赤い彼岸花が道ばたで揺れている。人はこんなにも忘れっぽいのに、季節の花はちゃんと咲く時季を知っている◆もともと原産の中国・揚子江(ようすこう)あたりから伝来したわずかな球根から株分けをくり返し、日本中に広がったのだという。彼岸のころ一斉に花をつけるのは、同じ性格が引き継がれたせいなのだろう◆種子が風に飛んで自然にさかえる草花と違って、彼岸花は人の手によって植えられたものである。むかしは害虫よけや土手が崩れるのを防いだり、飢饉(ききん)のときには非常食としても重宝されたというから、何げない道ばたの群生にも、先人たちの暮らしの記憶が息づいている。そう考えると、秋彼岸にあわせて花を咲かせることも深い意味のように思えてくる◆この4連休は、新型コロナの感染拡大でお盆に帰省できなかった家族が久しぶりに顔をそろえた家庭も多かったのではなかろうか。墓前で、仏壇の前で、いまはもういない人たちと語らう。どんなに平凡なことであっても本当は特別なことなんだと、亡き人たちは教えてくれる。はげましてくれる。そんな、いのちを浄化するひとときを過ごしたことだろう◆きょうは彼岸の中日の「秋分」。昼と夜が同じ長さで、太陽は真東から昇り、真西に沈む。この日を境に夜がだんだん長くなっていく。季節もまた、うつろうことを忘れない。(桑)