コロナ禍でおあずけになった楽しみは、酒場に旅行にコンサートに……と数えきれないほどあるけれど、そのひとつが「祭り」じゃなかろうか。ここ2年間は全国で伝統行事が相次いで中止。例年通り楽しむことができた催しはほとんどなかったのではないかと思う。 “コロナ3年目”になる2022年は、京都祇園祭の山鉾巡行が決まっていたり、5月には浅草・三社祭で神輿が担がれたりと、少しずつ復活の兆しが見えてきた。東北を代表する「青森ねぶた祭」も、3年ぶりの開催が決まったらしい……と、そこへ一味違うニュースが舞い込んだ。『星野リゾート 青森屋』のショー会場「みちのく祭りや」がリニューアルオープンしたのだという。なんでも、ねぶた師が手掛けた作品が登場する大迫力のショーなんだとか。 よくわからんがすごく気になる! というわけで、東北新幹線に飛び乗って青森県へ向かった。

『星野リゾート 青森屋』とは

湖と見紛う大きな池。(写真提供=星野リゾート)
湖と見紛う大きな池。(写真提供=星野リゾート)

すでにお宿のことはご存じという方も多いかもしれないが、改めてご紹介しよう。青森県三沢市にある『星野リゾート 青森屋』は、「のれそれ青森 〜ひとものがたり〜」がコンセプトのお宿。「のれそれ」というのは「目一杯」という意味の方言で、つまりは「青森文化を思う存分満喫できる」というわけ。今回リニューアルオープンしたという「みちのく祭りや」もそんな青森を体感できる催しのひとつなのだ。

緑に囲まれた約22万坪(!)の敷地には、湖と見紛うばかりの大きな池や古民家があり、その脇を馬車がのんびり進む……という絵に描いたような世界。しかも、これが青い森鉄道の三沢駅からは徒歩15分程度というアクセスのよさにも驚かされる。

玄関ではポニーがお出迎え。めんこい!
玄関ではポニーがお出迎え。めんこい!

今夜は寝かせないぜ! ねぶただらけの「ねぶたの間」

しかし、のれそれ(目一杯)青森、というのはどれほどのものか。まあ、青森産のおいしいものがいただけるのかな……なんて思っていると、どこからか視線を感じる気がする。見回せば、こちらを鋭くにらむ目が。

とある客室の扉。これは……!
とある客室の扉。これは……!

扉を開けると、思わず歓声を上げてしまった。いきなり、高さ約2mのねぶた絵が目の前に現れるからだ。

初っ端から迫力満点!
初っ端から迫力満点!

すっかり圧倒されてしまうが、これはまだ入り口。部屋の奥へ進むと、こちらを見下ろす立体ねぶた、障子にもねぶた、天井にもねぶた……まるで別の世界に迷い込んでしまったかのような空間が広がっているのだ。

ちなみにテレビもねぶた絵のパネルの裏に隠れている。
ちなみにテレビもねぶた絵のパネルの裏に隠れている。
こんなドラマチックな寝室があっていいのか!?
こんなドラマチックな寝室があっていいのか!?

この部屋は「青森ねぶたの間」。言わずもがな、青森ねぶた祭をテーマにした客室だ。ねぶたは多数の賞を受賞しているねぶた師・竹浪比呂央氏の協力のもと制作されたもので、古代東北の3人の英雄が題材になっている。こりゃ落ち着いて寝られやしないぜ〜と思っていたら、部屋の売り文句がまさに“寝かせない客室”! ねぶたの迫力を全身に浴びながら過ごす一夜というのは、誇張でもなんでもなく、日本でここでしか体験できないだろう。

お風呂もねぶた。抜かりない!
お風呂もねぶた。抜かりない!
入り口から部屋に続く廊下は「跳人(はねと)ロード」。床の足跡に合わせてぴょんぴょん跳ねれば、あの「ラッセラー!」ができる。
入り口から部屋に続く廊下は「跳人(はねと)ロード」。床の足跡に合わせてぴょんぴょん跳ねれば、あの「ラッセラー!」ができる。

いざ、気になるショー「みちのく祭りや」へ

部屋のねぶたにすっかり酔いしれてしまったが、今回のお目当ては「みちのく祭りや」(1500円〜、席により異なる)。いそいそと会場に向かうと、こちらも入り口が既にすごい。

