性犯罪を厳罰化する改正刑法が施行された。性犯罪に関する大幅な見直しは明治時代の制定以来、110年ぶりだ。遅過ぎたとはいえ、前進を評価したい。ただし、今回の改正でも課題はまだ多い。 法の主な改正点は、起訴するのに必要だった「親告罪」の規定を削除したことだ。告訴することが心理的な負担となり、性犯罪が潜在化する一因と指摘されてきた。親告罪の規定撤廃は、改正法の施行前に起きた事件にも原則適用する。

 法定刑の下限を引き上げ厳罰化を図った。強姦(ごうかん)罪は懲役3年から5年に、強姦致死傷罪は5年から6年にした。

 被害者に与える傷の大きさから「魂の殺人」とも言われる強姦罪だが、法定刑の下限は強盗罪より低かった。明治の法制定時、女性の貞操への侵害とする家父長的な発想が強かったため、被害者の人権が考慮されていない。

 改正法が被害者の性別を問わないのも、実態からいえば当然だ。

 家庭内での性的虐待を念頭に、親などの「監護者」が立場を利用して13歳未満の者に性的な行為をすれば罰せられる「監護者わいせつ罪」「監護者性交等罪」を新設した。

 一方で課題はまだある。

 監護者は、同居者や経済的に支えている人らを想定し、教員やスポーツのコーチなどは原則対象外だ。対象拡大を求める声もある。

 強姦罪の成立には被害者の抵抗を著しく困難にするほどの「暴行や脅迫」が要件とされ、改正法でも維持された。被害者らは「犯罪に遭遇すると体が凍り付き、声も出なくなる」と撤廃を求めている。それを受け止めるべきだった。

 課題は数多いが、最も重要で改善が必要なことは私たち社会全体の意識だ。

 性犯罪は、被害者にもかかわらず被害に遭ったことが恥とされ、落ち度がなかったかを問われて自責の念を植え付けられる。さらに被害が公になることで受ける好奇の視線や心ない言葉などセカンドレイプも起こる。そのために被害を訴え出られなかった事例も多い。

 現に、昨年4月に起きた米軍属女性暴行殺人事件で起訴された元米海兵隊員のケネス・フランクリン・シンザト(旧姓ガドソン)被告は、日本では強姦は親告罪で通報率も低いと知っており「逮捕されることは全く心配していなかった」と弁護士に供述している。

 被害者に沈黙を強いるこの社会が、加害者を増長させ、犯罪を埋もれさせてきた。

 改正法は付則に、施行から3年後に性犯罪の実態に応じた見直しをするとの規定がある。付帯決議で被害者の二次被害防止に努めることも盛り込まれた。

 政府には被害実態の調査を進め、被害者に寄り添い、犯罪抑止につながるようさらなる改善を求めたい。

 そして私たちにも被害者のプライバシーを守り、支援態勢を構築して、人権を大切にする社会をつくる責務がある。