日本アカデミー賞アニメ作品賞を受賞した映画「この世界の片隅に」は、太平洋戦争時の広島県呉市が舞台。日本一の軍港があった呉で、海に浮かぶ軍艦をスケッチしただけで主人公すずは憲兵からスパイと見なされそうになる▼配給が減り野草が食卓に上る。防空壕の構築作業、着物をもんぺに縫い直すなど、日常の生活にひたひたと戦争の足音が忍び寄る。呉は何度か空襲を受け、焼け野原になった

▼一方、広島市内は大規模な空襲はなかった。広島市が原爆投下地に選ばれた理由の一つに、米軍が原爆の被害を正確に評価するため、比較的空襲被害が少なかったことが挙げられる。さらに「捕虜収容所がなかったことも大きい」と森重昭さん(80)は指摘する

▼森さんは自身の被爆体験から被爆した米兵捕虜に関心を持ち、サラリーマンの傍ら約40年、独自に調査を続けた。秘密に包まれた被爆米兵捕虜12人の身元を特定した

▼その功績が評価され今年4月、報道関係者以外では初めて日本記者クラブ賞特別賞に選ばれた。「ひっそりと死んでいった捕虜たちの無念さを後世に伝えたいと思った」と森さんは語る

▼72年前の今日、広島に原爆が投下された。推計約14万人が亡くなった。唯一の被爆国でありながら、日本政府は核兵器禁止条約の採択に向けた交渉に参加しなかった。被爆者の無念は今も続いている。