大久保伸隆が、2021年5月16日に4thアルバム『Time』をリリースする。1996年にSomething ELseのリード・ボーカルとしてデビュー。2006年にはバンドが解散し、翌年にソロ名義での活動を続けてきた大久保伸隆。今作『Time』は、2007年から開催してきた年5回の定期ワンマンライブ「Flight Night Party」で人気の高い曲を中心に、書き下ろし新曲「未来」と斉藤和義の名曲「歌うたいのバラッド」を収録した一枚となっている。

そんな大久保伸隆にインタビューを敢行。今作に集められた楽曲はもちろん、コロナ禍での活動に感じる想いとソロ活動の15年に触れる話を訊いた。

ーコロナ禍でほとんどのミュージシャンが試行錯誤されている状況ですが、大久保さんの活動の動向はいかがでしょうが?

やっぱりやりづらいですね。僕も含め、ほとんどの方が色々なことが変わる状況に振り回されていると思うんです。去年、緊急事態宣言が出て、有観客ライブもギリギリまで引っ張った挙句に中止になったりとか。配信ライブをやるにしても初めてのことなので試行錯誤していて、2020年はただただ疲弊して終わったような気持ちになっちゃって。2021年は少しは状況が改善するかなと思ったらそうでもなさそうですし、先の見えない状況の中でライブを組み立てたりしていますね。決めていたことに制限や自粛が急に出てくるので、そこから変えざるを得ないというのが大変で。それを常に考えないといけない状況がどうにかならないかなと思いますね。クリエイティブにもなかなか集中できないです。

ー辛い時期ですよね。大久保さんは、定期ワンマンライブ「Flight Night Party」はコロナ禍でも続けてこられたんですよね。Something ELseが解散してから15年近く、計70本以上の定期ライブを続けるのって相当な思い入れがないと難しいですよね。

アマチュア時代も路上ライブからスタートして、かなりのイベントの本数をこなしてきているので、ライブっていうのは自分の中で軸になっていて。ソロでも年5回のワンマンライブを大事にしていきたいし、10年以上続けてきて来月は73回目で。これはこれからも続けていこうと思っています。コロナ禍では中止になったりもしたんですけど、でもやることはやったほうがいいし。配信という形でも続けていく方がいいとは思っていて、いつまで続くか分からないですけど、先も見据えてやっていこうと思っています。その中でも新しい作品を作ってライブでも披露して、ある程度貯まってきたらアルバムとして形にしていきたいですね。

ーそういったライブ中心の活動の中で生まれた曲を集めたのが、今作のアルバム『Time』なんですね。今回の収録曲を選ばれた基準はあるんですか?

前作からちょっと時間が経ち過ぎちゃいましたね(笑)。新曲「未来」はアルバム用の書き下ろし曲ですけど、他の曲は単純に定期ライブでのお客さんの反応がよかった人気の曲を入れました。元々、昨年の5月頃から作っていて全10曲の収録予定だったんですけど、ソーシャルディスタンスとか換気が叫ばれる中で、レコーディングスタジオにこもって楽曲を作るわけで。そこに参加する人が新型コロナウイルスにどう考えているのか分からないし、かといって制作中止にはできない。日数を減らしてレコーディングしようということになった結果、曲数も7曲に減らすことになりました。

ーちなみにタイトル『Time』の由来はなんですか?

レコーディング期間を減らして作った中でも、今回のアルバムは僕自身では納得のいくものができたと思っているんです。でも、いろいろ振り回されつつ限られた時間の中で集中して作品を作っていく中で、時間を作るって大事なことなんだな、と改めて実感して。自分の中で、その瞬間を大事にして作品を作る意識の変化が感じられたんですよね。そこからコロナ禍の前の当たり前の生活はもしかしたら2度と戻らないんじゃないかと思っちゃったりもして。時間に対して思ったことが自分の中で意味のあるものに思えて、一曲一曲には直接関係はないけど「Time」というタイトルの言葉として残したいと思って選んだんです。

ーこういう時代だからこそ感じられた、大切な時間の概念がタイトルになったんですね。アルバム収録曲は、アコギとピアノのサウンドが際立ってストリングスの柔らかさが加わった楽曲たちですね。こういったサウンドは目指してきたものなんですか?

