細美武士(the HIATUS、MONOEYES、ELLEGARDEN)とTOSHI-LOW(BRAHMAN、OAU)によるバンド、the LOW-ATUS。3.11以降の被災地の支援活動を通して結成されたthe LOW-ATUSが3.11から10年の今年、ついに1stアルバム『旅鳥小唄』をリリースする。全編日本語詞による本作は聴く者の心を確実に揺さぶる傑作だ。アルバム、コロナ禍、震災から10年、そんなキーワードで二人に話を聞いた。

―the LOW-ATUS、待望の1stアルバムは、結成10年というタイミングよりもコロナ禍がトリガーになったのですか?

細美:「通り雨」が最初にできたんだよね。でも、ロウエイ(the LOW-ATUS)の曲を書こうと思って書いたわけじゃなかったんだっけ?

【動画を見る】the LOW-ATUS「通り雨」ミュージックビデオ

TOSHI-LOW:ロウエイの曲だよ。なんとなくロウエイだなと思って。一昨年、ワンフレーズポロっと出たの。その時はいつかレコーディングしようね、みたいなノリだったんだけど、コロナになったり、あとみーちゃんが忙しくなったっていうのもあって。

細美:俺はMONOEYESが忙しかったし。

―それでこのタイミングになった、と。コロナ禍の世界を歌った曲もありますね。夏祭りの景色を歌った曲がとてもよかったです。

細美:「空蝉」ね。いいよね。

―何気ない夏祭りの景色が描かれていますが、なんだか遠く懐かしく感じたし、今年もあの景色はないんだなぁ、と。

細美:子どもの頃、お祭りの出店がずらっと並んでいる境内がすごい好きでさ。まぁ嫌いな子どもはあんまりいないだろうけど(笑)。綿菓子が吊られている感じとか……最近ああいうの見てないよなって。

―元々なくなりつつあった景色ですが、コロナがダメ押しになりましたね。コロナという言葉に接して1年以上が経っていますが、現状をどんな風に感じていますか?

細美:ライブができないのは、ミュージシャンとしてはぶっちゃけ死活問題だよ。でも、俺は配信があんまり好きじゃなくてさ。YouTubeでライブを収録して流したりするのって、民放のテレビがやってたこととあんまり変わらないじゃん。俺たちみたいなミュージシャンは、本来はわざわざ体と時間を使ってライブハウスに来てくれないと辿り着けなかった世界の住人だったわけだけど、それがいわゆるYouTubeみたいなテレビ的なものに、コロナをきっかけにすり替わっていっちゃうと嫌だなっていうのがあって。音楽の中には敢えてマスに対して発してない音楽もあるわけで。俺が作っているのはそういう音楽だから。そんな世界が、コロナのせいであっさり配信とかテレビ的なものに変わっていくのに、すごく抵抗感がある。だから、俺は配信ライブが安易な代替案になるのには乗らないでいたいと思ってる。中には、もともとテレビにだって出たかったけど、前は無理だったのがコロナ禍とかYouTubeの流行とかで誰でも無制限に露出できるようになったことを喜んでる人もいるだろうけどね。でも、それだと俺は、何でこれまであんなにいろんなことに抵抗してきたのかわからなくなっちゃうなって思ったんだよね。コロナだからって、主義主張ややり方を軟化させたくない。そんな風に改めて自分の中にあるいろんな目線を再確認するって意味では、すごくいい時期を過ごしてると思ってる。

―TOSHI-LOWさんはどうですか?

