1997年にヨーロッパデビューを果たし、音楽シーンにおいて文字通り唯一無二の存在として後世に多大なる影響を残したBOOM BOOM SATELLITES。そのヴォーカリスト・川島道行が2016年10月に逝去して約4年の月日が経った頃、BOOM BOOM SATELLITESのもう一人のメンバーである中野雅之がついに新たなバンドを始動させた。それが、THE NOVEMBERS・小林祐介とともに立ち上げたTHE SPELLBOUNDだ。

中野は、川島が1997年に初めて脳腫瘍を患ったときから4度の再発と闘い生命をまっとうし終えるまでずっと傍にいて、川島のボーカリストとして、そして人間としての変化をすぐ近くで見ながら、人生に対してどう肯定的であれるかというテーマと向き合って音楽を奏でてきた。そんな稀有な人生体験をしてきている中野は、THE SPELLBOUNDとして初めて発表した「はじまり」で歌われる通りどんな生命も“どれほど願ったって いつかは消えてしまうってこと“を知っている上で、「人間」と人間から発される「歌」の神秘に対する眼差しをとても深く持っているように見える。さらに言えば、この取材で小林が証言している通り、中野は音楽制作に対して超ストイックな姿勢の持ち主であり、他の誰も持っていない音楽的スキルと感性を持っている音楽家だ。

BOOM BOOM SATELLITESの頃から取材をさせてもらっていた筆者としては、そんな稀有な人生観・人間観と圧倒的なスキルを持ち合わせる中野が、BOOM BOOM SATELLITESとして28年間(結成から最後の作品リリースまで)の旅を終えた後、どういった音楽を求めるのか、そして人生や世の中に対してなにを思うのか、というところに非常に興味があり、川島のお別れ会で囲み取材が行われたときから「これから中野さんはどんな音楽活動をしたいですか?」と会うたびに問いかけてきた。きっと、他の人には見えていないものや、他のミュージシャンからは出てこない音を、体験させてくれるはずだと信じていたから。

現時点(2021年5月26日)でTHE SPELLBOUNDからは5曲の楽曲が発表されているが、1曲発表されるごとに、自分の目と心からは普段見ることができやしない景色と、人間のエネルギーや人格が宿っている音楽からしか感じられない深い感動を味わわせてくれている。中野と小林が巡り合ったことを、盛大に祝したい。

「はじまり」MV



―2017年3月にBOOM BOOM SATELLITES(以下、ブンブン)として最後のベスト盤をリリースして以降、MAN WITH A MISSIONのプロデュースや布袋寅泰、miletのアレンジ、アニメ『PSYCHO-PASS』の楽曲のリミックスなどを手掛けてこられましたが、そんななかでも「自分の作品」を出したいということをずっとおっしゃっていましたよね。改めて、なぜ自分の作品を出すことをそれほど大事に思われていたのかを、まず聞かせていただけますか。

中野 プロデュースとか楽曲提供というのは、主体であるアーティストがいて、彼らが行きたいほうに導いたりサポートしたりすることで。そうやって同じ目標に向かっていくことが醍醐味でもあるんですけど、その反動として、自分だけの判断で作っていく純粋な音楽を欲しているというが常にあるんです。僕の純粋な判断と思い切った舵取りを自分の責任だけでやっていくという、本来のもの作りの大切な部分を日々噛みしめたい欲求はまだまだ衰えてないところがあって。

―BOOM BOOM SATELLITESとして28年間、ときに気が滅入るくらい毎日それをとことんやり続けてきても、ですか。

中野 初めて曲を作った10代前半から、曲を作って人前で演奏するということをずっと続けてきて、ご飯を食べたり息をしたりするのと同じようにそれをやる生活を送ってきたので。この数年、それをパタリとやめていて……まあ、生きてない感じみたいなものも実際あったりするんです。平和な毎日は過ぎていくんですけど、一方で、どこか生きてない感覚があって。肉食動物の捕食する欲求とか、猫が動いてるものについ飛びついちゃうとか、そういう性みたいなものでしょうか(笑)。

―自分の作品を作ろうとしたときに、誰かと一緒にやりたいと思ったのはなぜですか? 中野さんなら、歌のないビートミュージックを作るという選択肢もあったとは思うんです。

中野 あんまりなかったかな。そういう音楽も聴いてはいたんですけどね。初期のUKテクノ、The Orbとか808 Stateとか、ヴォーカルが不在のポップミュージックは90年代前後にいっぱいあったから、すごく好きで聴いてたはずなんですけど、川島くんと長年制作に取り組んでいるなかで、インストの音楽の完成形というものがすっかり自分のイメージから消えている感じがしますね。