ソロになってからは特に意識していないんですけど、バンドでやっていた頃はアコースティックサウンドを意識していたので、今作でも無意識に出ていた部分かもしれないですね。曲をアレンジしていくときに、フラットな状態で作品が良い形で昇華できるようなものを意識したら、結果的にアコースティックサウンドやバンドサウンドになって。それでいいんじゃないかな、と思える形で作ったんです。

ーSomething ELse時代を含め、これまで培ってきたものが今作にも表れているのでしょうか?

ソロになってからワンマンライブでやったことや発見していったものを今作に落とし込んだ感じですね。バンドの時はコーラスワークを大事にしてきたんです。ソロになった後はコーラスワークはバンドの時のものとして切り替えていたのですが、今ライブに遊びにきてくれているお客さんはバンド時代に応援してくれた方も多いので、三声のコーラスは今作でも入れていて。皆が喜んでくれるものを意識した感覚はあります。

ー収録曲の話も伺いたいのですが、「恋の速度」は恋にスピード感、速度があるという概念を考えたことはなくて新鮮に感じました。重松清さんとの交流もあられたりと、そういう文学性も大久保さんは意識されているんでしょうか?

重松さんは、世界観や柔らかさが好きでよく読んでいるんです。どうだろう、読んだ作品を消化して自分の色として出せるようにとかは特に意識してないですね。「恋の速度」の歌詞は、実は共作なんですよ。元メンバーの今井君が元々書いていた歌詞に僕が書き加えたという経緯があって。自分のソロ名義でちょっと新しい形にして披露したいと思って、彼に連絡をとって共作になっているんです。

ー今井さんが参加されているのは驚きです。2曲目の「ジグソーパズル」は、春先に合うような爽やかで軽やかな曲ですよね。歌詞もお互いに擦り合わせていく、対人関係の大事な要素を歌っていると思いました。

これもライブで披露してきた曲なんです。元々メロディがあって、歌詞は「ジグソーパズル」をキーワードとして広げて、恋愛の世界をちょっと描いてみようと思って。相手に寄せていくだけじゃなくて、ちょっとした優しさや気遣いも相手に合わせるということなんじゃないかな。ちょっとした意識の変化で、今まで受け入れていなかったものを受け入れることってあるんじゃないかと思ったりして。実際は自分の性格的にできないと思っても、そういうこともありかもと思える歌詞を書いてみようかなと思いました。

ー個を重んじる時代ではありますけど、恋愛観に限らず仕事、友人など全てにおいてその意識は大事ですよね。

社会で生きていく中で自分の個って大事だと思うけど、それだけで生きていくのはなかなか難しかったりするじゃないですか。社会で生きて、良い形で物事を進めるためには、何か妥協することも場合によっては大事ですよね。そういうところも意識して聴いてくれる人もいるのかなと思います。

ー続いて3曲目「光景」は、前の2曲と違って内面でのもがきを描いているテーマですね。こちらはいかがですか?

この曲もメロディが先にあったんですけど、迷ったりもがいたりするような歌詞がハマるのかなと思って。そういう歌詞の世界というのは結構書きやすいんですよね。

ーもがいたりする歌詞が書きやすいというのは、曲を作られた時のご自身の心境の影響もあるものなんですか?

そこはないかもしれないです。ただ、何気なくニュースを見ていたり、ファンの方からもらったメールや手紙を見ると、生きていく中で思うようにいかずにつまづきそうになっている人が多いと感じていて。曲を聴いて直接何かが解決するわけじゃないけど、そういう人たちが自分の状況に当てはめて泣いたり、頑張ろうと思ってくれるような歌詞を書きたいというのは前からあったんです。この曲もそういう思いから書き始めたんですよね。

ー「光景」はメロディが先に浮かんだと仰っていましたが、作曲するときは基本的にメロディやオケから先に作られるんですか?

