安倍晋三首相は検察庁法を含めた公務員定年延長のための国家公務員法改正案を見直す考えを表明した。廃案に向けて調整しているという。検察庁法の改正案が世論の強い反発を受け、東京高検検事長だった黒川弘務氏が賭けマージャンの発覚で辞任に追い込まれたことが影響した。 国家公務員法改正案は「人生100年時代」に対応して高齢者雇用を推進するとうたった、安倍政権の看板政策だったはずだ。改正案から、多くの国民から抗議の声が上がった検察庁法だけを切り離せば、森雅子法相が両法案を「同一の趣旨、目的」と述べていた説明と整合性が取れなくなるとみたのだろう。

 首相は「新型コロナウイルス感染拡大で民間の方々が苦しむ中、このまま議論を進めるべきかという指摘があるのは事実だ」と強調したが、唐突な印象は否めない。見直しとはあまりに場当たり的ではないか。

 国家公務員法改正案は、国家公務員の定年を2022年度から2年ごとに1歳ずつ引き上げ、30年度に65歳とする。成立すれば国家公務員だけでなく、自治体がそれぞれ条例で定める地方公務員の定年にも波及するとみられている。人手不足が言われる中、高年齢の人材を活用する「旗振り役」を担う狙いがあるとされた。

 束ね法案とされた検察庁法改正案で問題なのは、検事総長や高検検事長らが「内閣が定める事由があると認められるとき」に最長3年の勤務延長や役職定年の延長も可能になる点だ。

 時の政権の意向で検察幹部の定年が延長され、役職にとどめることもできる。捜査権があり、政治家の犯罪も対象にする検察幹部が人事権を握られて、政権の顔色をうかがうようになれば三権分立は成り立たなくなる。その危機感から市民や検察OB、日弁連が反対を表明した。

 政府に求められるのは、検察官の定年・役職定年の延長を可能にする検察庁法の改正を断念することだ。その上で、現下の経済情勢なども踏まえた国家公務員の定年延長の在り方を議論すべきだ。

 森法相は黒川氏定年延長の理由を「重大かつ複雑、困難な事件の捜査・公判に対応するため、黒川氏の指揮監督が不可欠だと判断した」と述べた。しかし、賭けマージャンが発覚すると翌日には辞職を了承した。

 本当に「不可欠」であるのなら辞任によって不都合が生じるはずだ。説明には根拠がなく、恣意(しい)的な決定だったことが明確になった。首相は黒川氏の定年延長措置は適正だったと主張したが、それでは納得できない。

 コロナ禍で経済が急速に落ち込み、人手不足感は薄らいだというものの、高齢者の雇用制度を議論することは必要だろう。政府は検察庁改正法案を廃案とし、公務員の定年制について議論すべきだ。