元ヘンリーヘンリーズの村瀬みなとのソロプロジェクト・ハイエナカーが、1stフルアルバム『まだ僕じゃないぼくの為の青』をリリースする。

独特のハスキーな歌声で聴かせる楽曲は、どこかに置き去りにしてきた青春のモヤモヤをかなぐり捨てようとしているようで、何回か聴いているうちに耳にこびりついて、気が付いたらいつの間にか口ずさんでいた。また、歌録り、ギターのダビングからミキシングも自宅のスタジオで自ら行っているというだけあって、細部にまだこだわった音作りも楽しめるアルバムだ。まずは、気になるアーティスト名のことから訊いてみた。

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―ハイエナカーは、村瀬みなとさんのソロ・プロジェクトということですが、どんな由来でつけたアーティスト名なんですか。

もともと、ヘンリーヘンリーズというバンドをやっていて、2017年に解散したことをきっかけに1人でやることになったんですけど、名前を付けるときに「ズ」が最後につく名前じゃないものにしようと思っていたんです。それで考えたときに、子どもの頃に好きだったハイエナのキャラクターを思い出したんです。幼稚園の頃に、いろんな動物になって演技するお遊戯会があって、僕は「ハイエナ役をやりたい」と言って先生を困らせたことがあって(笑)。なんとなくそれを思い出して、ハイエナって付けました。「カー」については、あんまり覚えていないです。

―自分の中に、ハイエナのように荒ぶるものがある?

いや、全然そういうわけでもないです(笑)。文字的に覚えてもらえそうだし、「ズ」じゃなければなんでも良かったんです。

―ハイエナカーを始めた頃に神田で毎月行われていたイベント〈THE WORDS TOWN WEDNESDAY〉で弾き語りライブを観たことがあるんですけど、最初は1人でやるつもりだったんですか。

ずっとバンドをやっていたので、バンドを組みたくて。めぼしい人もいたんですけど、だいたいそういう人は自分のバンドがあるから、「サポートだったらいいけどね」という感じで。ただ、バンドとしてやろうという人と、サポートとしてお願いする人って、自分の中で全然違うんですよ。結局そのときに一緒にやろうと思っていた人とはやっていないんですけど、ちょうどその頃に知り合いの高橋Rock me baby(忌野清志郎の宣伝担当を務めた人物。現在はフォーライフミュージックエンタテイメントでアーティストを手掛けている)さんが、シンガー・ソングライターの山﨑彩音ちゃんとかが出るライブに誘ってくれて。活動が止まっている感じにしたくなかったので、とりあえずは1人で歌ったりしていたんです。そこから、バンドでやるときに最初に手伝ってくれたのがドラマーのロクロー君(NITRODAY、エルモア・スコッティーズ、betcover!!などで活動する岩方ロクロー)なんですけど、彼は僕がたまに下北沢で路上ライブをやっていたときに声を掛けてくれて、興味を持ってくれたんです。

―路上ライブで声をかけられるって、かなり歌声とか曲が気に入ったんでしょうね。

いや〜、そうなんですかね(笑)。彼はRCサクセションとかが好きで、僕もバンドをやっていたときは、歌詞的にも忌野清志郎に影響を受けたりしてやっていたから、そういうのが好きな若い子にダイレクトに伝わっていたんじゃないかと思います。

―『まだ僕じゃないぼくの為の青』収録曲とはまた違った歌詞の世界があった?

もうちょっと、シンプルな感じですね。やっぱり、そういう感じがカッコイイなと思っていたので。



―音楽のルーツとしては、日本のロックからの影響が大きいのでしょうか。

そうですね。洋楽はローリング・ストーンズ以外はあんまり知らないです。ちょっとずつ好きなアーティストはいるんですけど、それも好きな邦楽アーティストの影響だったりします。やっぱり、洋楽だと歌詞がわからないし(笑)。そういう意味であまり聴けなかったというか。

―逆に、ストーンズはどうしてハマったんですか。

タイミングが良かったんだと思います。中2ぐらいのときに、エレファントカシマシとかを好きになって、そこから知ったRCを観てから、今度はストーンズを観たときに、キース・リチャーズが中腰で構えてギターを弾いていて。たまたまかもしれないけど、エレカシのギターの人(石森敏行)が同じ弾き方をやっていて。それでよくよく考えたら、RCのギターのチャボさん(仲井戸麗市)も中腰で弾いてるって気が付いて。何か特別な感じがして、そこからハマっていった感じですね。

―そういう系譜があることに気が付いたというか。

そうです。その時期って、今よりもいろいろ聴いて吸収できたというか、ストーンズなんて同世代の人たちは全然知らなかったし、「まわりが知らないものを知っていたい」みたいな気持ちもあったと思います。