―それは、中野さんが「歌」というものに惹かれてるから、とも言えますか。

中野 そうですね。歌という表現と、歌う表現者――その人の内面が音声となって人に伝搬していくことに強い関心があります。その人のいろんな価値観だとか、生い立ち、背負っているものが、声や言葉に表れてくるので、それはやっぱりインストの音楽では絶対に表現できない奥行き感や立体感があるものなんですよね。特に川島くんという一人の人間がクリエイターとして、歌い手として、パフォーマーとして育ってきて一生を終えるという過程を見る中で、その変化というものをすぐ隣で観察することができた経験もあって、その想いがより強くなっている。いま僕は、小林祐介という人間に非常に関心があるし、彼に物事を深く考えてもらった上で歌ったときに、僕が快感として得られるものや感動として伝わってくるものがあるので、日々ワクワクしながら過ごしていて「これこれ」って感じですね。


小林はBOOM BOOM SATELLITESから、人生で一番の敗北感を味わっていた

―2019年4月20日にTwitterでヴォーカリストの募集をかけて、それに応募してきた人の一人が小林さんだったそうですね。小林さんがその募集を見てすぐ中野さんに連絡をしたのは直感的な行動だったそうですが、今振り返ると、どういう衝動が大きかったんですか? 「他の人にやらせたくない」なのか、「中野さんに引き続き音楽を作って欲しいから」とかなのか。

ボーカリストの募集、締切は設けません。中野ミュージックのcontactからメールにてお知らせください。SoundCloud やYouTube、音源や映像を確認できるリンクを貼ってください。良いご縁があれば何かできるかもしれません。 https://t.co/qdz7zDR97l — THE SPELLBOUND BOOM BOOM SATELLITES (@BBS_nakano) April 20, 2019

自分の音楽が作ってみたいので、ボーカルを募集してみよか。声は神様からの授かりもの。逆立ちしたって手に入りませんからね。 pic.twitter.com/Cd2Ak5rGHD — THE SPELLBOUND BOOM BOOM SATELLITES (@BBS_nakano) April 19, 2019

小林 いろんな感情が、その一点にゾワーって湧き上がってきたと思うんです。そのときは本当になにも考えてなかったんですけど、よくよく思うと、今おっしゃってくれたようなことはもちろんそうだし。かっこ悪い言い方ですけど、単純に、「俺のほうがブンブン好きなんだからな!」と「俺のほうが相応しいに決まってる!」みたいな、ちょっと子どもめいた気持ちが強かったかもしれないです。僕にとってのブンブンというのが、ある種、十字架みたいになってるところがあるんですよ。

―十字架、ですか。

小林 THE NOVEMBERSがブンブンの北海道公演(2015年5月、札幌cube garden公演)に呼んでもらったときがあって、そのときに人生で一番の敗北感を味わったんです。接戦して負けたときの「うわー、負けたけど清々しい、もっと頑張るぞ」みたいな惜しいものじゃなくて、「もう試合にならなかった」みたいな。それまでもいろんな憧れの先輩や好きなミュージシャンと対バンしてきたんですけど、「俺たちは負けてないぞ」とか「俺たちのほうがよかった」というのを気持ちだけでも僕は持ち続けて共鳴してきたわけなんです。でもブンブンとやったときに関しては、1曲目が終わる前くらいから全然次元が違うのを感じて、落胆と、今鳴ってる音楽に興奮してる自分とかがない混ぜになって、もうムンクの絵みたいな感じになって。

中野 はははは(笑)。

小林 心の中でむちゃくちゃになりながらライブを観てたんですよ。そのときの感覚を忘れられなくて。僕はブンブンのいちファンであると同時に、もう太刀打ちできる次元じゃないという敗北感と、いろんなショックみたいなものがあって、祝福と呪いを同時に受けた感覚だったんです。「もっと頑張れよ、こんな世界があるんだぞ」って見せてもらえたような祝福と、「全然話になんないわ」みたいなことを打ち付けられたというか。それで中野さんがヴォーカリスト募集してるのを見たときに、自分が受けたショックとか全部を含めた上で、中野さんにしか行けない領域に自分も行ってみたい、自分にもそういう景色を見せて欲しいという好奇心や希望もあったかもしれないです。

―具体的に、ブンブンのライブにおけるどういう点にそこまで感じられたんですか?