そうですね。メロディがあって、こういうアレンジになるなというのは頭の中でバーっと浮かんできて。それを自宅でデモにして聴きながら、こういう歌詞がいいのかなと考えたりしていますね。歌詞も自分の内面を描くといより、情景や世界観を設定することがほとんどですね。

ー4曲目の「I feel you」だと、序盤では自分の辛さに対して内向きに考えてしまうのが、大サビでは他の人に向かって励ましてあげられるようになる成長を描いた歌詞だと思いました。

歌詞カードだと分かりやすいんですけど、実は最後のサビの前に改行を入れてて。曲の頭から大サビまでは主人公の立場なんですけど、最後は周りの人が主人公を励まして歌ってくれるという展開なんです。分かりにくいかなと思ったんですけど、自分の中でそうしたくて。

ー歌詞の中で2つの視点があるんですね。先程の話ともつながってきますが、辛さを抱えた人に「I feel you」という寄り添った言葉をかけられるのは大事な視点ですね。

表に出す出さないは別として、皆がそういう辛さを感じてるんじゃないかと思うんです。「光景」もそうですけど、立ち止まったり悩んだりする人の背中を押したいと思って「I feel you」も作ったんです。曲について言うと、今作は全部僕がアレンジしてるんですけど、共通してストリングスがポイントになってるのかなあと。ストリングスが好きで、歌詞の切なさがふんわりとした雰囲気と明るさ、高揚感をサウンドで出したいと思って、四重奏でラインを作りました。

ー確かに今作のサウンドは全体的に明るいですよね。制作は基本的にご自身一人でやられるんですか?

ほとんどそうですね。自宅でほとんど完成させるんですけど、ストリングスについても自分で土台を作っていて。キーボードで入ってくれている人に音色とか四重奏にするところは託してます、レコーディングもプレイヤーにデモを投げて演奏してもらってますね。レコーディングの時にはそのプレイヤーの良さというのも出してほしいので、デモを聴いてもらいつつ、デモとは違うフレーズが出てきたらそれも取り入れたりするんですけどね。

ー続いて、5曲目の「帰り道」は失恋ソングに仕上がってますね。「君の隙間はそもそもなくて 僕は無理矢理に希望をねじこもうとしてただけ」というフレーズは、恋愛で失敗したことのある人にグサッと刺さるフレーズじゃないかと思いました。

この曲についてはなかなか歌詞が降りてこなくて。恋愛モノとは違うアプローチで試しにやってみようと思って取り掛かって5回くらい書き直したんですが、最終的に恋愛のテーマで落ち着きました。これも先にメロディが出てきたんですけど、切ない内容の歌詞が当てはまるんじゃないかなと思って、片想いとか主人公の設定をして作ってみたらすぐ書けました。

ー6曲目は斉藤和義さんの楽曲「歌うたいのバラッド」のカバーです。この曲もライブで度々披露されていたんですか?

実はこの曲は、もう10年以上前からワンマンライブで歌っていたんです。ソロで活動を始めた頃は洋楽邦楽問わずカバーしていたんですけど、その中でこの曲を見つけて。自分なりのバラード調でやってみたら、ワンマンライブで披露していたら好評だったんです。今回は7曲まで曲数を削ったのにも関わらず、ストリングスとピアノを中心にアレンジしたら結構いいんじゃないかなと思っていたので、このカバーはどこかでCDに入れたいと思っていたんですよ。

ー過去の作品でも村下孝蔵の「初恋」や、あみんの「待つわ」などをカバーして収録されていましたよね。

アマチュア時代からバンドでストリートライブをしていた頃からサイモンとガーファンクル、オーリアンズの「ダンス・ウィズ・ミー」とかクロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングのカバーもやっていて。他のアーティストの曲を自分たちの色に染めてオリジナルのようにしたい想いは昔からあったんです。今回の「歌うたいのバラッド」も、自分なりのバラード調で表現できたらと思っていて。そういう風に、自分の色でどうやったらいい形に表現できるのかというチャレンジは好きですね。

ー7曲目の「未来」は、今作アルバムのために書き下ろした曲ですよね。コロナ禍をはじめ、こういう社会状況での未来への希望を歌ったような曲が最後に来て、作品全体のまとまりの良い終わり方になっていますよね。

