2016年、リオデジャネイロオリンピックの閉会式における「君が代」の編曲、映画『ピナ/踊り続けるいのち』『人間失格 太宰治と3人の女たち』『9人の翻訳家』、舞台『No.9 -不滅の旋律-』『サンソン -ルイ16世の首を刎ねた男-』、TVCM、イベントなど幅広いフィールドで活躍している音楽家・三宅純が、前作『Lost Memory Theatre act-3』(2017年)からおよそ4年ぶりの最新アルバム『ウィスパード・ガーデン/ Whispered Garden』を12月15日にリリースした。

12月14日、今作発表の「前夜祭」となる『Listening & Talk Session』が、東京・代官山にあるライブハウス『晴れたら空に豆まいて』にて開催された。

進行役は、本作のアルバムジャケットに自身の最新作を提供するなど、三宅本人とも交友の深い画家・寺門孝之。三宅純のこれまでの作品のアートワーク以外にも、『原宿文楽』(ラフォーレミュージアム)やミュージカル『キャバレー』(演出/松尾スズキ)のポスター画、さらには作詞家・松本隆氏とのコラボレーション展『風街ヘブン』を神戸市立相楽園内の重要文化財「旧小寺家厩舎」にて開催するなど、多岐にわたる活動を行ってきた人物である。

内界と外界の出会う境界、音と音との狭間を表現したいと思い立ち、
このアルバムの制作を始めた。音楽で時間を操ってみたいという宿願もあった。
やがてパンデミックが起き、僕はパリの全てを放置したまま東京に避難する。 
時間が止まっているかのように見える一方で、
ウイルスは凄まじいスピードで拡散していた。
世界情勢は刻々と変化していくのに、
窓からは以前と変わらない穏やかな光景が広がり、
自分は淡々と創作に没頭している。
そんな落差に精神が翻弄され、身の置き所も感情も思考も分断されたままだった。



まずは冒頭、『ウィスパード・ガーデン/ Whispered Garden』に寄せた三宅のライナーノーツを、寺門が読み上げることから本イベントはスタートした。様々な登場人物の記憶を劇場に招かれた観客の立場で追体験する、いわば“客観的な視点“の作品だった『Lost Memory Theatre』に比較すると、本作は時空の狭間にある幻の庭園に迷い込んでしまったかのような"主観的な視点"で描かれた作品だと言う印象を受ける。過去作『Stolen from strangers』『Lost Memory Theatre act-1』『Lost Memory Theatre act-2』は、フランスやドイツの音楽誌で「音楽批評家大賞」「年間ベストアルバム賞」などを連続受賞。ジャイルス・ピーターソンが英BBCで特番を組むなど、世界中で高い評価を得た三宅は、今回コンセプトを先行させるのではなく、感じるまま楽曲を作り続けるうちに、新型コロナウイルスによるパンデミックが世界中を席巻する時代に直面したという。


結果的に『ウィスパード・ガーデン/ Whispered Garden』は、2020年初頭を境に「パンデミック前」の作品が7曲、「パンデミック後」の作品が9曲並ぶ、合計16曲が収録された大作となった。

「ほぼ全曲出揃い、それらを繋ぐアルバム・タイトルをどうしたら良いか悩んでいた時にたまたま思い出したのが、アン・フィリッパ・ピアスによる『Tom‘s midnight garden(邦題:トムは真夜中の庭で)』と、フランシス・ホジソン・バーネットによる『The secret garden』(邦題:秘密の花園)』の存在でした」

コロナ以降、時間の進み方が大きく変わり、「人々が社会と関わる方法にも大きな変化が訪れた」と感じていた三宅は、幼い頃に読んだこの2つの小説を思い出し、そこに「時間の流れる速さや順番が、訪れるたびに異なる庭園」というアルバムと共鳴する世界観を見出す。



「その時、「ガーデン」という言葉を囁かれたような気がしたので、アルバムタイトルは『ウィスパード・ガーデン/ Whispered Garden』。このタイトルがついたことで、全てが繋がった気がしました」