小林 楽器がドーンって鳴った瞬間の「もうこの音最高」「これだけでもずっと聴いていられる」みたいな音の気持ちよさとか好きさ加減ってあるんですけど、楽曲全体がそれに満ちた空間なんですよ。しかも、まさに時間芸術で、時間が経つにつれてどんどん風景が変わっていって、それがお客さんとリンクして目の前で熱狂が起こってる。僕は、クールな音楽にお客さんが熱狂してる場面って、日本にいるとほとんど目の当たりにしなくて奇跡だと思ってるんです。よくも悪くもお客さんに寄せていったり、形骸化したスタイルとかもてなし方でお客さんを乗せていくというライブを僕はたくさん見てきて、正直羨ましいと思ったり純粋に感動できるライブもあれば、「僕はこのコミュニケーションを美しいとは思えない」というプライドとか、いろんなものがあったんですよ。自分が熱狂を目の前で作れていないことに対して折り合いをつけてるところもあったかもしれない。ブンブンはものすごくクールなことをやっていて、お客さんを盛り上げることも、媚びてるとかではなくて「一緒に高いところに上っていこうぜ」という気概に溢れてるわけなんですよ。そんな濃厚なもので満たされたライブで、ドラマや熱狂もあって、ステージから去っていったら終わらない拍手と歓声があって。……もう、灰になっちゃう、みたいな。

―ムンクの叫びからの灰(笑)。

中野 こんなに褒められたことないよ(笑)。

小林 だからその日、打ち上げに行って中野さんと川島さんと話をさせてもらったんですけど、正直、「心ここに有らず」みたいな感じで。

中野 そうだったのか(笑)。

小林 ここで酒なんか飲んでていいんだろうかみたいな気持ちもあったし、「自分たちのライブどうでしたか」とかも聞きたくない、ってなってました。

中野 鉛を飲み込んで胃が重いような感じです、みたいなことを言われたのを覚えてる(笑)。


1年かけて小林のメンタルを大きく変えた

―Twitterで募集をかける少し前に中野さんをインタビューさせてもらっていて、そのときに中野さんが小林さんの作る音楽の世界観が好きだと話されていたのですが、THE NOVEMBERSのライブの印象はどのようなものだったんですか?

中野 圧倒的な音圧感とか、埋め尽くされるノイズで光そのものを表現していることとか、その強度はその日もあったし、「とてもストイックな人たちだな」という印象は強くあって。ただ、これはTHE NOVEMBERSに限らずですけど、僕は同じミュージシャンでありバンドマンだったから、見れば「こういうことがもうちょっとあったらいいんじゃないかな」「これがあると違う展開が見えてくるだろうな」とかなにかしら思うので。小林くんに対しても、表現者として研ぎ澄まされたところがある一方で、僕が一緒に音楽を作るんだったら欠けてるピースもあるんだよな、というのはそのときも実は感じていたんです。だから小林くんから「(ヴォーカリストに)立候補させてください」と連絡があったときに、小林くんが持ってる世界観の好きな部分と同時に、僕が欠けていると思ってるピースをどうしようかなっていうのをすごく考えて迷ったんですよね。たくさんきた応募にはすべて耳を通しつつ、小林くんのことはずっと気になっていたので、一回会って話してみようと。

―中野さんから見て小林さんの欠けてるピースって、なんだったんですか?

中野 生身の野性的な人間性というか魂みたいなもの。あまりにもものを完璧に作りすぎてしまって、小林くん自体が見えてきづらいということ。たとえば小林くんのギターの音色、アンサンブルの構成、メロディライン、言葉遣いとか、僕の好きな要素ばっかりなんですよね。それにもかかわらず、小林くんという人がどういう人なのかが不思議なくらい見えてこない。Twitterで募集をかけるよりも前に一緒にご飯に行ったことがあって、世間話とか好きなものについて話したんだけど、やっぱりあんまり見えてこない。なにを生きがいにしてるのかとか、家族に対しての愛情の持ち方とか、いろんなものが掴み取りづらいというか。不思議な人だなと思って、それもあって逆に変な興味があったんです。なので、応募してくれたときに、最初からリリースとかツアーの計画を考えるんじゃなくて、なにか起きるかどうかを探りながらやってみるところから始めようって言って、毎週会うようになって。僕は観察に観察を重ねて、小林くんってどういう人なのかを紐解いていって、そしてその奥底にある生々しい感情とか、普段自分が恥ずかしくて隠しているような感情にも触れてみたりして。それで閉じていたものがだんだん開いてきて、そこから俄然、音楽が面白くなっていく感じがありました。

