商店にとって「シャッターが閉まっている」という状態は、あまり望ましいことではないのではないだろうか。空き店舗が目立つ衰退した商店街を「シャッター通り」と呼ぶように、そこには一抹の寂しさが付きまとう。 しかし、そのシャッターに絵が描かれている場合はどうか。寂しげなシャッターが一転、華やかな壁画に早変わりする。そうした街のシャッター絵を鑑賞してみよう。
シャッターはそのお店の空気をあらわすか
まず、その商店に関連する絵が描かれている場合はわかりやすい。たとえば新宿の中華料理店のシャッターには、おいしそうな料理の絵が描かれていた。

また東中野の薬局には、ピョンちゃんやケロちゃん、サトちゃんといった製薬会社のキャラクターが勢ぞろいしている。

奈良のバイク店のシャッターには、80年代風のペンギンがスズキのバイクにまたがる姿が描かれ、店の業種のみならず雰囲気までも感じ取れるようになっている。

これらキャラクター躍動型のシャッターは、業種に関わりなく見ることができる。



大抵は開店時の店の雰囲気に合ったキャラクターが描かれるが、BOØWYのメンバーが描かれた赤羽の居酒屋は、開店時の居酒屋然とした佇まいからはシャッターの絵柄は想像がつかず、ギャップを楽しむことができる。

加速するシャッターの芸術性
風景画のようなシャッターもあり、大きなサイズになると緞帳や襖絵を彷彿とさせるものもある。


東大阪で見たホテルの案内所のシャッターには、一面の夜景を見ながら温泉につかる人たちが描かれていた。

しかし右下に小さく「これはイメージ画です。湯舟から夜景はご覧になれません」と但し書きがされており、制作者の律儀な性格が垣間見えるようであった。

こうしたシャッター絵を見ていくうちに、多くのシャッターには制作者のサインが入れられていることに気が付いた。


「壁画の会」や「東京デザイナー学院」など、明らかにシャッター絵をアートとして捉えていることがわかる作り手である。商店街を盛り上げる目的で「シャッターアート」に力を入れている自治体は各地にあり、たとえば足立区では、区内の高校生が夏休みを利用して商店のシャッターに絵を描く取り組みが行われてきた。

そのシャッターアートを小学生が手掛ける場合、より絵柄は素朴に、力強いものになっていく。

目黒区八雲の氷川神社の裏手に並ぶ倉庫のシャッターには、「町を飾ろうプロジェクトの一環として、八雲小学校の児童に絵を描いてもらう」という趣旨の張り紙があり、一面に草木や海の生物の絵が広がっている。


確かに無機質な無地のシャッターが連なるよりは、より街が楽しく華やかになっている。
シャッター鑑賞に於ける大問題
今後もこうしたシャッター絵は増えていくことが予想され、それはとても楽しみなのであるが、一つ問題がある。それは「店が開いている時にはシャッターが見られない」ということだ。しかも大抵の店の閉店後は夜であり、肝心のシャッター絵が見づらい。開店前の時間を狙って、早朝の商店街さんぽをする気力があるかどうか、自らの気力体力に問い直してみたいところである。
絵・写真・文=オギリマサホ
オギリマサホ
イラストレータ―
1976年東京生まれ。シュールな人物画を中心に雑誌や書籍で活動する。趣味は特に目的を定めない街歩き。著書『斜め下からカープ論』(文春文庫)。