『散歩の達人 日帰り山さんぽ』より、旅先で気軽に楽しめる散歩コースを紹介。歩行時間や歩行距離も明記しておりますので、週末のお出かけにご活用ください。 正式名称は乾坤山。それがいつしか鋸山となった。1980年代まで山で石を切り出していたので、岩が露出して形が鋸の歯のようになったのだ。そのギザギザ頭の上に立ってみた。 <千葉県 冨津市・鋸南町>

◆散歩コース◆

体力度:★☆☆
難易度:★☆☆

  • 登山シーズン 3月〜6月、10月〜12月
  • 最高地点 300m(東京湾を望む展望台)
  • 歩行開始地点 7m(浜金谷駅)
  • 歩行時間 3時間35分
  • 歩行距離 約6km

千葉県は決して山岳不毛地帯ではない。峻厳(しゅんげん)なる伊予ヶ岳や、その近くには富山、そしてこの鋸山もある。問題は他県に比べると標高がほんの少し低い、というだけの話ではないか。

鋸山は山の岩を切り出したことで、山の稜線や山容がギザギザの鋸状になったためにそう呼ばれるが、本名は乾坤山(けんこんざん)。実に立派な山名である。

車力道から展望台へ

鋸山へのアクセスは東京、神奈川からなら高速バスか電車利用、旅情を味わうならフェリーで行くこともできる。今回は電車で浜金谷駅からのスタートに。山頂へはロープウェーを利用すればひとっとびなのだが、それは帰りに利用することにして、登るルートは車力道(しゃりきどう)。これは鋸山から石を切り出していた頃に石を山から下していた道で、石を載せた荷車のブレーキ跡が、いまだに道に残っている。鋸山から切り出した石は金谷石(かなやいし。房州石<ぼうしゅういし>のひとつ)と呼ばれ、最良質の石として、江戸時代末期から、戦後の1985年頃まで切り出されていた。

その石を運んだ道を上がる。一カ所、石が敷き詰められた道に荷車の轍(わだち)の跡がたしかに残っていた。石を運ぶのは主に女性の仕事だったようだ。

車力道をおよそ1時間上がると、目の前に垂直の岩肌。石切り場跡だが、まずは今日最高峰の、東京湾を望む展望台へと上がることにする。急な階段を上がって行くと、本当の鋸山山頂との分岐(ロープウェーのところにも山頂のような表示があるが、そこは山頂ではない)。展望台はすぐ上で、東京湾の絶景が広がっていた。金谷と久里浜を結ぶフェリーも見える。これぞ低山の名峰。

鋸山、なかなかのものである。

ローブウェー山頂駅の展望台から保田の海岸線を望む。
ローブウェー山頂駅の展望台から保田の海岸線を望む。
東京湾を望む展望台からの眺め。金谷の街と久里浜を結ぶフェリーが見えた。これぞ低山の名峰。
東京湾を望む展望台からの眺め。金谷の街と久里浜を結ぶフェリーが見えた。これぞ低山の名峰。

また急な階段を下りて石切り場跡へ。高さ80mという垂直の切り出し跡のある岩肌は圧巻。それも見事に垂直に切れるものだと感心してしまう。最盛期は金谷の8割の人が石切りの仕事に従事していたという。

高さ30mの百尺観音。戦没者、交通事故の犠牲者の供養のために1960年代に石切り場跡に彫られた。
高さ30mの百尺観音。戦没者、交通事故の犠牲者の供養のために1960年代に石切り場跡に彫られた。

アドバイス

鋸山の本当の山頂は「東京湾を望む展望台」の先にある。山頂はほとんど展望がないが、興味のある人は行ってみよう。その尾根に出る前の階段が急なので要注意だ。

地獄のぞきから100m真下を望む。

石切り場から先へ進み、管理所で拝観料を払って日本寺の境内へ入る。高所恐怖症でなくても足がすくむという地獄のぞきへ。突き出した岩から100m下方を望めるという。

 

鋸山では一番有名な地獄のぞき。100m真下が覗ける高所恐怖症泣かせの名所。
鋸山では一番有名な地獄のぞき。100m真下が覗ける高所恐怖症泣かせの名所。

千五百羅漢が奉納されている道を下って行く。正確には1553体の石仏が道脇に残されている。江戸時代に21年かけて刻まれた石仏群である。

千五百羅漢といわれる石仏群が凄い。江戸時代後期に21年かけて作られたもの。
千五百羅漢といわれる石仏群が凄い。江戸時代後期に21年かけて作られたもの。

次は高さが31mという大仏像へ。これは岩山を3年かけて彫刻したもので、奈良や鎌倉の大仏などとは造りが違うが、大きさはこちらが上。世界平和を祈願しているという立派な像である。御利益も大きいかもしれない。境内にはほかにもいろいろ見どころがあるが、あまり山歩きには関係ないので、パスしてロープウェー乗り場へと向かった。

日本寺にある高さ31mの大仏。1783年に彫刻され、1969年に修復された。
日本寺にある高さ31mの大仏。1783年に彫刻され、1969年に修復された。

下山はたったの5分。早いものである。

山歩きメモ

車力道を使わず、観月台コースで行くこともできる。少し距離は短い。また下山を浜金谷駅ではなく日本寺から保田駅のほうに下ることもできる。車道歩きが長くなるが、保田の海岸線を見ながら歩けるのが魅力。

石切り場跡

まるで芸術作品のような石を切り出した跡

江戸時代から1985年まで石を切り出していた場所。切り出された金谷石は主に建築用で、家屋、塀や門柱のほか、お台場の砲台などにも使われた。凝灰岩で、耐火性が高い割に加工がしやすいとか。一番高いところは96mほどの絶壁になっている。

 

房州大福温泉 かぢや旅館

昔は石切りの道具を作り、今は海の幸を振舞う宿として有名

鋸山の麓にある旅館で、日帰り入浴ができる。創業は1854年、最初は鋸山で使う石切りの道具を作る鍛冶屋だったそうで、その後に旅館に転業した。地元金谷漁港で獲れた新鮮魚介の宿として知られ、秋から春先は、名物タカアシガニ料理を食べられる。

●12:00〜19:00、料金700円。不定休。JR内房線浜金谷駅から徒歩5分。☏0439‐69‐2411。

取材・文=清野編集工房
『散歩の達人 首都圏日帰りさんぽ』より