ファンクやソウルのリズムを取り入れたビートに、等身大で耳に引っかかる歌詞を載せて歌う4人組ロックバンド、トリプルファイヤーの音楽ブレインであるギタリスト・鳥居真道による連載「モヤモヤリズム考 − パンツの中の蟻を探して」。第27回はローリング・ストーンズのチャーリー・ワッツのドラムからロックンロールのリズムの成り立ちを考察する。

8月24日にローリング・ストーンズのチャーリー・ワッツが亡くなりました。深夜にInstagramを見ていたらクエストラブがチャーリー・ワッツのポートレートを載せていたので、これってまさか……と思ってすぐに検索したところ、やはり訃報が目に入ってきたので、大変ショックを受けたのでした。

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学生の頃に所属していた音楽サークルの部室では、ビートルズ派とストーンズ派に分かれて議論がしばしば繰り広げられたものです。ある日、「チャック・ベリーのカバーはどちらが得意か?」というテーマで議論が進められていました。ストーンズのほうが得意だろうという結論に至りました。当時あまりピンと来ませんでしたが、今では納得できる結果です。ストーンズの演奏するチャック・ベリー・クラシックスはたしかにかっこいい。





なかでもお気に入りなのは「Talkin‘ About You」のカバーです。不敵で色気のある不良のような佇まいのバージョンとなっています。コーラスワークを活かしたポップでシャープなホリーズ版や気合に満ちたドクター・フィールグッド版も良いのですが、やはりストーンズ版が最もクールだといえるでしょう。特筆すべきはなんといってもチャーリー・ワッツのプレイ。かなりヒプノティックな演奏で、脳みそをぐわんぐわんと揺さぶられているような感覚を覚えます。こんなタイム感ってあり?とただ驚くばかりです。

「Talkin‘ About You」に見られる1拍目と3拍目の前に16分音符でストンとスネアのゴースト・ノートを入れるパターンは1965年当時にあってはなかなか革新的だったと思います。こうしたテンポの曲で使用されている同時代の例を他に知りません。

チャーリーのドラムの癖としては、キックとハイハットが先走りがちなのに対してスネアは後方に置かれるというものが挙げられます。ポリスのドラマー、スチュワート・コープランドが英紙ガーディアンに寄せた追悼文にも同様の分析が書かれており、勝手にお墨付きを得たような気持ちになっています。歪な形の石が抵抗を受けながらも坂道を勢いよく転がっていくような感じ。言うまでもなくこれはチャーリーが生涯所属したバンドの名前に由来する安直な連想に他なりません。



さらにいえば、チャーリーは際どい演奏をしているにも関わらず、バンド総体で聞いたときに辻褄が合っているように聴こえるという点がまさに驚異的です。バンドで演奏する際に、何を基準にアンサンブルを組み立てるかというコンセンサスが取れていないと全体の演奏にちぐはぐになりがちです。例えばドラムの演奏を基準にするにしても、ハットに合わせるのか、キックに合わせるのか、スネアに合わせるのかで全然違ってきます。一番手っ取り早い解決方法は3点のタイミングがきちんと整えられるドラマーを雇うことでしょう。けれどもロマンがないといえばない。

ストーンズのアンサンブルは何か基準を決めてかっちりとリズムを組み立てるようなタイプではありません。ばらばらの演奏が表面張力ぎりぎりのところで保たれており、そのスリリングな様がまさしく魅力になっているのだと考えています。

チャーリー・ワッツは癖の強いドラマーというイメージがありますが、シャッフルを演奏している際にはそこまで癖の強さを感じさせるわけでもありません。こなれていると言っても良いでしょう。その理由を本人が元々ジャズに傾倒しているからといってしまうのはいささか安直でしょうか。



チャック・ベリーのシャッフル曲「Around And Around」のカバーはどうか。この曲においてはチャーリーが場を支配しているといっても過言でありません。ぐいぐいとバンド全体を引っ張ってドライブさせつつ、ステディな4分音符でボトムを支えています。



ところで、チャック・ベリーの曲を初めて耳にしたのはいつのことだったのでしょう。おそらくそれは小学生のときにテレビで観た『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で主人公マーティが演奏する「Johnny B. Goode」を聴いたときのことだったはずです。エレキギターへの憧れはこの場面によって植え付けられたのだと思われます。そうした意味で罪深いこちらのシーンは、一方でロックンロールのリズムの成り立ちを考えるうえでも非常に勉強になる場面でもあるのです。



『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は1985年から30年前の1955年にタイムスリップした主人公が、タイムパラドックスに関する諸問題を解決しつつ、元の時代へと帰ろうとして七転八倒する映画です。

件のシーンにおいてマーティはダンスパーティーで父と母を結びつけるというミッションがありました。マーティの両親はバンドが演奏するバラードに合わせて踊っているときに良い感じのムードになり、キスを交わしたことで結ばれたそうなのです。しかし、そのバンドのギタリストは、ビフたちによってトランクに閉じ込められたマーティを助けた際に怪我を負ってしまいます。これでは演奏を続けるのは無理だというバンドの面々にマーティは食い下がります。そこで自らギタリストとして名乗りあげ、代役を務めることになります。

マーティが彼らと演奏した曲はペンギンズのヒット曲「Earth Angel」でした。1954年のヒット曲で、リズムは6/8拍子のいわゆるハチロク。バンドは他にもジミー・フォレストの「Night Train」といった曲をレパートリーにしていました。1951年リリースのシングルで、のちにジェームズ・ブラウンもカバーしています。映画ではアール・ボスティックのややテンポを上げたヴァージョンを参考にしたそうです。どちらも3連系です。