―小林さんは、中野さんから人間が見えづらいって言われてどう感じられたんですか? 「図星だな」とかなのか……。

小林 最初は「図星だな」とすら思えないくらい、わかんなかったんですよね。わかんないから改善のしようもない。今まで自分の気持ちを保つために忘れたふりをしてたり距離を置いたりしていたのは、無意識だったんです。

中野 僕は小林くんにいろんなことを聞きたくなるわけですよ。「どうして音楽始めたの?」とか、「子どもの頃はロックスターに憧れたの?」とか。憧れたんだけど最初から諦めてたようなところもあったとか、そういうちょっとしたトラウマ的なことまで話すようになったりして。

小林 19歳くらいからTHE NOVEMBERSをやってるんですけど、もともと自分が焦がれたものとかキラキラした目で見てた憧れや夢みたいなものって、THE NOVEMBERSを始めた時点ですでに神棚に置いてちょっと遠くから眺めてるだけのものになってたというか。そういう、自分が無意識の内に神棚に置いて眺めてるだけで満足してちゃってたものを、中野さんとのやりとりの中で思い出すというか、どんどん炙り出されてくるわけなんですよ。

中野 僕は小林くんとそうやって会話をする中で、とても優しくて純粋な人だなっていうことを感じ取っていったんですね。優しさゆえに弱さもあったり。僕は優しくて純粋な人が好きなんですよ。

小林 (笑)。いろんなやりとりをしていく中で、ちょうど1年後くらいに、なんかわかったかも、っていう瞬間があったんです。ものすごく言葉をギュッとしちゃうと、心を開く、ということなんですけど。他人に対して心を開くのもそうだし、自分の心の在り処ってここだなって自分でちゃんと意識してあげて、「これは嘘偽りなく、今俺が感じたことだから大事にしよう」って自分の感じてることを自分が認めてあげる。普段だったら疑問とか恥ずかしさ、この感情を出しちゃうと相手にどんな影響を与えるだろうっていう不安もあったと思う。でもそれは、自分の感情をないことにしていい理由にはならないんですよね。その感情をちゃんと感じた上で、無意識の内に「俺、この人だったら心を開いてもいいかも」「それも含めて中野さんに見てもらおう」ってなれた瞬間がきたんだと思うんです。そこから出てくるものが変わっていったのかもしれない。それは本当に、自分の35年の人生の中でも相当重大なことだったんですよね。自分ときちんと向き合って、自分自身に対して誠実にしていくと、そこに立ち会ってくれる中野さんに対する態度とかも自然と変わってくる。

―「わかったかも」ってなった瞬間というのは、中野さんからなにか言われたとか、なにか音が出てきたとか、具体的なことがあったんですか?

小林 いやそれがないんですよ。ずっと中野さんの言葉は自分にとって大事なアドバイスだったり気づきをくれたりしていたんです。ブンブンのエピソードを聞いて、僕がハッとすることもあったし。

中野 ああ、そうなんだね。

小林 「川島さんがこう言ってたよ」とか「川島さんはこういう人だったんだよ」というのを聞いて、「俺と一緒だ」と思うところもあれば、「俺と全然違う」って気づきをもらうこともあって。とにかく、アツイ話ですよね。ハートを燃やすんだよ、みたいな。

中野 (笑)。

小林 『少年ジャンプ』みたいな言葉は、小林くんの美学には反するかもしれないけど、でも言葉で説明できることじゃないんだからあえて言うんだったら、結局ハートなんだ、と。ハートを震わせて、燃やして、それを燃料にして自分から湧き出てくるものが大事なんだ。それは「よし、ハートを燃やすぞ」とかじゃない、小手先でできることじゃない。そういう人になるんだ、そういうふうに生きるんだ、と。そういうふうに世の中を見ていくと、自分はなににハートが震えるかとか、自分は命を懸けてなにかをやるのかが見えてくる。自分の魂とかハートとか存在を投げ打って飛び込んでいくものなんだから、もっと勇敢になりなよ、みたいな。要約すると(笑)。

中野 人に言われると、ものすごい暑苦しい(笑)。

小林 そういう話を何回もされて、回を追うごとにちょっとずつわかりかけていったと思う。でも一番わかったっていう瞬間は、「なにもかも」の歌声の素材を僕が家で録ってるときと、中野さんにお渡しして返ってきたものを聴いたときの、その2点かもしれないです。「なにもかも」の歌素材を録ってるとき、今までと違って、あまり物事を頭であーだこーだ考えないで、自分の身体やハートが求めてるものを純粋に出してみよう、自分の身体と心をひとつにして真っ直ぐやってみよう、ということができた気がしたんですよ。で、中野さんから返ってきたのが今みたいなトラックだったので、「なんかすごくかっこいい気がする」と思えたし、中野さんもすごく手応えを感じてくれていたので、そこでホッとしたし「もしかしてハートってあれだったのかな」って掴みかけて。出来上がった曲を聴くと、あのときの気持ちが心の中にもう一回起こるんですよね、不思議なことに。それを、まだ失敗しながらなんですけど、曲を追うごとにわかり続けてるっていう。

