日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出していく。2021年11月の特集は「J-POP LEGEND FORUM 再評価シリーズ第1弾 岡村靖幸」。2021年11月16日に初めてのアナログ盤『家庭教師』が発売になる岡村靖幸のEPIC時代を辿る。11月第1週のパート1は、当時のプロモーター、現在はソニー・ミュージックダイレクト制作部部長・福田良昭をゲストにアルバム『家庭教師』について再評価する。



田家秀樹:こんばんは。FM COCOLO「J-POP LEGEND FORUM」案内人・田家秀樹です。今流れているのは岡村靖幸さんの「どぉなっちゃってんだよ」。1990年11月に出た4枚目のアルバム『家庭教師』の1曲目。アルバムの先行シングルとして、1990年7月21日に発売されたのですが、当時は8cmシングルCDだったんですね。今年7月21日、31年振りに17cmアナログ盤、ドーナツ盤として販売されました。今月の前テーマはこの曲です。

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「J-POP LEGEND FORUM」。J-POPの歴史の中を様々な伝説をあらためて紐解いていこうという60分です。伝説のアーティスト、伝説のアルバム、伝説のライブ、伝説のムーブメント。1つのテーマ、1人のアーティストを1ヶ月に渡って特集しようという最近のラジオ番組の中では贅沢な時間の使い方をしています。今月2021年11月の特集は岡村靖幸。1986年デビュー、今年はデビュー35周年。去年、新作アルバム『操』を発売したシンガーソングライター。作詞・作曲・編曲・プログラミングまで全部1人で仕上げてしまうというマルチクリエイター。日本のブラックミュージックのパイオニアの1人です。この曲の入ったアルバム『家庭教師』は日本のロックの名盤として語り継がれています。発売が1990年11月16日。それから31年後の同じ日、初めてアナログ盤が発売になります。当時はCDでした。今月はあらためて岡村靖幸さんを聴き直してみようという1ヶ月。「J-POP LEGEND FORUM 再評価シリーズ 第1弾」としてお送りします。

1986年にデビューして、2001年までEPICソニーに在籍して、5枚のオリジナルアルバム、ベストアルバムとセレクションアルバム、それぞれ1枚ずつ残しております。今月はその5枚のオリジナルアルバムを毎週1枚ずつ取り上げていこうという1ヶ月です。クリエイターとしていかに非凡だったか。EPICソニーはどんなレコード会社だったか。80年代後半はどんな時代だったのか。そんな話ができればと思っております。まずは今週、4枚目のアルバム『家庭教師』を特集しようと思うのですが、今月のゲストは当時岡村さんの担当プロモーターだった福田良昭さん。現在はソニーダイレクト制作一部、『家庭教師』のアナログ盤を発売したセクションの部長さん。当時、現場を担当していた方が今年21年振りに再び岡村さんの担当になったという方であります。こんばんは。



福田良昭:こんばんは。福田です。よろしくお願いいたします。

田家:初めてのアナログ化なんですよね。

福田:そうですね。時代的にはちょうどアナログからデジタルに代わる、過渡期だったので。

田家:当時アナログ盤で作られていなかったものをアナログ盤にすることの苦労はおありになるんですか?

福田:もともとアナログを意識してない音作りをアナログでどう最良の音にして届けられるかっていうのが1番難しかったところで。岡村くんのマスタリング・エンジニアをやられている木村健太郎さんにアナログのリマスターをお願いして。乃木坂スタジオでカッティングをしたんですけど、このカッティングも結構綿密にというか。今のプロデューサーである近藤雅信さんとか、ご本人にも来ていただいて、カッティングに立ち会っていただいて、慎重に時間をかけて。で、今の『家庭教師』の音。ベストなものはどんなものだろうかというのを想定しながら、そこに着地させる作業がすごく大変でした。

田家:「21世紀の家庭教師」というキャッチフレーズがついているわけですが、そういう意味ではアナログ盤の『家庭教師』をほぼ全曲こうやってラジオでオンエアするのは最初ということになるんですかね?