TOSHI-LOW:なるようにしかならないじゃん。乗ったり抗ったりしながら自分たちがやりたいことをやっていくのは、別にコロナになったから始まったわけじゃないし。みーちゃんが言うようにさ、大衆ウケを狙ってやっているものでもないから。そもそもクラスでバンドが好きな人なんて少数派だと思ってやってきてるし。しかも、こういう偏った音楽でしょ。けど、画面じゃ伝わらない肉体が宿る音楽はなくならない。同じところにいて、同じ空気を触れ合わすことでしか表現できないことだから。ただ、コロナの収束までにはまだ時間がかかるから、確かに形が変わっちゃう部分はあるだろうなとは思うよね。

細美:昨日、喩え話を思いついたんだけどさ、俺らが人生をかけて寿司に取り組んでいる寿司職人だとするじゃない。「マグロが売り切れちゃったんで、アボカドを握ってください」って言われてる感覚って言ったら伝わらないかな、配信やってくれっていうのは(笑)。「ごめんなさい。アボカドは寿司のネタだと思ってないので握れないです」って言って消えていく寿司職人もいるだろうし、「マグロが獲れなくなるんだったら、アボカド握るか」ってヤツもいるだろうし。俺は、「じゃあ、いいや」って感じだね。アボカドは握らないわ。マグロが獲れたらまた寿司作りたいなって感じかな。

TOSHI-LOW:じゃあそれまで何するの? テイクアウトもしないの?

細美:テイクアウトもしない。お米を仕入れる金があるうちは、お米の炊き方とかを追求しておく。次に握る時のために。それでいうと俺たちはその間に曲を作ったりできるから、それをいっぱい蓄えておけばいいんじゃないの?って感じでやってる。

TOSHI-LOW:高円寺に牛丼太郎っていう牛丼屋があってさ、狂牛病問題で牛丼が出せない時に何をしたかっていうと、牛丼に豚肉を混ぜたの(笑)。天才!って思ったよ(笑)。豚丼をやろうって発想じゃないんだよ。混ぜちゃったの。そういう“やっちまえ“っていう発想が嫌いじゃないんだよね。庶民が生き抜くための発想。


「こういう状況だから、逆に自分の主義主張をしっかり持ったほうがいいと思う」(細美)

―緊急事態宣言で飲食店での酒類販売が禁止になって、販売は出来ないけど、罰金箱を置いて「飲んだら罰金で500円!」ってやっているのが話題になってましたね(笑)。

細美:売ってるのと一緒じゃん(笑)。

―はい。しかも、評判が良くてハッピー罰金アワーまでやってたという(笑)。

TOSHI-LOW:江戸時代の落語みたいな話だよね。今みたいな話でさ、現実の方がすごいんだよ。虚構新聞に勝ってる(笑)。超面白いね。いいと思うよ。「こう言われたから、ちゃんと守らなきゃいけない」じゃなくて、「こう言われたから、いかにそれをかわして生きてやろうかな」って俺も思ってるタイプだから。

細美:でも、やっぱり同調圧力みたいなものはどこにもあってさ。コロナでイベントが中止になった時に、「出演予定だった全バンドが出るから、配信に出てください」みたいに言われることがあったんだけど、「全バンド出るからっていう理由では出ないですよ」って逆らい続けるのってけっこう体力がいるんだよね。「これって同調圧力だよな」って途中で気づいたんだけど。でもこういう状況なんだから、逆にもっとみんなが自分の主義主張をしっかり持ったほうがいいと思う。俺は、「何であの人たちは配信にはいないんだろう?」って思われても、何の言い訳もしないでいるぐらいのことは続けたいなって思ってる。去年はあんまり気づかなかったけど、これくらいコロナが長期化してくると自分の中にそういうアンチテーゼみたいな思いがまだあるんだなって感じてさ。いろいろ学びになってるよ。

―ライブに関してもう一つ聞きたいんですが、音楽ファンの方の中でも「こういう時にライブやってくれてありがとう」っていう人と、「こういう時にライブはやめてください」っていう人がいる。この価値観の衝突をどう感じていますか?

