プロボクシングのOPBF東洋太平洋スーパーバンタム級タイトルマッチ(後楽園ホール)の前日計量が11日、東京ドーム近くの「ブルーイング」で行われ、王者の中嶋一輝(31、大橋)は、1回目の計量でリミット55.34キロを10グラムオーバーしたが、パンツを脱いでクリア、一方の挑戦者で元WBC世界バンタム級王者、辰吉丈一郎(54)の次男である同級6位の辰吉寿以輝(28、大阪帝拳)は300グラムアンダーでパスした。辰吉が父から受け取ったメッセージは「気合」。初のタイトル戦を前に「最後に倒したもん勝ち」とKO決着を約束した。
父丈一郎からのアドバイスは「気合や」
王者の中嶋は目がくぼみ頬をこけていた。計量会場にきた時点で200グラムオーバー。あわてて周辺を走り、体重を調整して計量器に乗ったがリミットに10グラムオーバーで最後はパンツを脱いでなんとかクリアした。
それでも中嶋は弱みを一切見せない。
「走った?散歩していただけですよ。(体重を)ピタリと狙っただけ。仕上がりは完璧です」
19戦16勝(13KO)2敗1分の戦績を持つ中嶋は、4年前に「GOD’S LEFTバンタム級トーナメント」で現WBA世界バンタム級王者の堤聖也(角海老宝石)と引き分け、勝者扱いで優勝、その後、OPBF東洋太平洋バンタム級王座、WBOアジアパシフィックスーパーバンタム級王座も手にしている強打のサウスポー。倒されたがジムの先輩であるスーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥が9月に対戦した元IBF世界同級王者のTJ・ドヘニー(アイルランド)とも拳を交えるなど、そのキャリアはタイトル初挑戦となる辰吉に比べると数段上。前戦では世界挑戦経験のある和氣慎吾(FLARE山上)和気真吾を2ラウンドに左ストレートで沈めて引退へ追い込んだ。
「辰吉の印象?そんなに見ていないんで。辰吉という名前があって注目度が高い。ここで勝てば、関西にも名前が売れるでしょう。気合が入ります。うまく戦って倒せるときに倒す」
サウスポーの利点を生かし、試合の主導権を握りながら、チャンスがあれば、左の強打をお見舞いする作戦なのだろう。
一方の辰吉は、300アンダーだった。
思わず計量器を覗いて「え?」と声を出した。
「300も減っているとは思っていなかった。リミットで家を出てきたんだけど移動で結構落ちた」
大阪から新幹線で移動してきた。2時間30分の間に代謝で落ちたのだろう。
中嶋とは対照的に減量は順調だった。
吉井寛会長の説明によると、炭水化物を減らし、肉を中心とした食事メニューに変えたことで、「順調に落ちたし、過去最高の仕上がりができた」という。
辰吉は、保温ポットに入れてきた、妻手製のテールスープをフーフーしながら胃袋に流し込み、それぞれバックに小分けしたイチゴ、パイナップル、シャインマスカットを口にした。
中嶋の10グラムオーバーも「気にならない」。フェイスオフでは、距離を保って30秒以上、顔を合わせたが、減量苦を示す顔つきの変化にも「減量したら顔は変わるんで。僕?元々顔が小さいんで」と、まったく気を抜いていなかった。
試合のポイントを聞かれ「勝負強さじゃないですか?」と即答した。
「KO決着?もちろん。辰吉家の美学ですね。殴り合いなんで。パワフルには、パワフルで対抗でしょう。パンチが当たっても倒れる気はない。先に当てたもん勝ち。最後に倒したもん勝ちなんで」
父の丈一郎にどこか表現が似てきた。
結婚後、実家を出ているが、父が3日前に自宅に来た。
「気合や」
ボクシングの技術論やうんちくが大好きな丈一郎のアドバイスはシンプルな精神論。今さらサウスポー対策を論じる必要はないと考えたのだろう。
父のDNAを受け継ぐ寿以輝は、サウスポーが苦手という点も似ているのだが、親子揃って「別に苦手じゃない」と強く主張する。前戦では中嶋への挑戦を想定したサウスポーのタイ人をシャットアウトの判定で下した。
今回も帝拳への出稽古で日本バンタム級王者の増田陸(帝拳)、大阪では15日に防衛戦を控えるIBF世界バンタム級王者の西田凌佑(六島)という内外トップクラスのサウスポーとスパーリングで拳を交えた。総ラウンド数は80を超え、吉井会長は「西田とのポイントアウト勝負だと、さすがにやられたけれど、打ち合いの展開に持ち込んだときは互角に戦えていた」という。
中嶋が入り際に繰り出してくるアッパーやフックをうまく外して打撃戦に持ち込めるかどうか。距離が詰まっての殴り合いになれば、一発で倒す威力を秘めた辰吉の左フック、右ストレートが火を噴く。
「試合の中で何回その場面を作れるか」と吉井会長も言う。
中嶋は出入りのボクシングをするタイプではない。プレスを受けると手が出なくなるという悪いクセもある。辰吉にすれば、右のリードのパンチを封じ込めることも勝利へのポイントとなるだろう。
「12ラウンドを戦うつもりはないが、戦える体は作ってきた」
辰吉にも自負がある。
ただ辰吉には、父同様ディフェンスに課題がある。不用意に正面に立ちパンチをもらう粗さがあり、サウスポーに対してはその傾向が顕著だ。
辰吉が勝つ可能性は十分にあるが、大方の下馬評通りにひとつのミスで「やられるリスク」も兼ね備えた戦いになるというのが「辰吉ジュニアは勝てるのか?」という表題に対する結論。
父は1990年9月にここ後楽園で、プロ4戦目で日本バンタム級王者の岡部繁(セキ)に挑戦し、4ラウンドに左フックから右ストレートのコンビネーションを決め、計3度のダウンを奪うという衝撃のKO勝利でベルトを腰に巻いた。次男の寿以輝は、プロ18戦目、デビューから9年8か月の歳月を経て、ここにたどり着いた。
「親父は社会人の経験があってB級デビューだったからね。当時はSNSもなく辰吉がどんなボクサーかがよくわからず『関西では凄い人気らしいが、まだ4戦目で評判だけだろう』と挑戦を受けてもらえた。先代(父の故・吉井清会長)が交渉でうまく相手陣営をだましたんだと思う(笑)。寿以輝はアマ経験もないし元々時間はかかると思っていた。そこに怪我などもあったしね。こっちも大事に試合を組んできた。比べるのはかわいそう。ようやくここからですよ。親父のDNAが花開きますよ」
34年前の試合でもセコンドについた吉井会長がそう説明した。
中嶋陣営の“親分”大橋秀行会長も「辰吉夫妻には、30年前のジム開きにも、私の結婚式にも来てもらった。それが今、息子さんとのマッチメイクをさせてもらうことになるとはね。試合が決まって電話でも話した。人生の不思議な縁を感じるし、感慨深いものもある。中嶋にももちろん、辰吉にもチャンスがあると思う。いずれにしろKOで決まるでしょう」という話をした。
前売りチケットは、世界戦でもないのに「チケットぴあ」の販売が大きく動いて、ほぼソールドアウト。当日券は200枚だけ用意してあるが、「瞬間で売り切れるだろうね」と、大橋会長は予想している。
大阪からは約200人の辰吉応援団が駆けつける予定。そして“レジェンド”辰吉丈一郎も、るみ夫人らと共にリングサイドから息子の晴れ舞台を見守る。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)


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