川に寄り添う深川は、かの俳聖も住んだ町。名作『おくのほそ道』の、出発点の庵など、ゆかりスポット多い町。五七五も知らぬけど、脚力だけを頼りとし、ゆるゆる巡りて駄句を詠む。妄想吟行ひとり旅。

取材 ・ 文=自称 ・ 芭蕉の弟子 徒歩々

「感じたことを五七五にまとめるのは楽しい!」
「感じたことを五七五にまとめるのは楽しい!」
都営新宿線・森下駅構内には、さまざまな絵師が描いた芭蕉像が。
都営新宿線・森下駅構内には、さまざまな絵師が描いた芭蕉像が。

森下駅の改札を出た途端、バラエティ豊かな芭蕉宗匠のご尊顔がど〜んと待ち構えてて、もういきなり怯(ひる)むじゃないですか! どうか広い心でお願いしますと、新大橋通りから、万年橋通りを折れて、『芭蕉記念館』へ。玄関脇の植物はバナナじゃないんですね、バショウだそうです。でもこれが植わってた宗匠の庵(いおり)って、なんか南国ムードですねぇ。小さなお庭から見える隅田川テラス沿いに、宗匠の労作『おくのほそ道』をモチーフにしたアート作品と青空。お庭の池にはおたまじゃくしもいっぱい。なんか楽しい吟行(ぎんこう)ができそうですよ。

日差しから逃れ青葉の傘の下

五七五指折りながら歩く街

いよいよ大本山、萬年橋のたもと、芭蕉庵の跡です。まずは芭蕉稲荷神社で、どうか俳句が上達しますように! と、深々と頭(こうべ)をたれます。勉強より神頼みじゃ、ダメでしょうねぇ、スイマセン。芭蕉庵史跡展望庭園に上がって、面と向かって宗匠にご挨拶するのもおこがましいので、隅田川テラスから宗匠のお姿をそっと仰ぎ見て一句。

時空超え師の面影をたどる夏

宗匠の時代の木橋から、鉄橋になった今も美しい萬年橋を渡ります。清洲橋通り沿いの臨川寺には、宗匠も時折通ってたんですね。仏頂師とはどんなお話をしていたんでしょう?

すぐ脇の小径を抜け、清澄庭園の横を進んで清澄橋を渡って、仙台堀川沿いの遊歩道を歩きます。奥の細道で宗匠が作った名句の数々が並ぶ、芭蕉俳句の散歩道ですもん。桜並木の木陰が涼しいってのもありますけど、へへへ。誰もが知る名句居並ぶ道で一句とは失礼な!

「なかなか思い浮かばないものですな〜」
「なかなか思い浮かばないものですな〜」

俳句の散歩道のゴールは海辺橋。橋のたもとにある採茶庵(さいとあん)跡で旅支度の宗匠に会釈を。ここからみちのくに向かったんですね。でも自称弟子は、バナナジュースで一服します。2020年にオープンしたお店自体がかわいい清澄通りの『キイロイジュース』で、ご当地コーヒーを使った一杯を。バショウとバナナは親戚ですからね、俳句が上達するかも? しないか。宗匠の庵前にあったバショウの実も召し上がってませんか? してないか…。すぐ近所の紀伊国屋文左衛門之碑も詣でます。もしかして紀文大尽とお会いしてませんか? してないか……。

さて大団円は富岡八幡宮、広い境内の片隅に合祀された花本社(はなもとしゃ)を参詣。妄想癖のちゃらい吟行もどき、次は涼しい秋ですかね。あっ、もしかしたら破門ですか…、トホホ。

【採荼庵(さいとあん)跡】

この辺りに同時代の俳人で、芭蕉のパトロンでもあった杉山杉風(さんぷう)の庵室があった。奥の細道の旅に出る前、芭蕉庵を手放し、しばらく逗留した。その後、船で隅田川を上って千住大橋に向かった。

留まらず詠み続けよと教えられ

【芭蕉記念館】

松尾芭蕉に関する資料を収集展示する区営施設。ジュニア俳句教室など、文学の振興活動も行っている。建物前にはバナナそっくりな芭蕉の木が葉を広げ、コンパクトながら風情のある庭が玄関前に。

●9:30〜17:00、第2・4月休。☎03-3631-1448

【隅田川テラス】

隅田川沿いに続く遊歩道に並ぶ、巨大なアート作品『旅路 おくのほそ道』(彦坂和夫制作)は、2400㎞に及ぶ奥の細道の行程と、生まれた名句が描かれている。経年劣化による錆や汚れは、そのまま侘び寂びの境地を表すという。

【芭蕉稲荷神社】

大正6年(1917)の大津波の後、芭蕉が愛好した石造りの蛙が発見されたため、地元の人々の尽力で創建された稲荷神社。この地に芭蕉庵があり、孤独のうちに俳諧の精進を重ねた。小さな境内にはその蛙の石像や、「古池や蛙飛びこむ水の音」のスタンプもある。

【芭蕉庵史跡展望庭園】

隅田川と小名木川の分岐点にある高台の庭園。はるか彼方を見据える芭蕉座像は、閉園後には回転し、ライトアップするという、シュールな光景が展開される。真下の隅田川テラスには、芭蕉の句が刻まれた碑がある。

●9:15〜16:30。

【臨川寺(りんせんじ)】

当寺の仏頂禅師と芭蕉は親交深く、折に触れて参禅に訪れた。芭蕉門下の高弟が、師の十七回忌に京都の双林寺に建立した石碑を写し、模作した「墨直しの碑」がある。モダンな本堂のひさしに蛙のオブジェがしがみついている。

【萬年橋】

小名木川第1番目の橋。北斎の冨嶽三十六景や広重の名所江戸百景など多くの浮世絵にも描かれた。当時から隅田川の向こう側の新興町として人気で江戸切絵図にも載る深川名所。昭和5年(1930)竣工のアーチ橋の姿も美しい。

「萬年橋界隈はあちこちに蛙がピョンピョン…!」
「萬年橋界隈はあちこちに蛙がピョンピョン…!」

【芭蕉俳句の散歩道】

仙台堀川に架かる海辺橋から清澄橋の南岸に続く遊歩道に、奥の細道の有名句18作が、かわいいイラストと共に並んでいる。両岸は立派な桜並木が続き、花見時もいいが、緑濃き葉が茂る季節も美しい。

【キイロイジュース】

ストローレスのフタでプラゴミ削減に取り組んでいるバナナジュース専門店。選び抜いたバナナを使い、きな粉や青汁(写真)などのフレーバーもいっぱい。レギュラーサイズのコーヒー味580円は、地元のコーヒー店の豆を使用し2カ月ごとに豆を変える。バナナケーキ400円もぜひ。

●8:00〜18:00、月休。☎なし

【紀伊国屋文左衛門之碑】

芝居にもなった江戸の伝説的豪商は、晩年深川に住み、芭蕉の高弟・宝井其角と親交があった。1958年、木場で材木商を営む和歌山出身の人々が追善建立した。芭蕉とほぼ同時代なので、其角を通じて出会っていたかも?

【花本社(はなのもとしゃ)】

富岡八幡宮の一隅。寛政年間に当時の俳人有志たちが、芭蕉ゆかりの当地に建立した神社。後に京の公家・二条家から大明神の称号を贈られた。現在は多くの末社と合祀される。芭蕉は命(みこと)が付いて神になった。

社務所では『花本社の由来』500円も購入できる。
社務所では『花本社の由来』500円も購入できる。

構成=高野ひろし 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2021年7月号より