―今回のアルバムは、サポートミュージシャンと一緒に作っているんですか。

サポートミュージシャンに参加してもらって、僕がディレクションしながら作っているので、やり方としてはバンドに近いです。ただ、今回のアルバムには、これまで配信リリースしてきた音源も入っているので、ちょっと前までサポートしてくれていたメンバーの演奏とか、曲によって参加メンバーは違うんですよ。

―今はサブスクで曲単位で聴かれることが多いですけど、フルアルバムとしてどんなことを考えて制作しましたか。

これまで配信してきた曲を何曲かと、新曲を合わせて作ろうというのはもともと考えていました。アルバムに向かって曲を作っていったというよりは、ある曲を集めたときに、結果的に自分がこういうことを言いたかったんだ、ということを要約してアルバムタイトルにもした感じです。

―「グラデーションブルー」「水色の船」等、アルバムタイトルにも繋がってくる曲名もありますね。

そんなに意識してたわけじゃないんですけど、「青が多いな」って(笑)。じゃあ、それはテーマにしようということで。1人になっていろんなミュージシャンとやるようになって、タイミングもあって人と離れたりとか、新しい人とやったりとか、自分の中でのある意味人生というか、今をひとくくりとしたときに、自分が幼いときから始めたものからそうじゃない自分になるまでの青の連続みたいな意味でつけたタイトルです。だから、もし次にアルバムを作るのなら、できるだけ青から遠ざけたいなっていう意味もあって。なんか、「もうこれで!」っていう(笑)。

―この作品で、青い自分に区切りをつけたい?

そうですね、そんなことを考えていました。

―「東京」「メトロポリタン東京で」という曲もあります。「東京」って、東京以外のところから来たアーティストがテーマとすることが多い気がするんですが、村瀬さんは東京のご出身ですよね。

お世話になっていたライブハウスの店長がいるんですけど、その方も東京の下町育ちで。その方が、「地方から来るバンドはハングリー精神があるけど東京のやつにはそれがないってよく言うけど、東京生まれ東京育ちのやつは帰るところがないんだ」っていう話をしていて。地方から来た人が仮に全国流通でアルバムを発売して、その後音楽を辞めて地元に帰ってきても、「全国流通でアルバムを出した」ということがある意味ヒーロー的な扱われ方になるけど、東京にずっと住んでいると、定期的に観ている人もいるし、全国流通するって言ってもただそれだけのことなんですよね。だから、「東京生まれ東京育ちは逃げ場がない」という話に僕も「たしかにそうだな」って共感したんです。じゃあ、僕は東京出身だけど、地方からきた側の人の立ち位置になったつもりで書いてみようと思ったのが「東京」です。この曲は、前のバンドの最後のアルバムにも入っているんですけど、音的には全然違うものになりました。



―“脳みそはなんと言ってる〜“と歌う弾き語り的なミディアム曲「Mirror」がすごく好きなんですけど、これはどんなときにできた曲ですか。

じつは、この曲だけ唯一僕が書いた曲じゃないんです(笑)。

―えっ? そうなんですか?

そうなんですよ(笑)。でもすごく良い曲で。同い年でシンガー・ソングライターをやっている小池神一君が、最近、コロナ禍で音楽をあきらめて地元に帰っちゃったんです。もともと、この曲については僕がアレンジとかレコーディングを手伝っていて、リズム録りまで進めていて、僕がガイドボーカルもしていたので、歌わせてもらったんです。

―クレジットの資料がないのと、アルバムの中に馴染んでいるので違う人の作詞作曲とは気づきませんでした(笑)。

アレンジは僕がやっているのと、わりと歌のタイプが似ているということもあると思います。結果的にアルバムを出すまでに時間がかかったことで、この曲を入れることになったんですけど、高校生ぐらいの頃からバンドをやっていて、その頃には同世代の人との別れってそんなにないじゃないですか? ハイエナカーという新しい名前になって、初めてアルバムを出すという中で、こういう曲が入っているのってすごいことだなって思います。



―「ゼロ」は、“僕らゼロを繰り返して1になる夢を見ているのさ“ “変わらないために変わっていくんだ“ “変身ベルトもないままに僕だけのヒーローショーは続くんだ“といった内容が、今の村瀬さんのアーティストとしての心境が伺える気がします。

「ゼロ」は、コードとかアレンジとか、そういうところも含めて、何かに寄せずに自分がやりたいことを詰め合わせた感じがしています。それもあって、本当に自分が思っていることを歌詞にまとめています。だから自分ではすごく好きなんですけど、“硬派すぎるな“って。

―“硬派すぎる“とは?