TOSHI-LOW:そもそもライブなんて来たいヤツだけが来ればいいんだから、来ない理由まで尊重する意味がわからないんだよね。来れない人は来ないんだから。それでいいじゃん。

細美:自治体とか、町とか村から来ないでくれって言われちゃった場合はない方がいいと思ってるけど。

TOSHI-LOW:それは度合いよね、もちろん。

細美:そうじゃない状況でライブを観に来る、来ないは、自分で選んでよって感じだね。

TOSHI-LOW:その後ろの正義立てなんか、別に何にもいらないじゃん。要は“俺が好きだから観に行く“だけでいい。もし、自分の職業的に“コロナの感染の心配があるので行けないんです“だったら、行かないでいい。

細美:俺たちのファンってけっこうそういうところ、ちゃんとしてると思っててさ。そもそも、自分で考えて行動しないと、ライブハウス界隈って上手くやっていけないじゃない? だから、「めちゃめちゃ行きたかったんですけど、自分で考えて今回はチケットを取らないことにしました」ってすごくニコニコしながら言ってくるヤツもいるし、「どうしてもストレスが溜まってるので、今回は行きます」ってヤツもいる。そんな感じの人が多いよ。自分以外の誰かに対して「行かないでほしい」とか「行った方がいい」とか、そういうのはないよね。

―「みんな我慢してるんだからお前も我慢しろ」みたいな声は上がってない?

細美:うん。

TOSHI-LOW:そういうこと言うのって暇か、ヤキモチなんじゃない?

細美:“僕は行かないって決断したしそれは正しいと思ってるけど、行かれる方は気をつけて楽しんでくださいね“みたいな連中が多い。

TOSHI-LOW:大きい盆の上に乗っちゃうとファンもいろんな人が集まるじゃん。だから俺たまに篩(ふるい)にかけるもん、スゲぇこと言ったりして(笑)。じゃないと、乗ってる盆がグラグラしちゃって「あれ? TOSHI-LOWってそんな人だと思わなかった」みたいなこと言われるの嫌だもん。「俺なんてこんなもんだよ」って、常に見せておかないと。リアルなクズなところ見せてやるよ、幻滅しろ!って、マジで思う(笑)。

細美:定期的にそれできる人って強いよね(笑)。


「みかん」の衝撃

―完全に同意します(笑)。さて、アルバムの話ですが、どの曲もすごく好きなんですが……。

TOSHI-LOW:「みかん」は?

―爆笑でした! TOSHI-LOWさんの語りから入るっていう。
 
TOSHI-LOW:そうだね。演歌の花道(笑)。

―で、サビが“お腹 お腹いたい“ですからね(笑)。5曲〜7曲目の「ダンシングクイーン」「みかん」「オーオーオー」の流れはヤバかったです。

細美:ヤバいよね(笑)。

―このアルバムに「みかん」があるかないかで随分違うので、そういう意味ではアルバムのキー曲かなと思います。

細美:先行で「サボテン」を公開したんだけど、俺のラジオ番組では「けっこう真面目な感じなんですね」っていうリアクションがあってさ。



―ロウエイの1stアルバムはどういうテンションでくるのか、すごく気になっていたんです。反戦歌をカバーしてきた経緯もあるので、権力に中指立てるメッセージ性満載の感じなのか、もっとニヒリズムな感じなのか、はたまた笑いの要素が強いのか。どれも出来てしまう二人なので。で、アルバムを聴き進めていくと名曲の連続で、正直不安になって(笑)。けど、「みかん」でやっぱりロウエイだ!って(笑)。

TOSHI-LOW:そうだよね。俺はね、「みかん」のMV撮った方が良かったと思ってたぐらい。

―「みかん」はどのタイミングで作ったんですか?

TOSHI-LOW:だいぶ後だよね?