福田:最初ですね。

田家:おー! 今日はアナログ盤を初めてお聴きいただくということになりますが、なんで今回福田さんにお話を伺おうかと思ったか。『家庭教師』を発売した当時、岡村さんはあまり取材が好きではなくて、代わりに福田さんが受けていたという話をお聞きして。当時の取材のやり取りを再現してみるというような感じもあってお招きしました。では、アルバムの1曲目からあらためてお聴きしましょう。





田家:音いいっすね(笑)。ちょっとびっくりしました。

福田:そう言っていただければ何よりです。

田家:「21世紀の家庭教師」というキャッチフレーズで特設サイトができておりまして、福田さんはそこで講師として登場されて当時の思い出もお書きになっています。この「どぉなっちゃってんだよ」を当時、マスタリングの時にイントロで背筋がゾクッとして感動で足が震えた。そういう感じでした?

福田:はい。たしか何曲かまとめて聴いたと思うんですけど、とにかく想像もしなかった音がまず出てきたので、びっくりしたというか。冷静に聴ける状態ではなかったですね。

田家:なんだこの音楽は!? みたいな感じ?

福田:そうです。「これが出てきたか……」みたいな。本当に想像しなかったです。イントロも。

田家:あらためて、今回のアナログ盤でお聴きになってどうですか?

福田:やっぱり進化していると言うとあれですけど、岡村くんの音作りってどういう形になっても他には比べものにならないくらい音が重なっていたり、緻密な作り方をしていたりするので、これはデジタルだろうがアナログだろうが変わらないというか。あらためて岡村くんの音作りの才能を感じますね。





田家:『家庭教師』の2曲目「カルアミルク」が流れていますが、この曲で思い出すことは?

福田:『家庭教師』って、実はそれまでのアルバムの中で描かれている青春の主人公みたいなのがいて。それとはまた、彼がもうちょっと歳を重ねるというか。少し大人になった主人公が『家庭教師』には散りばめられていた。「カルアミルク」も主人公が大人になって、六本木というキーワードがあったり、お酒というキーワードがあったり、ディスコというキーワードがあったりして。ちょっと大人になって味わう恋愛ストーリーみたいな内容なんですね。それと別に、1つだけ僕自身の個人的なエピソードがあるんです。『家庭教師』のプロモーションで全国を彼と回ったとき、秋田のFM番組公開録音がありまして、その時にカラオケ選手権というコーナーがあったんです。そこに僕が飛び入りしてこの曲をオリジナルカラオケでワンコーラス歌わせていただいて、それが電波に乗った(笑)。結構自慢です。

田家:(笑)。実は9月29日にBank Bandのアルバム『沿志奏逢4』というベスト盤が出まして。Bank Bandというのは音楽プロデューサーの小林武史さんとミスチルの桜井和寿さんが組んでいる、ap bank fesのためのバンドなのですが。このBank Bandの1枚目のアルバム『沿志奏逢』に「カルアミルク」が入ってまして、『沿志奏逢4』にも収録されていました。

福田:おーそうですか。ありがたいですね。

田家:仕事場に当時の雑誌がないか探していたら、月刊KADOKAWAの1996年5月号が出てきたんです。その中で桜井和寿さんがこのアルバムを僕の愛するアルバムと言っていて、岡村靖幸パート2になりたいって書いてありましたよ(笑)。

福田:そうですか(笑)。

田家:EPICの中で『家庭教師』の評価はどういうものだったんですか?

福田:ずば抜けて高かったと思います。このCDのサンプルをくれっていう方が、スタッフだけじゃなくてアーティストに結構多くて。鈴木雅之さんにもお渡しをして、その後にテレビの仕事でお会いした時に「『家庭教師』すげーな」って大絶賛されていて。きっとまあ、いろいろなアーティストが、このアルバムをすごく評価してくださっていたんだろうなと。

田家:そういう意味では代表曲の1つになりました。「カルアミルク」って飲み物自体、この歌で知った人多いでしょうね(笑)。岡村さんがどんな青春像を歌っていたのかは来週以降のお話になると思うんですけど、あらためて聴き直してみて、とてもジャーナルなシンガーソングライターだったんだなって感じがしたんですよ。この歌詞の中のファミコンとかディスコとか、レンタルビデオとか、当時新しく言われていた小道具みたいなものをたくさん歌われていたりもして。

福田:そうですね。オープニングでかけた「どぉなっちゃってんだよ」にもセクハラっていう言葉が出て、セクハラ上司。セクハラってあの頃は、そんなにポピュラーじゃなかったのかなって思いながら、そういう当時の社会的なキーワードをところどころ盛り込んでくる。それが詞の中で変に浮かない。ビジュアル的にも上手く僕らに伝わってくる。それも岡村くんの才能なのかなって気がしますね。

田家:「どぉなっちゃってんだよ」の中には〈無難なロックじゃ意味がない〉っていうのがあったので、この話を後ほど伺おうと思っています。





田家:『家庭教師』の3曲目「(E)na」。(E)、アルファベットの小文字でna。カッコイーナ。なかなか読める人いなかったんじゃないですか?

