おいしく安く、手軽なことから地元住民に愛されている町のパン屋さん。スーパーやコンビニの台頭もあり、その数はじょじょに減りつつあるが、変わらぬ人気を誇っているお店も多い。今回は工場直売という、ちょっと変わった販売形態の町パンを紹介しよう。

もともとはパンの卸業者

ものを売る商店は駅前や商店街など、人通りの多い場所にあるものだが、町パンだと住宅街にもあったりする。それだけ、日常の生活に密着した食べ物であるからだろう。板橋区徳丸の『鈴木ベーカリー』も、東武東上線東武練馬駅から歩いて10分ほどの住宅街にある。

駅の北側にそびえるイオン。
駅の北側にそびえるイオン。

駅の北側に当たる徳丸というところは、今でこそイオンができて人の行き来も多いが、かつては工場や住宅ばかりだった。現在は工場は減ったが、新しいマンションや住宅が立ち並び、およそ商店がある雰囲気ではない。そんな路地をテクテク歩いていくと、唐突に『鈴木ベーカリー』はあらわれる。

もともと『鈴木ベーカリー』はパンの工場で、商売のメインは飲食店などへの卸し。そこがパンを売るようになり、その安さとおいしさから人気となったのだ。工場の多い土地柄なのだから、そもそも納得のいく立地なのだ。

工場の横。普通の出入り口でパンは売られる。
工場の横。普通の出入り口でパンは売られる。

息子の言葉でパンを作ることに

現経営者の鈴木敬利さんは2代目。初代の父親がやっていたのはパンの卸しだったが、敬利さんが小学校の卒業文集で「パン屋を継ぎたい」と書いたこともあり、卸すだけでなくパンを作ろうと決意。工場を作り、職人を雇い、『鈴木ベーカリー』を1976年に開業したのだ。敬利さんの言葉もあったのだろうが、いつかは自分でパンを焼いてお客様に届けたい、という思いもあったのかもしれない。

鈴木敬利さん。『鈴木ベーカリー』を継いでから42年。
鈴木敬利さん。『鈴木ベーカリー』を継いでから42年。

パンの直売を始めたのはだいぶ前なのだが、なにしろ業務用の高級パンを作っていたわけだから、味は上々。しかも直売のメリットで安いとあって、すぐに人気に。今でも販売を始めると、あっという間に行列ができるほどだ。

この日のスペシャル、チョコ入りコーヒーパン100円。
この日のスペシャル、チョコ入りコーヒーパン100円。
香ばしい風味のパンとチョコが絶妙に合う。
香ばしい風味のパンとチョコが絶妙に合う。

さて、安くておいしい『鈴木ベーカリー』のパンだが、その特徴はとにかく種類が多いことだろう。最初こそ食パンやロールパンなど店に卸すものを売っていたのだが、お客さんの「菓子パンも食べたい」という言葉でいろいろと作り始めたところ、どんどん増えていったのだとか。鈴木さんが言うには「1回、作るとやめられなくなっちゃうんだよね」とのこと。この優しさ、サービス精神も、人気の理由なのだろう。

トップの写真が焼きそばパン。これはその断面。
トップの写真が焼きそばパン。これはその断面。

そして、大量に作るという事情もあって、パンのほとんどが丸パンとなっている。町パンの定番である焼きそばパン120円も、丸パンの中に焼きそばが仕込まれていて、一見ではそれと分からない。同じ形なのに、ものすごいバリエーションがある。ズラッと並んだパンを見て、中身を想像していると、なんだかすごく楽しくなってくる。

並べられたそばから売れていってしまう!
並べられたそばから売れていってしまう!

工場直売は感謝の気持から

そして、食べてみるとすごくおいしいのだ。たとえば焼きそばパンの焼きそばは、具のない潔いもの。だけど、これがちょうどいい。パン生地自体がシンプルで上品な味わいなので、フィリングもシンプルなほうが、おいしさが際立つ。シンプルイズベスト。おいしさの原点を今さらのように思い出してしまった。

ポテトサラダパン80円もまん丸。
ポテトサラダパン80円もまん丸。

売られているパンは食パンから総菜系、甘いものまでさまざまなものがあり、さすがに一部しか食べていないが、どれを食べても間違いなくおいしかった。しかもそれらがみんな100円台前半、中には2桁のものもあるのだから、人気なのも当然である。

この日の作業を終えたパン工場。
この日の作業を終えたパン工場。

正直、店頭売りは、儲けがほとんど出ないという。それでも続けているのはこの住宅街で工場をやらせてもらっている、近所の人たちへの、感謝の気持ちもあるのだとか。取材中も、近所の人達が途切れなく、買いに来ていた。楽しそうにパンを選んでいる姿を見て、鈴木さんの感謝の気持ちは、確実にお客さんに届いているのだと思った。

『鈴木ベーカリー』店舗詳細

鈴木ベーカリー
住所:東京都板橋区徳丸1-17-9/営業時間:12:00〜20:00/定休日:土・祝前日

取材・文・撮影=本橋隆司(東京ソバット団)