細美:うん。やっぱり舐められたくねぇなっていうのがあって。二人とも頑張って曲を作ってたんだけど、ある日「もうけっこういい曲多くね?」ってなって、“いい曲禁止“っていう謎のルールが発生して、いい曲じゃない曲を作ろうって頑張った。

―いい曲禁止!(笑)

TOSHI-LOW:普通にカッコいいアルバムじゃんって思って(笑)。俺らっぽくないんじゃない?って。

細美:やばいぞって(笑)。で、TOSHI-LOWが「いい曲禁止」って言い出したんだよ。で、翌日に「みかん」ができた。

TOSHI-LOW:タクシーでスタジオに来る時に、5分ぐらいで作ったんでしょ?(笑)

細美:タクシーの中で鼻歌で作ってスマホに録音して、着いて「できたよ」って渡した曲。なんのオリジナリティもないもんね。

TOSHI-LOW:ないね(笑)。

―(笑)。ラストのサビの“お腹、お腹、お腹……“の連呼と歌唱崩壊(笑)はどういう経緯でああなったのですか?

細美:リフレインのところを録ってる時に、アドリブで思いついちゃったんだよ。「お腹、お腹、お腹」って言った瞬間に、ブースの向こう側の人たちがワッて笑ったの。それを見て、耐えられなくなっちゃってさ(笑)。最後まで頑張って歌おうとしたんだけど歌えなかったんだよね。

TOSHI-LOW:本気で笑いを堪えてる人が笑っちゃうと、またそれがいいんだよね。神テイクだよ。「それでもういいです」ってなって完成(笑)。というより、これぞ完成形だよ。

―この曲、ライブではどうするんですか?

細美:もちろん、ちゃんと歌いますよ。

TOSHI-LOW:絶対に笑わない。

細美:まぁ「みかん」みたいな曲があると「オーオーオー」にパッと繋げられるのもいいんだよね。


「俺はエグいもの尊いものでも何でも、最終的には歌にしたい」(TOSHI-LOW)

―確かに。佳曲揃いの中でも「君の声」が一番好きです。これはTOSHI-LOWさんが作詞・作曲で、細美さんがピンでヴォーカルですよね。まずはTOSHI-LOWさん、この詞は何を思って書いたものなのか、そしてなぜ細美さんに歌ってもらおうと思ったのかを聞かせてください。

TOSHI-LOW:この曲を作った経緯は、みーちゃんにも歌入れの前に言ったんだけどさ。震災で10年前に息子を失くしてしまった家族のインスタを見てたら、誕生日のお祝いをやってたんだよね。「あれ? 誰が誕生日なんだろう」って思って、はたと気づいたら10年前に亡くなった息子の26歳の誕生日をやってたの。俺の中ではその発想は全然なくて。10年前に16歳で亡くなってるんだけど、毎年誕生日をやって一歳一歳年をとっているわけ。それを見てけっこうショックというか、ハッと思って。自分の考え方と全然違うから。あまりにもそれが美しく切ないから、形に残したいなって思ったんだよね。俺はエグいもの尊いものでも何でも、最終的には歌にしたいから、今回、こういう詞を残したの。そしたら、すごくメロディを高く作っちゃってて、仮歌を入れる時に声が裏返っちゃってさ(笑)。

―キーを下げればいいじゃないですか?

TOSHI-LOW:下げればいいんだけど、“そうだ! この曲、世界で一人、歌える人がいるぞ“って。つまり細美武士がいるわけじゃん。みーちゃんも「キーが高い」って言ってたけど、歌っている中で俺の書いた言葉とみーちゃんの歌がどんどん合わさっていってさ。自分で詞を書くと使わない言葉ってどうしてもあるんだよね。その一方で、自分だったら恥ずかしくて歌えないけど、他の人だと歌える言葉がある。俺もみーちゃんが書いてくれたやつはすんなり歌えるわけ。だから、細美武士が使わない言葉が意外に新鮮なのかなと思ったしね。