「未来」は元々仮タイトルで決まっていたんです。今までの作品は、歌詞を作った後にタイトルを決めたんですけど、仮タイトルがそのまま採用されるというのはこれが初めてで。分かりやすいワードではあるんですけど、「未来」という言葉なら前を向ける歌詞が書けるかもしれないと思って作った曲ですね。結果的には、コロナ禍でも希望を持っていこうという意味に捉えて聞かれる方もいると思うんですけど、作ってる時は実は全く意識していなかったんです。歌入れの10日前に歌詞を作り始めたんですけど、無意識に一変した状況、当たり前のことが当たり前じゃなくなった、でも元に戻ってほしいという想いもあったので、そういう意識が歌詞にも表れたのかもしれないですね。世の中は昔よりもっと不安定で、ボタンのかけ違いのようにいろいろなものが崩れてきている気がするんです。そこから良い方向に向かってほしいという想いは作品に残したくて。

ーコロナに限らず、政治だったりSNSだったり色々な不安要素が蔓延している中で、希望がある未来を自然と描けなくなっていると思うので、こういう曲は必要だと思いました。

未来が必ずいいものになるかは誰にも分からない。でも、こうなってほしいっていう想いは皆それぞれあると思うんです。それを最後に歌詞に落とし込みたくて、デモ段階のアレンジでそういう歌詞はハマるんじゃないかなと思ったし、歌詞に取りかかった時は割と早く仕上がりましたね。実は今作には元メンバーの今井君がコーラスで4曲参加しているんです。この「未来」もメロディは彼が書いていて、僕が歌詞を付けてアレンジをして。最後に完成させたものを送ったら「とっても素敵でした」って返ってきました(笑)。

ー今回のインタビューでも度々出てきましたが、今井さんとの親交は今でもあるんですね。

そうですね。音楽活動20周年の年のバースデーライブの時に、声を掛ける良いタイミングだなと思って。それをきっかけにちょくちょくやり取りしてます。僕のソロ作で彼がメロディを作ったものがストックであったりして。それが新曲として出ることもあるかもしれません。いい形で交流は続いていますね。

ー素敵な話ですよね。今作のタイトル「Time」に掛けて、バンドの解散、ソロ活動を始めてからの15年という時間を振り返ってみて、自分がやりたかったものや表現したかったものっていうのは変化してきているものですか?

元々歌詞を書くこと自体が好きだし、色々なものを表現したいと思っていて。それをずっとやってこれているし、続けたいとも思っている。そこに大きな変化はないかもしれないです。ソロになった当時はアコースティックサウンドを常に意識して音作りをしてきたんですけど、サウンド面も試行錯誤していたので、変化というよりは、一人になった分やりたいようにやってきた中で広がりが出てきていたのかもしれないです。

ー何かと活動しづらい時期ではありますが、今後の活動展開も考えていられるんですか?

今は当たり前にできると思っていたことができないですよね。ライブハウスでライブができるかどうかでヤキモキしたり、50%以下の集客という状況がいつまで続くのかを考えると、今までの当たり前にやっていたことがすごく幸せだったなと思うんです。当たり前だと思ってやっていたことを、これからもなるべく続けていきたいですね。もちろん自分の作品も切り口を変えたりしたいと思っているんですけど、活動としては対面のライブをずっと続けていきたいという想いが強いですね。

ーアマチュア時代からストリートでライブをやってきて、ソロになっても定期ライブで年5回のワンマンライブを続けてきているので、そこの軸は変えたくないですよね。

僕にとっては対面で目の前にお客さんがいて歌うことがアマチュア時代から好きなんです。皆も配信ライブをなんとなく受け入れてやっていて、それもありだと思う。でも、配信ライブで伝わらないものってあると思うんですよ。同じ曲を歌っても、ちょっと違う感じはしていて。その瞬間の空気って毎回違うし、それをリアルに共有できる場がアーティストにとっては醍醐味でもあるし、そこで気づかされることが次の作品のヒントになったりするので。配信が当たり前にならず、これからも対面でのライブができればいいなと思いますね。今年は僕の音楽活動25周年で9月19日(日)のバースデーライブも開催する予定なので、それも楽しみです。


<リリース情報>



大久保伸隆
最新アルバム『Time』

発売日:2021年5月16日(月)
価格:2800円(税込)

=収録曲=
1. 恋の速度
2. ジグソーパズル
3. 光景
4. I feel you
5. 帰り道
6. 歌うたいのバラッド
7. 未来