福田:当時は誰も読めなかったですね。イ−ナって読んだ人も少なかったような気がしますね。

田家:こういうタイトルにするのは意図的だったんですよね。

福田:タイトルの件に関しては岡村くんと話したことないので分からないですけど、わりと数式っぽいというか、どう読んだらいいんだろう。でも、読み方を教わると、あ、すごいっていうところが岡村くん的な。遊びって言うとちょっと違うのかなあ。なんかそういう投げかけがあったんじゃないでしょうかね。

田家:当時の岡村さんのこととか書いてあるものを読んだら、EPICソニーが媒体や取材の人たちの対して、音楽の話は訊かないでくれというお達しをしたというのがありましたよ。

福田:はい、本当です(笑)。これはEPICの人がというか、彼は歴史的にあまり音楽の話をしたことないんじゃないかと思うんですよね。もちろん自分の作品に関しては一切してないですし、人の作品に関してもほぼしたことなくて。自分の言葉で自分の作品を語るということ自体に抵抗があるというか。それは岡村くん流の自分の作品への愛情の裏返しな気がしていて。変に説明臭くなると、本当に伝えたいことが伝わらない。そこで自分の作品が損なわれることが嫌だったんじゃないかなと思います。最初にプロモーションの話をした時に、音楽の話はしない。これは雑誌もラジオもテレビも全部。それが大条件で。

田家:でも、プロモーターとしては福田さんが媒体を回ったりするわけでしょ。その時に岡村さんとこのアルバムについてこんな話をしましょうみたいな打ち合わせはなかったんですか?

福田:ないです。

田家:じゃあ、例えば媒体の人が福田さんに「今回のこのアルバムはどういうコンセプトでお作りになったんですか?」みたいな話を訊かれた時にどうお答えになったんですか?

福田:僕の言葉として、たぶん答えていたと思います。岡村靖幸の言葉じゃないという前提で答えていたと思いますし、どこかの雑誌でセルフライナーノーツって話が来て、やらなきゃいけなくなったので、岡村くんに「申し訳ない、俺やっちゃうよ」って話をして。それも僕の言葉で『家庭教師』のライナーノーツをつらつらと(笑)。

田家:どんなことをお書きになったか、この後にお訊きしていこうと思います(笑)。「(E)na」は体が動く曲ですね。

福田:そうですね。僕がいいなと思うのは、もちろん曲もそうなんですけど、ライブのパフォーマンスなんですね。

田家:ライブが見えますもんね。

福田:このアルバムを引っさげてパルコ劇場の6日間のライブと、その後の全国ツアー「ライブ家庭教師91」を行って。当時岡村くんの横にケンくんとコウジロウくんという2人の若い男性のダンサーがいて、彼ら2人と岡村くんのダンスのコラボレーションというか、ギターソロがすごくかっこいいんです。だから、この「(E)na」っていうのは音源でもかっこいいんですけど、ライブは何十倍かっこいいですね。





田家:アルバム4曲目、タイトルの「家庭教師」です。この曲についてはいろいろ思い出がおありだろうなと。

福田:この曲はショックの度合いが1番高かったかな(笑)。アルバム通し聴きの時があって、これは「(E)na」の後、わりといい流れ、ポップな流れにこれが来る。詞の中身もそれこそ、成長した主人公が今度は家庭教師の役というか。

田家:23歳の家庭教師。

福田:になって、そこで生徒さんとのストーリーになるんですけど。

田家:親が村会議員で大金持ちの娘、パパから毎月30万送金してもらっている娘(笑)。

福田:リアリティあふれるというか、非常になんていうんですかね…… ある意味動く艶めかしさみたいなものを感じたりして、ショック度強すぎるというか。アルバムの表題曲だし、これがこのアルバム全体の空気を作っているのかなと思うとゾッとするというか(笑)。

田家:しかも、そのアルバムのセルフライナーノーツを書かなければいけない(笑)。

福田:そうです、そうです(笑)。

田家:この曲でどんなことをお書きになったか、覚えてらっしゃいます?

