組み合わせが生まれてきそうですね。

キックの音一つでも、似てるんだけども、本人の音かどうかってすげー大事だと思うんですよ。本人の筋肉やペダル、革やシェルなど全ての要素が含まれたドン! なわけじゃないですか。それをリスペクトする時代になってくるんじゃないかなって思っているんですよね。このクラッシュの感じは真矢さんだな、このチューニングはCharさんだなとか話せたらかっこいいじゃないですか。日本のそういうオタク気質が僕は最高だと思っているし、アーティスト1人にしか出せない気持ちよさと周波数があるわけで。人間だからこそ感じられるサウンドになってくると思うので、そういう注目の仕方も面白いんじゃないかなと思います。


<リリース情報>



Various Artists
アルバム『RE/START LINE』

発売日:2021年3月31日(水)
価格:1000円(税抜)
タワーレコード限定発売(数量限定)

=収録曲=
1. 「022 Melodic Mix 」 S-NA (優勝)
2.「 SCARLINE REFRESH Mix 」 DEVDFRE$H
3. 「Dark Chill Mix 」 THE GAME SHOP
4. 「90 Highway Mix 」T-AK ft. Mizuki
5. 「Santa Cruz Studio Mix 」 Daiki Yaku from Red Trigger
6. 「Electronic Mix 」 Eruker
7. 「終了間際の開始地点 Mix 」 sonota showsue
8.「 Future Rock Mix 」 killRRythm
9. 「Here To Somewhere Mix 」 Oscillation

Total Production : Tsunami Track Sounds 
Loopcloud Japan Mastered by : Hiroyuki Kawahara (Studio Certes)
Artwork by : 秀吉

購入ページ:https://tower.jp/item/5157023/RE-START-LINE%EF%BC%9C%E3%82%BF%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%89%E9%99%90%E5%AE%9A%EF%BC%9E