本作のレコーディングには、リサ・パピノーやアルチュール・アッシュ、コスミック・ヴォイセズ・フロム・ブルガリアといった、三宅の作品には欠かせないゆかりのミュージシャンはもちろん、エルヴィン・ジョーンズやマイルス・デイヴィスらと共演し今なお第一線で活躍するジャズ・シーンのレジェンド、デイヴ・リーブマンも参加。コロナ禍で身動きが取れなくなった一方、多くのミュージシャンが自宅でのレコーディング環境を整えたことにより、パリをはじめ東京やニューヨーク、リオデジャネイロ、バルセロナ、ロサンゼルス、トロント、ソフィア(ブルガリア)など世界各地とリモートで繋ぎ、コラボレーションすることが可能になったという。

この日のイベントでは、本邦初となるアルバム全曲の試聴はもちろん、デイヴ・リーブマンとの打ち合わせの様子や、「極度のあがり症」だというリサ・パピノーが、この日のために特別に録画したというメッセージ動画、さらには昨年4月7日に新型コロナウイルス感染による合併症で急逝した音楽プロデューサー、ハル・ウィルナーの取材シーンなど、超貴重な映像が次々と披露された。また会場には、本作収録曲「Paradica」にボーカルで参加した勝沼恭子も「観客」として来場しており、ステージ上の三宅と共にレコーディング時のエピソードを和気藹々と話し合うなど、イベントは終始リラックスした雰囲気に包まれていた。


イベント後半では、『ウィスパード・ガーデン/ Whispered Garden』に使用された絵画がどのようにして選ばれたのか、その経緯について三宅と寺門がエピソードトークを展開。「幻の庭園」を表すような写真や絵画を探していた三宅は、ちょうどその時に寺門から届いた彼の個展のダイレクトメールに「予感めいたものを感じて」個展会場を訪れ、そこに飾られていた1枚の絵画に大いにインスピレーションを受ける。寺門が描く、植物に囲まれた少女(妖精?)の絵はまさに『ウィスパード・ガーデン/ Whispered Garden』を象徴しているかのようだったのだ。



「その日は写真だけ撮って持ち帰った」という三宅。そこから色味の調整、レタッチなどアルバムのイメージに合わせて寺門とやり取りを繰り返したという。イベントでは、その時の画像データなどもスライドで披露。アルバムがパッケージされていく様子をつぶさに知ることができた。

他にも、「Le Rêve de L‘eau」は当初デヴィッド・シルヴィアンをイメージして書かれた楽曲で、新天地を求めて放浪中だったシルヴィアンと真摯な往復書簡を繰り返したがリリースに間に合わず、朋友のアルチュール・アッシュに依頼したところ納得のいく仕上がりになった経緯や、「Witness」はクルト・ヴァイルとニノ・ロータを愛したハル・ウィルナーへの追悼を形にした楽曲であることなど、まさにここでしか聞けないような制作裏話が次々と飛び出し、会場内は静かな興奮に包まれていた。

また、イベントの最中には質疑応答が行われ、来年2月末に出版予定だという三宅純をめぐる書籍『MOMENTS / Jun Miyake 三宅純と48人の証言者たち』を発行人が紹介。本書は、三宅本人のロングインタビューとともに、世界各国の著名人が寄せた“三宅愛“を収めた240ページを超える本になるのだという。

こだわり抜いた音響システムを用い、本邦初となる最新作『ウィスパード・ガーデン/ Whispered Garden』の全曲を聴きながら、およそ3時間にわたって作品世界を紐解いていくイベント『Listening & Talk Session』は、作品世界をより多角的に理解する最高の体験となった。




『ウィスパード・ガーデン/ Whispered Garden』
P-VINE 
CD 3,300円(税込) 発売中
LP(2枚組) 6,600円(税込) 2022年5月11日発売

https://www.junmiyake.com/


『MOMENTS / JUN MIYAKE』
三宅純と48人の証言者たち
ロング・インタビューと証言で綴るひとりの音楽家の軌跡
発売日:2022年2月末
ページ数:248ページ
発行:株式会社コラクソー
販売:株式会社トランスビュー
本体:4,400円(税込)