中野 声から熱量が発せられて、そうするとトラックもめちゃくちゃ盛り上がる、という相乗効果が「なにもかも」でやっと生まれ始めて。そこに至るまでに1年くらいかかったんです。だから正直、1年間は結構暗黒で。毎週水曜日に会うようにしてるんだけど、もしかしたらこれはダメなのかもしれないっていう不安もずっと隣にあるような感じで過ごしていたのが、「なにもかも」のデモができたときにえらい熱量と大きな爽快感や感動と魂の叫びみたいなものがウワーっと伝わってきて。そのときまだ歌詞はついてなかったですけど、歌詞がついたときに僕はさらにびっくりした。

「なにもかも」MV



―「なにもかも」は解放といったキーワードがある曲だと思いますが、小林さんの解放でもあり、1月から5カ月連続リリースされた5曲自体が小林さんの解放や目覚めが投影されている5曲の物語とも言えそうですね。

中野 ああ、そうかもしれないですね。まさに。

小林 本当の自分を自分で認めにいく、迎えにいく、そういうのが全曲の中であるんですよね。「出せばいいじゃん」「出していいんだよ」って、中野さんは音楽で言ってくれてるような気もして。

「名前を呼んで」MV



中野 魂の叫びがあったり、なにかが始まることに対して湧き上がってくる期待感や楽しみ、未来を手繰り寄せていくようなワクワク感、「FLOWER」の祝福感、それらは小林くんの中から湧き上がっていることだと思うし。結局僕は、歌い手の溢れ出るものを受け止めて、それにブースターを入れて広げていくという役割だと思うんです。インストってそれが起きないから。これには勝てないですよね。


中野は、宮崎駿と同じく「理想を失わない現実主義者」

―小林さんから見て中野さんはどういう人ですか?

小林 一番強く印象にあるのは、理想を失わない現実主義者だということで。

中野 ああ。

小林 現実主義者の人って、基本的に、理想との折り合いをつけていくものだったりして。でもそれって、折り合いをつけていく時点で理想が理想じゃなくなっているという生き方だと思うんです。それは人が選んだものだからとやかく言うことじゃないんですが、中野さんの場合は、単なる理想主義者の人たちとは違って、基本的に現実を直視している。でも現実を直視する代わりに自分は理想を絶対に失わないぞという強い信念がある。言ってみればものすごくロマンチストなんですけど、それが夢想じゃないというか。

中野 それで宮崎駿のことを出してたの?

小林 そうですそうです。

―「理想を失わない現実主義者にならないといけない」「理想のない現実主義者ならいくらでもいる」という、宮崎駿の名言。

小林 その話を中野さんにしたときがあって。というのも、中野さんがそれにダブるところがあるからで。僕は自分が渇望するような理想があるわけじゃないのに、現実をあまり直視しなくて、言わば快適な場所でふわふわしてたんですよね。ゆえに、生まれてくるものが、さっき言ってくださいましたけど「純粋なもの」というか、要は業に縛られないところからポッと出てきてしまうものだったりするとは思うんですけど、それって、ほんの一匙の現実の粒を投げかけられたら「うわ〜!」って慌てふためいてしまうような弱さがあると思うんですよ。

中野 (笑)。そんなに自分のこと蔑まなくていいと思うよ。

小林 作ってきた作品にはもちろん自信も誇りもあるんですけど。今目の前にあることを直視しようとしたときに、「こうあって欲しい」という目で見ちゃったりして、無意識の内に目の前にあるものを歪めてしまうんですよ。それは鏡に映った自分自身にも同じことが言えて。自分自身を無意識の内に弁護したり、こういうふうに考えられたら自分は傷つかないっていうほうに、まったく無意識の内に思考が曲がってしまっていたんですよね。

―小林さんから見て、中野さんはどういう理想を追い求めてる人ですか?