福田:これはどんなこと書いたかなあ…… やっぱりショックなところを言ってたような気がするんですけどね。確実な記憶はないっす。

田家:いろいろ探してたら、岡村さんはファンレターを全部お読みになる人で、ファンとのやり取りの中で自分のことを家庭教師のように思う、みたいな発言はありましたね。

福田:そうですか。へー!

田家:そこからこういう話、歌の内容に想像力が膨らんでいったのかもしれませんね。

福田:岡村靖幸流の家庭教師がすごすぎるというか、ちょっと超越度がすごい(笑)。

田家:所謂セックスと言うんですか。EPICソニーってわりと青春感の強いレコード会社でしたから、こういうエロティックなものってあまりなかったんじゃないですか。

福田:そうですね。バービーボーイズがわりと大人の男と女のヒストリーみたいなので、エロティックな歌詞のシングルがあったりしてたんですけど。よりイメージが膨らむ形でエロティックなものはたぶんなかったんじゃないかと思いますね。

田家:これはどういうイメージお作りになったみたいな話はされたことはあるんですか?

福田:ないです。

田家:話をしても、答えてくれそうもないですね。

福田:基本的に作ったものに関して、僕は訊いたことないですね(笑)。「これはどうして作ったの?」とか、「これってどういうところでこういう歌詞がおりてきたの?」みたいな。まさに彼が音楽の話をしないというところで、僕もあえてそういうものを訊かない方がいいのかなと思って、触れることがなかったですね。

田家:最初の頃のインタビューはプリンスと松田聖子とビートルズみたいな話をされていた時期もあるんでしょ?

福田:ありますね。ちょうどセルフプロデュースをしたあたりから、そうなったんじゃないかって気はしますけどね。『靖幸』ぐらいからじゃないかって想像はします。

田家:なるほどね。それは来週以降のお楽しみということで、このアルバムのタイトル曲はこういう曲です。アルバム『家庭教師』の4曲目「家庭教師」でした。





田家:艶めかしくどこか妖しげな「家庭教師」から、青春そのもののような5曲目「あの娘ぼくがロングシュートを決めたらどんな顔するだろう」。

福田:今考えるとというか、アナログにしてみるとこれがB面の1曲目になるんですね。だから、全くアナログのことを想定して作ってなかったにしてはすごくアナログチックな曲順になってるなと、今になって思ったりしますね。

田家:そういう意味ではこれが初めてB面の1曲目として今回発売されるわけですもんね。

福田:そうです。外周と内周の並びみたいなものをよく考えていたような気がするんですけど、LP時代って。上手くその流れになっているのかなって、5曲目っていうのは。

田家:「どぉなっちゃってんだよ」、「カルアミルク」、「(E)na」、「家庭教師」。この4曲それぞれタイプの違う曲でA面が終わって、B面はまた青春に戻るみたいな。

福田:そうです。最後バラードの「ペンション」終わるみたいな構成だとすると、すごくアナログ盤っぽいですよね。

田家:しかも今回のアナログ盤のアートワークはすごいですね。

福田:びっくりしていただけると、これ幸いです(笑)。

田家:CDもオリエンタルでサイケデリックなアートではあるのですが、真ん中に少年の顔があるのですが今回は少年の顔がない。

福田:その代わり、穴の向こう側、レーベルのところにミラーシールが貼ってあって、手にするとご自分の顔がジャケットの中に入る、ご自分がジャケットの一部になるという、ある種未来型というか、それこそ21世紀型のジャケットという趣向なんですね。これはクリエイティブプロデューサー、今岡村くんのプロデューサーをやられている近藤さんのアイディアで。


アナログ盤『家庭教師』ジャケット写真

田家:オリジナルのCDの少年は岡村少年なのかもしれませんが、今回のアナログ盤の少年は“元少年“の君ですよ、あなたですよという(笑)。

福田:そうです(笑)。

田家:そういうアルバムになったんですね(笑)。で、この「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」、当時お聴きになった時はどう思われましたか?