―TOSHI-LOWさんが書いた美しい歌詞と曲に乗った細美さんの歌が透明で優しくて。特にサビの“ただあなたに逢いたくて“の部分が秀逸でした。

細美:TOSHI-LOWからこの曲のエピソードを聞いてたから、それを書いたTOSHI-LOWの気持ちを最初はなぞろうと思ったんだよね。でもそれはやっぱり借り物になっちゃうっていうか、真似してるって言うのかな……、後追いで入り込むような、演技っぽくなっちゃうなと思ったから、俺はその光景を見てガツンとくらったTOSHI-LOWを見てる語り部的な立ち位置で歌おうと思ったの。“こういうことが起きたんだよ“っていう風に歌ったら、すんなり形になったから良かった。それに気づくまではちょっと難しいなって思ってたけど、わかったから逆に俺の感情的な感覚はあんまり入ってないんだよね。その誕生日の光景もすごいし、それを見てくらって曲にしようと思ったTOSHI-LOWの感覚も美しいし、それを横からいいなと思って歌っている俺がいるみたいな感じ。

TOSHI-LOW:その時に、細美武士の楽器としての素晴らしさを見たんだよね。初めはキーが高かったり、イメージが邪魔したり……って時に、たぶんスッと一回そういうのを捨てたんだと思うのね。それで、自分の喉と空気と体、つまり“ヴォーカル・細美武士“だけになった。そこから声と雰囲気をアジャストするのがすごくて。一瞬その空っぽになって、ただ自分が楽器になっていく様を後ろから見てぞわぞわした。すげぇって思って。

―そういうことができちゃうんですね、気持ちの切り替え一つで。

細美:その感情がどれだけ本当に音になって飛んでいるのかはわからないけどね。でも、やってる側は意外とそういうところまで考えて歌ってるもんだよね。


お互いのラブソングが普遍性を帯びるまで

―細美さんが言っていた“語り部的な立ち位置“って言葉がすごく腑に落ちました。こういう実話ベースの歌って、下手するとストーリーの押し付けになりがちじゃないですか。けど細美さんの歌声が透明で何にも寄ってない感じだったから、聴いていて想像力がどんどん掻き立てられて、自分の愛しい家族が亡くなったらどう思うんだろう?とか思ったら涙が出てきました。実話ベースの歌詞だけど、透明なヴォーカルのおかげで自分の物語にもすることができたんです。

細美:なるほど。

TOSHI-LOW:それは正しい意見だと思う。ヴォーカルに透明性があることによって、他の人の色もちゃんと乗るっていうね。もともと具体的な出来事を見て作ってるから、物語が強く出過ぎちゃうとやっぱりクサくなるし、俺が歌ったら余計にクサくなっちゃうと思う。だから良いバランスになったのかもしれないね。

―そういう意味でも、「君の声」はこのアルバムのなかの最高傑作だと思います。The LOW-ATUSという二人のコンビの素晴らしさが発揮されたこの一曲は鳥肌が立ちましたね。それと「みかん」かな(笑)。

TOSHI-LOW:偏った聴き方してるよね(笑)。でも、みんなが「みかん」がいい!って言いだしたらどうしよう(笑)。

細美:インタビューでも「みかん」の話ばっかり聞かれたら、もういいよって思うかもしれない(笑)。

TOSHI-LOW:あとファンがライブでみかんを投げるのが恒例になったりしたら嫌だよね。よくあるじゃん? コレクターズもガム投げるよね。

細美:でもガムとか紙飛行機ならいいけど、みかん投げちゃダメでしょ。たぶん怒られるよ。

TOSHI-LOW:ダメかな。皮を剥いて投げれば?

細美:一緒だろ(笑)。

―ベタですけど、仲良いですよね。兄弟みたいというか……。お二人の関係性で言うと「いつも通り」は細美さんからTOSHI-LOWさんへのラブソングだなって。

TOSHI-LOW:何言ってんの、全部そうだよ。全部、お互いのラブソングだよ。

―どんだけTOSHI-LOWのこと好きやねん!って思いながらアルバムの最後の曲「いつも通り」を聴きました

細美:そうですね。その通りだと思います。

TOSHI-LOW:歌詞っていろんなものが入るじゃん。みーちゃんのことも、もちろん自分の家族のことも友達のことも入るし。書いてると、いろんな人のことがどんどん目の前を通り過ぎていくわけ。たった一人のために書いているつもりでも、どんどん違う人たちとすれ違っていく。そうすると、そのすれ違う人の一人が、聴いている“あなた“でもあるだろうし。この歌を聴いてると、誰にでも当てはまるというか、最大公約数みたいな嫌な言い方じゃない普遍性を持っていて、最後にポジティブになれる感じがすごくするよね。


