米カリフォルニア州のチノヒルズ市に住む私の家の近くにとてもきれいな人工池がある。家から車で10分のところで、週に3回ほど訪れる。

 水中には色とりどりのコイ、甲羅干しをするために一本の丸太に何十匹もの子亀が群がり、水上と陸を行き来する水鳥たちでにぎわい、滝も流れている市経営の公園の一部である。

 アメリカ独立祭の翌日の7月5日、私は妻と一緒に散歩に訪れた。普段はめったに見られない風景だが、一人の若い白人男性がギターを弾きながら、唄を歌っていた。近づいて「写真を撮ってもいいか」と聞いたら、「Sure(もちろん)」と言われたのでパチリ。池を1周してまた彼のそばに行き、おもむろに1ドル札を彼に渡した、すると彼は「サンキュー」と言ってすぐにギターケースにしまい込んだ。「ヤンキースは屈託がないな」

 私のこういった行為には理由がある。コラムのネタ探しの一環なのだ。ロサンゼルス・タイムズのスティーブ・ロペスさんのことが浮かぶ。2009年に「路上のソリスト」と題した本を出版、同時に映画化された。コラムニストである著者のロペスさんが、ロサンゼルスダウンタウンのホームレスがたたずむトンネルで二本の弦のバイオリンでベートーベンの音楽を奏でるアフリカ系の路上生活者と出会う。その路上生活者の名前はナサニエル・エアーズで、かつて名門ジュリアード音楽院を統合失調症で中退した経歴を持っていた。

 ロペスさんは彼のことをコラムに書くことで、彼を援助するようになる。有名なチェリストのヨーヨー・マとも知り合いだが、病気ゆえに今ではホームレスの路上演奏家というところがドラマチックで人を引きつける。そこに目を付けたのがコラムニストの著者であった。ロペスさんは危険を冒してまでもコラムを完成するために彼の面倒を見た。

 ロペスさんはカリフォルニア州生まれの64歳で、サンノゼ州立大卒だ。2001年からロサンゼルス・タイムズのコラムや記事を書いている。小説も出版していて、ベストセラーにもなった。ピュリツァー賞や多数の賞を受賞した現役の記者である。もっと彼のことを研究したくなった。

(当銘貞夫、ロサンゼルス通信員)