福田:これは聴いた瞬間から、31年経った今でも、大げさに言うと、僕の人生、僕の歴史の中でこの曲はナンバーワン。すごい出来がいいと思います。

田家:ナンバーワンの理由はどんなものでしょう。

福田:まずアコギとハンドクラップから始まって、音の展開がどんどん重なっていくストーリーになっていて。そこに上手く繋がる歌詞があるんですけど、そのハマり方がやっぱり絶妙で。音とメロディと詞が一体化しているポップソングというのは、僕の中ではこれがやっぱり1番。他の曲もいっぱいあるんですけど、1番ですね。詞と音とアレンジと、ストーリーみたいなものがちゃんとあるような気がして、そこの深さみたいな、単純なポップソングじゃないっていうところに感動して。何万曲あるポップソングの中で、今でも僕はこの曲が1番好きです。

田家:たしかに理詰めな感じはしますね。ちゃんと設計図があるような感じが。

福田:ちなみに長いタイトルがありますよね。これ、つい最近僕知ったんですけど、どうやら当時のプロデューサーの小坂洋二さん発案だった。

田家:槇原敬之さんのデビューアルバムとこれが、長いタイトルの最初でしょうからね。

福田:そうですね。





田家:B面の2曲目「祈りの季節」です。爽やかな青春の後に混沌とした祈りのような曲が入っておりますが。

福田:社会派ソングというか、ある意味。そんな印象があるかと。今回、『家庭教師』に関して僕なりにいろいろ調べていったところ、この曲って唯一仮タイトルが残っていた曲なんです。トラックダウンマスターというか、トラックダウンが終わった段階のテープにはまだ「眠れぬ夜」。歌詞にそういうフレーズもたしかあったと思うんですけど、というのが残っていて。祈りの季節という言葉は全く入ってなくて、ギリギリまで仮タイトルだったのか、それでいくつもりだったのかという証拠、文字が残っていて。「ああ、そうなんだあ」という新しい発見をつい数ヶ月前にしたところです。

田家:〈眠れない夜はきっと神様が君にメッセージしている〉“という歌詞もありますもんね。〈性生活は満足そうだが 日本は子沢山の家族の 減少による高齢化社会なの?〉とか、歌の歌詞という感じじゃないですよね。

福田:はい。捉え方によっては未来への警鐘というふうにとれるじゃないですか。そういうことを岡村靖幸というアーティストがこの時点で想像していたのかと思うと、なんかやっぱり僕らとステージ違うなと思ったりしますね。

田家:さっきの「家庭教師」の中に月に30万送ってもらっている娘、パパかわいそうって歌っていますもんね。つまり、娘に対してではなくて、親父さんのことをかわいそうと思っている。そういう当時の青春に対して、ある種のアイロニックと言いますか。シニカルな一面ではありますね。

福田:90年と言うと、まだバブルの時代なのでキラキラ派手みたいな時代と、裏返す意味で何かが起こるというか、もしかしたら未来はキラキラが続かなくて、何かマイナスのことが起こるかもしれないみたいなところを彼なりに感じていたとすると、やっぱりアーティスト・岡村靖幸というのを外して、人間・岡村靖幸としてすごい感性の持ち主なんだなと思いますね。

田家:さっきの「あの娘僕がロングシュート決めたらどんな顔するだろう」の中にも〈革命チックなダンキンシュート〉っていうのがあって、「革命」という言葉が多いですよね。これは来週からの話になるのですが、最初の頃の青春はそんなふうに世の中に対して、これでいいのだろうか? みたいな感じではない始まり方だったでしょ。

福田:ないですね。まさに素直な青春というキーワードを切り取ったような歌が多かったと思うんですけど。そこにつけられるというか、さらに重なるというか、それとはちょっと裏腹になる部分の青春が見え隠れする歌がありますよね。

田家:彼はそうやって世の中を見ていたんだなと思いながら、このB面の2曲目をお聴きいただけたらと思うのですが、「祈りの季節」。



田家:特にアルバムのB面なんですけども、この曲は岡村さんの憂国のソウルブルースなんじゃないかと思ったんですよ。

福田:いやーその通りですね。

田家:アルバムの最後の「ペンション」という曲も、どこか悲しいですもんね。

福田:成長した青春の主人公の最後の曲なんですよね。それなりの主人公の成長の証しを切り取ったような、ハッピーではないかもしれないけどという予感。そこを終末というか、最終曲としつつ、これは勝手な想像ですけど、この続編というか。次のアルバムは、実際には『禁じられた生きがい』にはなるんですけど。