「フォークのいいところって表現を丸めないでいいこと」(細美)

―10曲目の「ロウエイタスのテーマ」で震えたのが“さあ考えよう“というフレーズです。ロウエイのテーマだから“怒れ!“とか“FUCK!“みたいなフレーズが出てくるのかなと思いきや“さあ考えよう“と。詞を書いたのはTOSHI-LOWさんですよね。

TOSHI-LOW:だってそうじゃない? 生きていくって。まずは考えることでしょう。俺たちだって社会問題も考えてるわけじゃん。社会の中で生きてるわけだから、ある意味社会派であるし。だからそれをやめない限りは、みんながここで起きていることの当事者だし。そもそも民主主義って全員が参加することによって成り立ってるものなんだから、堅苦しい政治の理論なんて好きじゃないけど、面白くおかしく酔っ払いながら、あーでもねぇ、こーでもねぇ言ってていいんだよって思うし。例えば右と左だって簡単にはわかれないわけじゃん。一つ一つ、全部に右と左があるんだし、そもそも真ん中ってどこよ?って話でさ。今考えたら、フランス革命の右と左って真逆になってるわけだし。だから、そんなことも、こんなことも、笑うことも、すべて一緒だよっていう目線でこの曲は作った。ビール飲んで酔っ払える世の中も政治だし、社会だし。で、真面目に議論するのも自分たちの中にあることだし。だけど、俺は全部が面白くないと嫌なんだよ。だからたまに、真面目なトークイベントにも呼ばれるけど、いかに崩してやろうかとしか考えてないもん。

―細美さんはどうですか? 「ロウエイタスのテーマ」となると、細美さんも共犯者ですから。

細美:もちろん。フォークのいいところって表現を丸めないでいいことなんだよね。“原発“とか“戦争“とかってバシっと書いてあってさ。フォークの世界ではそれが普通のフォーマットだし、ロウエイがオリジナルをやるなら、こういう曲が絶対に入ってくるだろうと思ってたから、最初に聴いた時は“おー、来た来た来た!“と思ったよ。ただアンチテーゼだけブチまけて終わっても良かったんだろうけど、最後に結局取りこぼさないようにしてるじゃない。誰かをはじいて終わりじゃなくて、“まぁ、こっち来いよ“みたいな。そういうのがTOSHI-LOWらしいなと思ったし、ロウエイらしいと思ったね。最初に冷や水ぶっかけとくんだけど、その先のためにやってるような感じがあるから、いいなと俺は思った。

―アルバムには、細美さん作詞の曲も、TOSHI-LOWさんが作詞の曲もあり……。当たり前ですけど、二人の書く詞が全然違いますよね。

細美:うん、そうだね。あと俺はこんなにたくさん日本語で歌詞を書いたのって初めてだから。

―日本語詞を書いて何か発見はありました?

細美:最初から日本語で作ってりゃ日本語で書けるんだなって感じだったね。いつも英語で曲を作って、日本語の曲のほうがみんな覚えやすいし歌いやすいから、何曲かは日本語にしようって感じだったんだけど、最初から日本語で書くと全然苦でもなんでもないんだなって(笑)。割と自分で書いた歌詞を気に入ってるよ。一音節に一文字しか乗らないから、どうしても英語よりも言える内容が減るんだけど、減った分すごく隙間がある詞になるよね。俺、自分で気に入ってるんだけど、『空蝉』の最後のブロックの〝雨宿り〟って単語を使わずに、雨宿りしてる感じが書けたのはよかったなって思ったね。