通路の両脇に、ねぶた師の立田龍宝(たつたりゅうほう)氏がデザインを担当した木製の切り絵が並ぶ。
通路の両脇に、ねぶた師の立田龍宝(たつたりゅうほう)氏がデザインを担当した木製の切り絵が並ぶ。
階段の先には、「青森ねぶたの間」と同じく竹浪氏が手掛けた立体ねぶたも展示されている。
階段の先には、「青森ねぶたの間」と同じく竹浪氏が手掛けた立体ねぶたも展示されている。

202席ある客席は指定席だが、立体的な構造になっていてどこからでも難なくステージが見える。公演開始前のステージはシンプルかつ空っぽで、これがどうなるのか……と期待が膨らむ。

公演スタート。語り手が登場し、影絵を使った演出で早速引き込まれる。
公演スタート。語り手が登場し、影絵を使った演出で早速引き込まれる。

このショーは青森四大祭りである「青森ねぶた祭」「弘前ねぷたまつり」「五所川原立佞武多」「八戸三社大祭」をテーマにしたものだというが、それぞれの祭りの簡易版が舞台上で再現されるものとか思っていると見事に予想を裏切られる。映像や照明を活かした演出が次々と繰り広げられ展開していくからだ。

津軽三味線の音色に聴き入る冒頭のシークエンス。
津軽三味線の音色に聴き入る冒頭のシークエンス。
固唾を飲んで見守るような緊張感あるシーンも。
固唾を飲んで見守るような緊張感あるシーンも。
東北沿岸部の伝統芸能「虎舞」も登場。
東北沿岸部の伝統芸能「虎舞」も登場。

人々が厳しい冬を耐え、春の訪れを喜び、夏にエネルギーを爆発させる……という構成は、祭りに情熱を注ぐ青森の人々の1年そのもの。最終的にはステージ上に3つの山車が現れ、そこに跳人や囃子方も加わって盛り上がりは最高潮に達する。

ステージ中央で燦然と輝く、北村麻子氏の「神武東征」。これが現れたときの、会場全体が「!」と息を飲むのが手に取るように感じられる。
ステージ中央で燦然と輝く、北村麻子氏の「神武東征」。これが現れたときの、会場全体が「!」と息を飲むのが手に取るように感じられる。
観客の一部も加わって一緒に「ラッセラー!」をやるというくだりも。
観客の一部も加わって一緒に「ラッセラー!」をやるというくだりも。

大満足の公演は約1時間で幕を閉じる。聞けば、出演者はみな『青森屋』のスタッフで、普段はフロント等の業務をこなしつつショーの練習に励んでいるんだとか! お客さんに祭りの熱気を感じ楽しんでもらいたいという思いがやけにビシバシと伝わってきたのは、そういうわけだったのか……と、充実した気分で部屋に戻った。

終演後には、舞台上の山車を間近で見られる。
終演後には、舞台上の山車を間近で見られる。

七子八珍会席、金魚ねぷたに八幡馬

ついつい祭りに関することばかり書いてしまったけれど、もちろんお楽しみはそれだけじゃない。ご飯も、アクティビティも、これでもかというほどぜいたくな“青森づくし”だ。

青森のかつての“暮らし”が垣間見えるのが、本館から徒歩数分の古民家レストラン「南部曲屋」。南部曲屋(なんぶまがりや)というのは、人と馬が共に生活をしていたときの建物で、L字型に造られた母屋から馬屋にいる馬がいつでも見えるようになっている、というもの。この建物は、実際に青森県南部にあった建物を移築したもので、広々としていて趣きがあり、窓からは池も見える。

入り口すぐには、囲炉裏のある空間も。
入り口すぐには、囲炉裏のある空間も。

ここで夕食にいただいたのが「七子八珍会席」。七子八珍(ななこはっちん)というのは青森で古くから伝わる魚介類の総称で、「七子」はタラコ、スジコ、タコノコなどの魚卵七品、八珍はクリガニ、ガサエビ(シャコ)、ナマコ、ウニなどの珍味八品を指す。飲んべえなら既にお気づきかと思うが、こいつら、否応なくお酒が進んじゃうメンツなのだ。

七子八珍盛り合わせ(手前)と、牛肉と野菜の焼き物(左)、そしていちご煮(右奥)。
七子八珍盛り合わせ(手前)と、牛肉と野菜の焼き物(左)、そしていちご煮(右奥)。