田家:空きましたもんね、5年間。

福田:もしかすると続編というか、そういう構想が彼の中でちょっとあったのかなって、今お話を聞いていて思ったりしましたね。

田家:アナログ盤だとA面とB面のトーンが随分違うなというのがよく分かりますもんね。

福田:そうです、そうです。

田家:あらためて2021年『家庭教師』でどんなふうにこのアルバムを聴かれたらいいとか、ここに何を学んでほしいとか、岡村靖幸さんというアーティストをどういうふうに見てほしいというのはありますか。

福田:僕個人はそういう思いはないです。ストレートにこのアルバムを手にしてもらって、ジャケットをちょっと楽しんでもらって。で、アナログなので、アナログプレイヤーで聴いていただいて、音の雰囲気を楽しんでいただいて、中にちょっとお楽しみなものが入っているのでそれを普通に見てもらって。今の感性でその方々がどう捉えるかだけのことだと思うので、僕から聴いてください、こうですよっていうのを主張するのは、聴かれる方に対してちょっと失礼だと思うので。そういうのはないですね。

田家:でも、当時のCDとは違う聴かれ方をされるだろうなというのは想像つきますもんね。

福田:おそらくそうだと思います。

田家:来週以降、あらためて1枚目から辿ってみようと思っているのですが、岡村靖幸さんは福田さんの中ではどんなアーティストですか?

福田:僕の中ではすごく距離の近いアーティストなんですけど、本質的には1番距離の遠い人だと思いますね。スポークスマンとしてちゃんとできているかと言えば、絶対そうじゃないとも思うので。ただ、音楽的なことも一リスナーとして捉えると、僕にとってはすごく近いというか、身近なすごくポップソングを作ってくれるアーティストとして身近ですし、いろいろな話もさせてもらったので距離は近いんですけど。本質的なところでいくと、やっぱりすごく遠いというか。

田家:来週以降、初期のプロモーター・西岡明芳さんとお2人で登場していただこうと思います。来週もよろしくお願いします。

福田:はい、よろしくお願いいたします! ありがとうございます!


左から、田家秀樹、福田良昭





田家:「J-POP LEGEND FORUM 再評価シリーズ第1弾」。11月16日に初めてのアナログ盤『家庭教師』が発売になる岡村靖幸さんのEPIC時代を辿る1ヶ月です。今週はパート1、4枚目のアルバム家庭教師について、当時のプロモーター、現在はソニー・ミュージックダイレクトの制作部の部長さん、福田良昭さんをゲストにお送りしました。流れているのは竹内まりやさんの「静かな伝説」です。

1990年はもうアナログ盤というのはなくなっていたんですよね。全面的にCDになってしまった。それが31年経って、初めてアナログ盤になった『家庭教師』であります。「再評価シリーズ」というシリーズをこれから始めていこうということで、第1弾にもしたのですが、恥ずかしながら実は、私は当時『家庭教師』をちゃんと聴いてなかったんですね。雑誌には担当制がありました。レコード会社もライターもいろいろ振り分けられていた。シフトができあがってまして、たとえばEPIC担当とかアーティストの担当とか、それぞれ編集者がいて、その人がライターはこの人で、カメラマンはこの人でみたいにチームで動いていて、僕のところに回ってこなかった。洋楽マニアでもなかったし、“岡村ちゃん“というふうにみんなが言っている空気がどこか気恥ずかしい年齢に差し掛かっていたというのもあって、担当じゃないんですけどやらせてください、インタビューしたいですという積極的な関わり方もしてこなかったんですね。

むしろ、ちゃんと聴くようになったのは2000年代の復活以降でしょう。去年、この番組で特集をした近藤雅信さんという、今彼の事務所を作っているプロデューサーの特集をした時にあらためて聴いて、こんなに桁違いの才能だったんだと、これは衝撃に近かったです。いつかあらためて特集したいとなっていた中で、初アナログ盤が出るということで、今だと、こういう特集になりました。これは言い訳に近いですが(笑)。自分の中でも再評価になればと思っている1ヶ月なので、かなり楽しみにしております。来週はあらためてデビューアルバムを聴き直してみようという1時間です。


<INFORMATION>

田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
https://takehideki.exblog.jp

「J-POP LEGEND FORUM」
月 21:00-22:00
音楽評論家・田家秀樹が日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出す1時間。
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