―非常にポエジーかつ叙景的ですよね。

細美:でも、わからない人もいるんだろうなって思った。“トタンの屋根 借りたままで“で“雨宿りだ“って気づかない人もいるんじゃないのかなって。

TOSHI-LOW:ホームレスかなと思うヤツもいるよね(笑)。


二人でレーベルを立ち上げた理由

―(笑)。TOSHI-LOWさん作詞の「思草」は震災の景色が描かれていますね。

TOSHI-LOW:もちろんそれもそうだけど、昔と今をタバコの煙の向こうで見比べているっていう歌なんだけどね。

―ええ。お二人は震災から10年をどんな風に感じていますか?

細美:震災から10年っていうことに関して、上手くまとめられる気がしないから、そういう風には喋らないけど。でも気づいたのが、“あれから10年“ってものがはっきりわかったタームって今まで俺にはあんまりなかったんだよね。例えば、「中学卒業から10年か」って言われてもその10年間がどれぐらいの厚みだったかってパッと思い計れなかったり、20歳から30歳までの10年の距離感というか、タイム感ってあんまりはっきりしないんだけど、震災から10年っていうのだけははっきりとわかる。“そうか、10年ってこれぐらいの時間か“って、初めて俺は感じとれるようになったのね。そうすると、あと自分の人生で何回その10年があるのかがわりとイメージできるようになって。この10年という物差しが手に入ったことで、“俺の持っている人生の時間ってあとこれくらいなんだ“って推測できるようになった。それは自分の人生にとってとても大きなことなんだよね。

―なるほど。

細美:それで、“残りの時間をどう使おう?“っていうのを、じゃあ20年なのか、25年なのかって考えた時に、それを漠然とした感覚じゃなくて、“これぐらいの時間か“ってはっきり捉えられるようになったことは、俺にとってデカかった。

―細美さんはここから10年間はどうしようと考えているんですか?

細美:ジョーになんか教えるわけないだろ(笑)。っていうか誰にも教えないけど。基本的に昔から今日を無駄に生きたくないっていう感覚はすごくあったけど、その思いが強くなったよね。YouTube観てる時間なんかねぇなとか。……それでも観てるけどね(笑)。

TOSHI-LOW:すごく特殊なジャンルだけ観てるらしいよ。

細美:スパーリング動画を観て、“こいつ上手いな“とか、“これ、今度やってみよう“とかね(笑)。けど、無駄に生きたくないな、そんな暇はもうないんだなってことが、前よりすごくはっきりしてるから、眠くて終日ダラダラみたいなことはあんまりないね。

―今日という一日を無駄にしたら、未来を無駄にしちゃう、と?

細美:うん。でも、未来にそれができるかどうかも、実は後付けでいいんだと思う。途中で終わるかもしれないし。

TOSHI-LOW:今、聞いてて“あ、そうか“って思ったよ。誰の命令だかわからないけど、俺たちが生まれてきてさ、自分で生きてるつもりだったけど、実は流れで生きさせられてるみたいな感じだったわけじゃん。そこに震災があって、自分たちの歩幅で、自分で歩くことをもう一回能動的にやりだしたわけじゃない? で、その歩幅で10年歩いたから10年の長さがわかったんだろうなって思った。子どもの頃は親に面倒見てもらってるし、若い時は勢いでいっちゃうじゃん。それだと時間感って絶対にわからないもんでさ。だから、タイミングも良かったのかなって思う。震災のタイミングを良いとか悪いとか言っちゃいけないけど。40歳の手前で、流れで生きてたのが一回止まりかけたところで震災がきて、そこから自力で歩くしかなくて、瓦礫の街を自分の足で歩いたからこそ、自分なりの歩幅がわかったんだろうなって思ったよ。

―今回のアルバムリリースにあたってお二人でレーベルを立ち上げていますが、その理由は?