小林 やっぱり自分の感動だったり、ものすごく美しいものを作り出そうとして、そこに対して自分をごまかそうとしない。折り合いをつけそうな自分に対してまったく許さない。それって、葛藤があるがゆえにものすごくカロリーを消費することだと思うんです。中野さんは1曲作るごとに、ものすごいカロリーを使いながら冒険して、いろんな茂みで「うわ〜」って傷つきながらも、最後はオアシスに辿り着く、みたいな。

中野 そう見えてるんだ(笑)。

小林 そういう冒険を1曲1曲でやってるからこそ、それ相応の曲が上がってくるんだと思うんです。毎回「よくぞ辿り着きましたね」っていうふうに感動的でさえある。


ふたりが好きな映画から探る、THE SPELLBOUNDの美学

―おふたりの共通点の1つに、映画『スカイ・クロラ』(監督:押井守)をフェイバリットに挙げているという点があると思います。THE NOVEMBERSは「Sky Crawlers」という曲をリリースしてもいる。ふたりがなぜこの映画に惹かれるのかを話していただけますか? そこに、THE SPELLBOUNDで表現しようとしてることや美学に通ずるものがある気がして。



中野 押井さんのサイバーパンク的な要素が入った映画って、いつもとても哲学的というか。人はどこからきてどこに向かっていくのか、そもそも人とはなんなのか、ということを問いかけてくれる感じがあって、果たして僕が人と言える理由はなんなのかを考えさせてくれる。しかも、舞台設定とか、ある種今の現実の世界に置き換えられそうな感じがする。洗練された表現があって、情緒もあり、好きな要素が多いですね。

小林 好きな要素は本当に多いんですけど、「スカイ・クロラ」で特に印象的なのはセリフが少ないことで。印象的なセリフはもちろんあるんですけど、とにかく見ていて心地いいと思うのは、キャラクターのちょっとした所作一つひとつの細かい演技が表現されていて、セリフで説明されない。そういうものの凄みを感じてしまうんですよね。説明くさくないし、自分と同じ世界にいるような設定じゃないんだけど今の自分の世界にも響いてくるような描き方や人物像が、好きなのかもしれない。

中野 セリフで説明することなく、風の音だけとか、新聞を折りたたむだけの所作とかで、多くの情報量を伝えてくるところが、やっぱり表現者としてすごく挑戦的だなと思うし刺さるというか。いろんなものが細部に行き渡っていくことで魂を帯びてくるというのは、僕も実際に音楽表現のなかでやってることで。ちょっとしたノイズの消え際とか、ヴォーカルの歌い出しの息遣いで、いろんなものが伝わってきたりするから、そういう細部に情や情報があることを大切にしてる。なので、ある意味、自分がいつも気をつけてることとか好きなことが多く共通するのかもしれないですよね。

小林 「マジな人」同士が共鳴し合う領域ってあるのかもしれないですよね。押井さんの「スカイ・クロラ」のドキュメンタリーに、効果音を付けるところが映ってて。キャラクターがワインを飲むシーンでグラスを置いたときの「チーン」って音を、ああでもないこうでもないって選んでる場面があるんです。いろんなグラスを試したりエフェクト処理をしだしたりするんですけど、僕から見るとなにがなんだかさっぱりなんですよ。

中野 全部一緒じゃない、って?

小林 そう。だからマジな人にしか行けない領域とか、マジな人がなんかすごいって思っちゃうような領域というのが、絶対にどの仕事にもあるんだなって思う。

中野 それが集合体として集まると、結局、なにか一貫性を持った表現になっていったり、集中力が高い時間になっていったりするんだと思うんですけど。

―小林さんも自分の美学に対してとてもストイックで「マジな人」という印象を持ってますけど、そんな小林さんから見ても中野さんはさらにその上をいく「マジな人」なんですか。

小林 そうですね。土屋昌巳さんと出会って以来ですね、こういうマジな人の領域を感じるのは。

中野 あ、そうなの?

土屋昌巳がプロデュースを手掛けたTHE NOVEMBERS「きれいな海へ」



小林 今までいろんなすごい人たちと仕事したり現場で話したりして、みんなすごいんですけど、いざその人の仕事を間近で目の当たりにして、「もうここからは自分は感知できない」「でもこの人が言うんだったらそうなんだろう」って委ねるしかない段階にぶちあたるのが土屋昌巳さんと中野さん。それぞれの領域でありました。自分の身体みたいに楽器をいじったりしながら、表現されてる音だったり曲だったりが変わってくるわけなんですけど、途中からもう「すごい」しか言えないんですよね。「多分さっきよりすごい気がする」とか(笑)。

中野 ふふ(笑)。

小林 中野さんが直感的に作った最初のデモを聴いた時点で僕はもう鳥肌が立って「これ完成間近ですね」くらいの気持ちでいるんですけど、中野さんの「まだまだだな」っていう言葉を聞いて、「完成ですね」という言葉をグッと押し込める(笑)。

中野 ははは。ごめんね(笑)。


THE SPELLBOUNDならではのユニークな曲の作り方

―これまでに発表されている5曲はすべて「Lyric & Music THE SPELLBOUND」というクレジット表記になっていますが、実際、曲作りはどのように進めているんですか?