「Earth Angel」の演奏がなかなか好評だったマーティにもう一曲やろうという申し出がありました。そこで1958年にリリースされた「オールディーズ」である「Johnny B. Goode」を演奏するわけです。バンドの面々はロックンロールというスタイルの音楽をまだ知らないので、当時のR&Bマナーでマーティの演奏に応えます。つまりスウィングのリズムで演奏するのです。一方、マーティはチャック・ベリーよろしくスウィングしないイーブンの8分音符でリズムを刻みます。



ロックンロール勃興期のアンサンブル状況にあっては、こうしたスウィングとイーブンの混在がよく見られました。たとえばリトル・リチャードやチャック・ベリーが演奏するピアノやギターのイーブンの刻みに対するバンドのスウィングといったものが挙げられます。いわゆる細野晴臣いうところの「おっちゃんのリズム」の世界です。



リンゴ・スターやチャーリー・ワッツといったロック第一世代のドラマーたちはジャズ・ドラマーに憧れた人が多く、ハネない曲を演奏していてもスウィングする感覚が残っており、まさにそのハイブリッドな感覚こそがロックンロールのロールの部分であるとスティーブ・ジョーダンが指摘しています。

ストーンズのデビューシングル「Come On」はやはりチャック・ベリーのカバーでした。この曲でのチャーリーのドラムはまさにイーブンとスウィングの混在を地でいくものと言って良いでしょう。

初めて聴いたときは、なんて疾走感なんだ!と驚いたものですが、今聴いてみるとアグレッシブに突っ走るハイハットに対してキックが妙にのほほんとしているように感じられます。それはおそらくキックがほんのりハネているからではないでしょうか。ハイハットをリトル・リチャードのピアノやチャック・ベリーのギターに、キックとスネアをバンドのハネた演奏に例えることができると思われます。

ベル・ワイマンのベースもドラムに合わせてハネとイーブンを行ったり来たりするようなタイム感で演奏しています。ちなみにチャック・ベリーの原曲のほうはドラムのスネアワークが光るパターンで、行きつ戻りつというようなグルーヴとなっています。これは突っ走るようなアレンジを施したところにストーンズの新味があったといえます。本当に癖になるようなリズムです。同様のアプローチは、チャック・ベリーがボビー・トゥループの「Route 66」をストーンズがさらに孫カバーしたバージョンにも見られます。



他のストーンズによるチャック・ベリーのカバーでいうと「You Can‘t Catch Me」も素晴らしい。原曲はほぼハネない2ビートですが、ストーンズは50%くらいの割合でハネた2ビートとなっています。チャーリーは淡々とパターンを繰り返していますが、ときおりがっつりハネたフィルを入れて曲も盛り上げています。この曲は特にミック・ジャガーのもちゃりとした歌唱が非常にクールです。バンドの演奏に比べると若干遅れたタイミングで合わせていてまさに粋。このように飄然とした態度で「You Can‘t Catch Me」と歌われた日には。



先述のガーディアンでの追悼文でスチュワート・コープランドも言っていましたが、チャーリー・ワッツの演奏を分析することはできたとしても、真似することは容易ではないと思われます。たとえ真似できたとしても、ともにアンサンブルを構築できるメンバーがいなければなりません。つまり相棒たちがいなくっちゃね、という話しです。チャーリーのスタイルおよびストーンズのサウンドは、キース・リチャード、ミック・ジャガー、ビル・ワイマン、ブライアン・ジョーンズ、ミック・テイラー、ロン・ウッドらとともに相補的に組み立てられたものに他なりません。ストーンズというバンドの在り方を考えると、バンドのサウンドというものはつくづく替えが利かないのだなあ、としみじみ思います。


鳥居真道

1987年生まれ。「トリプルファイヤー」のギタリストで、バンドの多くの楽曲で作曲を手がける。バンドでの活動に加え、他アーティストのレコーディングやライブへの参加および楽曲提供、リミックス、選曲/DJ、音楽メディアへの寄稿、トークイベントへの出演も。
Twitter : @mushitoka / @TRIPLE_FIRE

◾️バックナンバー
Vol.1「クルアンビンは米が美味しい定食屋!? トリプルファイヤー鳥居真道が語り尽くすリズムの妙」
Vol.2「高速道路のジャンクションのような構造、鳥居真道がファンクの金字塔を解き明かす」
Vol.3「細野晴臣「CHOO-CHOOガタゴト」はおっちゃんのリズム前哨戦? 鳥居真道が徹底分析」
Vol.4「ファンクはプレーヤー間のスリリングなやり取り? ヴルフペックを鳥居真道が解き明かす」
Vol.5「Jingo「Fever」のキモ気持ち良いリズムの仕組みを、鳥居真道が徹底解剖」
Vol.6「ファンクとは異なる、句読点のないアフロ・ビートの躍動感? 鳥居真道が徹底解剖」
Vol.7「鳥居真道の徹底考察、官能性を再定義したデヴィッド・T・ウォーカーのセンシュアルなギター」
Vol.8 「ハネるリズムとは? カーペンターズの名曲を鳥居真道が徹底解剖」
Vol.9「1960年代のアメリカン・ポップスのリズムに微かなラテンの残り香、鳥居真道が徹底研究」
Vol.10「リズムが元来有する躍動感を表現する"ちんまりグルーヴ" 鳥居真道が徹底考察」
Vol.11「演奏の「遊び」を楽しむヴルフペック 「Cory Wong」徹底考察」
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