お椀のいちご煮は八戸周辺の郷土料理で、具はなんとアワビとウニ!! 黄金色のウニの姿が野いちごみたいに見えることから名付けられたらしい。こんなぜいたくなお吸い物のくせして「いちご煮」とは、奥ゆかしいというか風流というか……。

この乳白色の汁がまた出汁が効いてて「くう〜!」となる。
この乳白色の汁がまた出汁が効いてて「くう〜!」となる。

同じく「南部曲屋」でいただいた翌朝の朝食は「古民家のふるさと御膳」。素朴な和食かしらと思いきや、こちらも魚介ふんだんで夕食に負けず劣らず豪勢なのだからもうお手上げだ。

ホタテの貝殻を模した土鍋でグツグツ煮える、郷土料理「味噌貝焼き」。
ホタテの貝殻を模した土鍋でグツグツ煮える、郷土料理「味噌貝焼き」。
「ねぶた漬け」などの小鉢。こういうのってご飯が進むのよね。
「ねぶた漬け」などの小鉢。こういうのってご飯が進むのよね。

食事だけではない。6月からは「しがっこ金魚まつり」なるものが始まっている。青森では夏祭りの時期に街に飾られる「金魚ねぷた」という灯篭があり、そこから着想を得た夏のイベントだ。実際に金魚すくいができる屋台に、金魚すくいのポイがおみくじになっている「ポイみくじ」550円、さっぱりしたカシスシャーベットの「金魚ねぷたアイス」990円の提供など目白押し。浴衣の貸し出しもあるというから、気分は完全に夏祭りだ。

ポイを水につけると……!?
ポイを水につけると……!?
シャーベットとりんご、飴細工で金魚ねぷたが表現されている「金魚ねぷたアイス」。
シャーベットとりんご、飴細工で金魚ねぷたが表現されている「金魚ねぷたアイス」。

このほかにも、通年でほたて釣りができたり、りんごジュースが出る蛇口なんていうロマンあふれるものも常設されていたりと、楽しみに事欠かない。

わが家にもつけたい、この蛇口……。
わが家にもつけたい、この蛇口……。

青森の伝統工芸品「八幡馬」がテーマになっている場所もある。それが、本館から徒歩すぐ、池のほとりにある「八幡馬ラウンジ」だ。木製の八幡馬のほか、照明や掛け軸も伝統工芸品という空間で、テラス席は風がなんとも心地よい。ここで池を眺めながらお茶したりスイーツをいただいたり、という時間の過ごし方もよさそうだ。

緑の中にたたずむ「八幡馬ラウンジ」。
緑の中にたたずむ「八幡馬ラウンジ」。
夏限定の「大人の日本酒ゼリー」は、地酒の香りとりんごジュースのマッチングが絶妙。
夏限定の「大人の日本酒ゼリー」は、地酒の香りとりんごジュースのマッチングが絶妙。

このほか、風鈴の涼しげな音を聞きながら馬車で池のほとりをぐるりと一周お散歩する「しがっこ風鈴馬車(夏期間限定)」もあり、馬が身近にいた暮らしの一部を体験できる。

働き者だねえ。
働き者だねえ。

また来なくちゃ……と心に決めた帰り道

全身で浴びるように“青森”を満喫した1泊2日。大満足なのだけれど、それだけではない、もうひとつの思いがむくむくと頭をもたげる。それは、今年の「ねぶた祭り」に行かねば!ということだ。

実は筆者、お恥ずかしながら「青森ねぶた祭」も「弘前ねぷたまつり」も未体験。長年、行ってみたいとは思いつつ、東京からの距離もあってなかなか重い腰が上がらなかった。しかし、この『星野リゾート 青森屋』でその魅力を垣間見てしまった今、迷いや躊躇いはどこへやら、何が何でも本物も見たいという気になってしまったのだ。

「ねぶたは3年ぶりの開催なので、今からそわそわしています」と、うれしそうに話す「みちのく祭りや」演者の木田さん。なんだかこっちまでわくわくしてきた! また夏に行きます!

星野リゾート 青森屋
住所:青森県三沢市字古間木山56/アクセス:JR八戸駅から車で約40分、三沢空港から車で約20分

取材・文・撮影=中村こより(編集部)

散歩の達人/さんたつ編集部
男女8人
大人のための首都圏散策マガジン「散歩の達人」とWeb「さんたつ」の編集部。雑誌は1996年大塚生まれ。Webは2019年駿河台生まれ。年齢分布は26〜55歳と幅広い。