バンドを始めたてだったら、こういう曲は作れないだろうなっていうのがあります。やっぱり、いろんなことを見たり経験したりしないと、書こうとか歌おうとか思わないテーマだと思うんです。自分がそう思っているだけかもしれないですけど。

―自分がこうありたい、こうなりたいという理想があって、それに対して歌っているのかなと思いました。

「今これをやっていることが何になるんだ、と思ったとしてもそれは無駄じゃない」みたいなことがあんまり好きじゃなくて。「無駄は無駄だろ」って(笑)。でも、無駄なことを繰り返して、意味のあることを探したいんですよね。そういうことを思って書きました。

―そこにも繋がってくるような気がしますが、「夏になる」には“頷けない毎日を鳴らして“という歌詞がありますよね。レーベル名も「unazukenai RECORDS」ですし、“うなづけない“というのは村瀬さんが歌う上でのテーマなんですか?

「unazukenai RECORDS」は、配信するときにレーベル名が必要だったので、自分が書いた曲の中からキャッチーな言葉をレーベル名にしたんです(笑)。ヘンリーヘンリーズを始めたときは、中学校からの友だちと学園祭に出るために練習していて、そのままライブハウスからお話が来てライブをやってっていう、言わば何も考えずにいたというか(笑)。この前、フィッシュマンズの映画(『映画:フィッシュマンズ』)を観たときに思ったんですけど、もともと才能はあるんでしょうけど、最初の頃はじつはやりたいことがそんなにハッキリしていないというか。やっていくうちに「自分たちはこういうものなんだ」みたいになっていくことがすごく印象に残ったんです。僕もそれに近いんですよね。活動を始めてから、いろいろやっていく中で、“自分みたいな人が自分を好きになってくれる“傾向があったので、そのときに初めて「歌詞って届いているんだな」って思ったんです(笑)。じゃあ、そういう人はどういう人かというと、ちょっとひねくれていて、別に否定したい何かがあるわけじゃないけど、いろんな人とのコミュニケーションの中で、「こうだよね!?」って言われたときに「いや、違う」みたいな人が多いんじゃないかと思うんですよ。

―ちょっと、ひねくれた人たちが。

そうですね、自分もそうですし。ただ、それを大々的に言うのも、そういうタイプの人は違うと思うんですけど。振り切らないグレーなところにいる、一番わかりずらい人種なんですよね。

―あんまり白黒つかない感じ?

ある意味、白黒つかないものをハッキリ言ってる曲なんですけど、それは許してくださいっていう(笑)。



―今回、アルバムを1枚完成させてみて、どのように感じていますか。

活動歴も長いし、たくさん音楽も聴くので、自分が聴いて「いいな」って思う音楽ってどんどん少なくなってくるんです。だけど、今作は一生懸命作ったというのもあるからか、自分で聴く分にはすごく、「自分が作ってない」みたいな感じで聴けるというか(笑)。結構、前のバンドで出していた作品は、自分でレコーディングやミックスをしていない分、限られた時間で歌わないといけなくて。自分が「こう歌いたい」というものと、実際にできることってすごく差があったりするので、1回歌っただけではすぐに到達できないんですよね。時間の制約の中でそれをやるのが、もの苦しくて。今回は、そういう制約があまりない状態で作れたというのも大きいです。まあ、単純に自分が上手くなっていたり、サポートミュージシャンの技術が高いというのもあるんですけど、そういう“もの苦しさ“が少なかったです。

―歌録りや演奏に、納得いくまで時間をかけられるだけかけることができた?

そうですね。普通の人に比べたら、だいぶかけてるんだろうなっていうのはありますね。

―今後、ハイエナカーの野望みたいなものはありますか。

今は、前のバンドをやっていたときよりも、逆にいろんな人が手伝ってくれる感覚があって。1人で始めて家でコツコツ作ってきたものが、リリースさせてもらって、ライブが決まって自分のために会場を押さえてもらってるんだって思うと、たくさんの人に手伝ってもらったんだなっていう感じがするので、それはすごく嬉しくて。これからも自分の活動においていろんな人を巻き込んでいければいいなと思っています。


<リリース情報>

ハイエナカー
アルバム先行配信『Mirror』

配信ストアリンク:
https://linkcloud.mu/a0119d15



ハイエナカー
1st フルアルバム『まだ僕じゃないぼくの為の青』

発売日:2021年12月16日(水)
品番:UNZ_002
価格:2600円(税込)
=収録曲=
1. 夏になる
2. 東京
3. グラデーションブルー
4. Mirror
5. ゼロ
6. 水色の船
7. ロケット
8. メトロポリタン東京で
9. Darling
10. ブルーベリーアイスクリーム

<ライブ情報>

ハイエナカー 1st Full Album Release Tour「No plan the Long run Tour 2022」

2022年2月3日 (木)池下CLUB UP SET
2022年2月4日 (金)心斎橋 Pangea
2022年2月16日(水)下北沢MOSAiC
料金:前売 2600円 / 当日 3100円(+1Drink 600円)
時間:OPEN 18:30 / START 19:00
出演:
ハイエナカー
Os Ossos
paionia ハイエナカー Official WebSite:http://hyenacar.com/
ハイエナカー Twitter:https://twitter.com/sougousikai