TOSHI-LOW:そもそもお互い会社が違うから、それで揉めたり、真ん中みたいなところをいくよりは、新しく作ってみればそれも一つのトライじゃん。音楽を作るのと一緒で、新しい面白さなんじゃない?

細美:レコードメーカーの存在が、昔より明確じゃなくなってきたでしょ? 歌い手さんが何万回再生とかするような世の中で、レコードメーカーの在り方がどんどん変化していくタイミングだとも思うから。レーベルをやってみて、学びの場として最高だったね。

―レーベルを立ち上げた以上は、このレーベルで今後実験的なことをやっていくんですか?

細美:わからないけど、何をするにしても受け皿があるってことは良いことだよね。“それだったらここでやればいんじゃない?“みたいな、チャンネルが一つ増えたわけだから。

TOSHI-LOW:ゆずやコブクロが移籍したいって言ったら、やってやってもいいけど。

―ユニット専門ですか?

TOSHI-LOW:男性ユニットの専門レーベルとして。

細美:じゃあ武藤ウエノ(武藤昭平 with ウエノコウジ)も出す?

TOSHI-LOW:やだなぁ。売れねーな、あれは(笑)。

―(笑)コブクロさんは今、大変だから来るんじゃないんですか?

TOSHI-LOW:そうだね。だからさっき篩(ふるい)にかけるって言ったんだよ。もともと“そんなことやっても当然の人だな“って篩にかけときゃいいんだからさ(笑)。俺スケベだよーって。

―(笑)最後にアルバムジャケットの写真について教えてください。

細美:これはデザイナーさんが提案してくれた林忠彦さんっていう写真家の写真なんだよ。戦後日本を代表する写真家で太宰治とか文壇の写真を撮ってた人だけど、戦後の闇市の子どもたちの写真もたくさん撮っていて。アナログジャケットの方の写真は、子どもがタバコを吸ってるんだけど、配信の場合、ジャケットにタバコが写ってるの自体ダメなんだって。戦災孤児のこの二人は兄弟分で、タバコを吸ってる方が兄貴分なんだって。で、腹を空かした弟分に「オメエよ、ちょっと飯買ってきてやるからよ」みたいなことを言ってた瞬間を切り取ってる写真なんだよね。


『旅鳥小唄』アナログ盤ジャケット

―TOSHI-LOWさんがタバコを吸ってる兄貴の方?

細美:そういう感じでもないんだよね。二人っていうイメージはもともとあったのかもしれないけど。そういえば、レコード盤の方のジャケット見た人から、「こんな小さな子供がタバコを吸っている写真をみて、ちょっと悲しい気持ちになりました」っていう意見があった。俺たち全くそんなこと思わないで、いい写真だなって思ってたからさ。時代で捉え方が変わるんだなって思って。

TOSHI-LOW:“そもそもこれはオメーの国だよ“って思う。こういう時代があって今が成り立ったんだよっていう話でさ。

細美:しかも世界には、こういう現実がいっぱいあるわけじゃん。

―今の話も踏まえて、レコードの方を買わせていただきます。

細美:レコードは生産枚数少ないから、ジョーは買わないで。

―なんでですか!? お金払えばいいじゃないですか!

TOSHI-LOW:ダメだよ。そこも篩にかけたいから(笑)。

<INFORMATION>


『旅鳥小唄』
the LOW-ATUS
IMPLODE
発売中

1. 通り雨
2. サボテン
3. 空蝉
4. 思草
5. ダンシングクイーン
6. みかん
7. オーオーオー
8. 丸氷
9. 君の声
10. ロウエイタスのテーマ
11. いつも通り

「旅鳥小唄ツアー2021」

2021年6月21日(月)
北海道・札幌Zepp Sapporo
OPEN 17:30 / START 18:30
2021年7月2日(金)
東京・新木場USEN STUDIO COAST
OPEN 17:30 / START 18:30
2021年7月19日(月)
福岡Zepp Fukuoka
OPEN 17:30 / START 18:30
https://thelowatus.com