「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」をご存じだろうか。2003年にできたわずか4条しかない法律だ。簡単に言うと、出生時に割り当てられた性別とは異なる性自認をもつ人(トランスジェンダー)が、法律上の性別を変更するための要件と手続きが書かれている。「性同一性障害」とは診断名である(異論もある)。この法律ができたことによって、法律上の性別を自分の自認する性別に変え、自認する性別で生きることが可能になった、非常に意味のある法律だ。性別変更の要件は五つ。(1)20歳以上であること(2)現に婚姻をしていないこと(3)現に未成年の子がいないこと(4)生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること(5)その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること−である。

 成立から14年を経た現在では(4)と(5)には特に大きな問題があるとされている。一つはこれだけの厳しい手術要件を挙げながら、保険の適用がないことだ。しかし、この点については改善に向けての議論が始まった。

 しかし、そもそも、保険適用を論じる以前に、子どもをもつ権利を強制的に奪う(4)の要件を課すことが許されるのかという問題がある。多くの国で同様の要件を課していたが、そもそも性自認は個人の問題であり、法律上の性別の変更には手術要件は不要で、手術は、自分の身体への違和感が強く、希望する人が受けられるようにするべきだと考え、手術要件を外す国も増えている。スウェーデンでは手術を強制してきたことを明確に間違いと認め、来年から性別変更のために手術をした人達への補償が始まる。「国として、こういった人達には子どもをもたせない」という考えは、長く続いた優生思想と源流を同じくするように思え、私には非常に恐ろしく感じられる。

(矢野恵美、琉球大学法科大学院教授)