中野 曲ごとに、いろいろありますね。「FLOWER」でいうと、大喜利的に「マシン・ガン・ケリーみたいな曲を作ろう」って言って。絶対に着地点はそうならないって踏んでるからなんですけど、ちょっと悪ふざけでやってみようよ、って。そのくらい青春っぽいものをスタートラインに設定して、そういうビートをまず入れて、小林くんに「好きなように歌ってきて」って言うんです。小林くん的には小っ恥ずかしくてしょうがない、そんなコード進行弾いたことがないっていう、それくらい単純でストレートでなんのひねりもないものなんだけど、「それしか持ってない爽快感っていうのがあるよ、一回やってみなよ」って。小林くんは非常にクレバーなので、楽曲のプロファイリングが得意だし、楽曲の解析能力も高いんです。それで僕は小林くんから出てきたメロディをさっと配置して、小林くんが持ってる声とか雰囲気に合わせてコード進行を変えていって、広がりのある世界観にしていくみたいな。

小林 マシン・ガン・ケリー、僕、普段聴かないですからね(笑)。大喜利って言いましたけど、「中野さんがかっこよくしてくれるでしょ!」みたいな気持ちがあるから思い切って投げられるんですよ。昔の僕だったら同じ大喜利を出されても、全然出てくるものが違った。よくも悪くもマシン・ガン・ケリーに寄せたり、恥ずかさや疑いが出た活きの悪い歌になっちゃったりしてたと思う。今はこの大喜利を楽しめていて、パンクみたいなコード進行でメロディを乗せていくんですけど、僕の歌も元気がいいものが出てくるんですよ。

「FLOWER」MV



小林 あと、中野さんが映像的なプロットを提示してくれるのは僕の中ですごく大きかった。それと音楽が合わさったときにものすごく僕の中でギアが変わる瞬間が、どの曲でもあって。中野さんが音楽を描きながら、そこでどう歌うかっていうプロットが通底してるのが、すごく大きいような気がするんですよね。

中野 プロットだけは得意なんで(笑)。3、4分のポップミュージックの歌詞を書くためのプロットだけど、プロット自体は膨らませれば長編映画も作れたりするようなもので。

―そのプロットには、どこまで具体的に描かれているんですか?

中野 たとえば「A DANCER ON THE PAINTED DESERT」は、都会を目的もなく、愛されてもなければ愛してもいない、虚な状態でとぼとぼ歩いている男がいて、実は反転したパラレルワールドでは、灼熱の砂漠の上でとぼとぼと歩いている。そこでなんで自分がとぼとぼと歩き続けているのかを考えたときに、誰かを愛することを諦めていない、実はこうやって何気なく歩いていることも目的があって歩いているんだ……という世界観。小林くんはすごく男の子っぽくて、サイバーパンク的な都会のディストピアの風景とかを上手に描くんですよ。僕はそれに血の通った人間性とドラマを、その背景の前にキャラクターとして登場させたいなと思って。その心情を小林くんが歌ったほうがいいなと思って、プロットを提示すると、小林くんがそれに応えてくれる、というキャッチボールをしてますね。

「A DANCER ON THE PAINTED DESERT」MV



―ちなみに、「A DANCER ON THE PAINTED DESERT」を、ブンブンの曲「On The Painted Desert」の曲名と重ねているのは意図的ですか?

中野 まあ意図的としか言いようがないですね。(「A DANCER ON THE PAINTED DESERT」の)歌詞と曲を聴いて僕の目に映ったものが、あの「On The Painted Desert」だな、という感じがあったんですよね。最初は「THE DANCER」というタイトルだったんだけど、そのダンサーが砂漠の上を歩いている風景を歌詞の中から見たときに、「On The Painted Desert」の砂漠が浮かんだんです。

―ブンブンの曲名繋がりでいうと、そもそも「SPELLBOUND」という曲もブンブンの曲名であるわけですが、小林さんにとってこの曲はどういう曲なんですか?

小林 「TO THE LOVELESS」というアルバムが大好きだったというのもあるんですけど、やっぱりBOOM BOOM SATELLITESの曲名をバンド名にしたいなと思ったタイミングがあって、それでいろんなタイトルを並べていったんですよね。その中でお互いいろんな面でしっくりきたのが「SPELLBOUND」だったんです。いろいろかっこいいバンド名ありましたよ、僕のおすすめは「DRESS LIKE AN ANGEL」か「TO THE LOVELESS」とか。「それがバンド名、やばくないですか?」って(笑)。

―THE SPELLBOUNDの楽曲を作るときに、中野さんが今までやってきたサウンドやブンブンらしさみたいなものをどれくらい出すのか、もしくは新しいことをやるのか、そのあたりのバランスはどう意識されてるんですか?

中野 ああ、それほど意識してないですね。今出せる音とか、小林くんから受け取ったもので出来上がる音楽ということを考えているので、過去の自分がやってたアーティスト活動のファンが喜ぶようなことをというのは実はそんなに考えてなくて。今純粋に手を動かしたときに出てくるものを、という感じでやってます。


中野がようやく手に入れた、新たなバンドの充実感

―中野さんにとっては、バンドを組んで自分の作品を作れているという充実感や手応えが、今はたっぷりありますか?

中野 こうやって真剣に音楽制作をやれているという時点で、「ああ、求めていたことはこういう時間だったのかな」という感じがしてます。プロデュースや楽曲提供とは全然違う人との距離感や責任の持ち方で、丁寧にものを作っていくことができていて、しかも企画とかマーケティングでできている一過性のプロジェクトではなくてバンドなんだって、そういう感覚は持てていますね。

―現時点で、まだ満足し切ってないのはどういうところですか?

中野 まずはフルアルバムじゃないかな。アルバムという単位になってどういうアーティスト像が見えてくるか。10曲とか集まったときに、強度を持っているかどうか。そこにすごく関心があるし、そこができればまた次の音楽的な展開とかに対する欲求も強くなってくるんだろうなと思います。まだまだいい曲はできてきているし。僕は音楽を作っているとき、映画を見ているようにビジュアライズされていって、その空間に自分が置かれて過ごす没入感とかを大切にしてるので、アルバム単位になったときにどんな風景が描けているかというのが今、がんばらなきゃいけないことであり、大変興味があることですね。今本当に、ライブのスケジュールを切るのが大変で、そこだけが攻めあぐねちゃうなっていう感じがありますけど、まあ一つずつ確実によいことをしていって、来年以降、コロナの騒動がおさまる頃には、全力で走れるようにしておこうと思ってます。フジロックもね、実績のないバンドなのに出演させていただくことが決まって本当にありがたいし胸を借りるような気持ちなんですけど、苗場のステージにまた立てるというのは非常に感慨深いものがあるので、楽しみたいなと思っています。

―また中野さんが苗場のステージに立たれるのは、いちブンブンファンとしても本当に感慨深いです。

中野 小林くんもこれからアーティストとしてぐんと成長していくと思うので、それは僕もとても楽しみです。

小林 保留にしてた青春を取り戻したような気持ちです。本来向き合うべきだった自分の成長だったり、問題や葛藤を、折り合いをつけて飛び級してきたようで。それを再び履修してるというか(笑)。ずっとワクワクしながら体験し直してる感じですね。

中野 だからね、悔しいけど、THE NOVEMBERSも絶対に変わると思うんだよね、これで。

―悔しい、という感情が出るんですか。

中野 やっぱり僕は自分のバンドを始めたから、THE NOVEMBERSに負けたくないし。でも一方で、THE NOVEMEBERSのファンは小林くんがTHE NOVEMBERSをちゃんと続けてくれるかどうかを今すごく不安に思ってると思うんだよね。だから頑張って欲しい気持ちはもちろんあるんだけど、「いやいやこっちの音楽のほうが絶対いいぞ」とか「こっちの小林くんのほうがかっこいいじゃん」みたいなのを見せていきたいという気持ちもありますね。

<INFORMATION>

●リリース情報


5thシングル「FLOWER」
https://orcd.co/or2njnq


4thシングル「A DANCER ON THE PAINTED DESERT」
https://orcd.co/2ne6k3


3rdシングル「名前を呼んで」
https://orcd.co/evo1qnr


2ndシングル「なにもかも」
https://orcd.co/4qlg0ze


1stシングル「はじまり」
https://orcd.co/y0xl9g4


●ライブ情報

THE SPELLBOUND「THE SECOND CHAPTER」
2021年7月8日(木)東京都 LIQUIDROOM

FUJI ROCK FESTIVAL ‘21出演
※8月21日(土)の出演

http://the-spellbound.com/